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第十六章

ノック

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 ジジイが籠もった小部屋があるのは、傾斜路出口から三十メートルほど離れたところ。

 僕たちはその反対側の小部屋に陣取り、そこからドローンを放って第四層の偵察を続けていた。

 ドローンから送られてきた映像は、六体のミニPちゃんがプロジェクションマッピングで壁に映し出している。

 本体のPちゃんは、部屋の奥で床に座り込んでいた。

 何もしないで座り込んでいるように見えるが、そこで六体のミニPちゃんをコントロールしているという事になっているのだが……

 それにしても、牧歌的な光景だな。

 第四層は通路や小部屋だけでなく、直径三十メートルほどの円形の広場が五つあった。

 地下施設の床は、通路も小部屋もタイルが敷き詰められていたが、円形広場だけは中央に土が盛られ牧草が繁茂している。

 その牧草を、ヒツジやヤギが食べていた。

 血なまぐさい戦いとは無縁の平和な光景。

 この戦いが終わったら、ヒツジでも飼って平和に過ごすのもいいかな。

 小部屋の扉がノックされたのは、そんな妄想を浮かべているときの事。

「誰だ?」

 扉の向こうから返事はない。

 ただ、ノックはいつまでも続いている。

 小部屋の中を見回した。

 小部屋の中にはミールとPちゃん、それにキラ、ミク、ミーチャに変装したアンドロイド、そしてロボットスーツをまとった僕と芽依ちゃん、橋本晶がいる。

 地下施設に入ったメンバーは全員ここにいた。

 ジジイをのぞいて……

「ルスラン・クラスノフ博士なら、まだ正面の小部屋に居ます」
「芽依ちゃん。なんで分かるの?」
「博士が山頂基地で気絶している間に、体内にチップを打ち込んでおきましたので」

 なるほど。

「しかし、ジジイではないとすると……」

 帝国兵か?

 しかし、扉に仕掛けたカメラには何も映っていない。

 カメラの範囲外にいるようだ。

 しかし、扉をノックし続けるとなると、カメラの範囲から出られない。

 いや、身長の低い子供ならカメラの範囲外だ。

 あるいは大人が座り込んでいるのか?

 そうだとしても誰だろう?

 山頂基地から誰か来たのか?

 と思って問い合わせてみたが、アーニャもレイホーも山頂基地にいた。

 馬美玲だけは、ヘリで《海龍》へ食料を取りに行っているらしい。

「そういえば、そろそろお腹が空きましたね」

 そう言って橋本晶は日本刀を抜いた。

 何をするつもりだろう?

「隊長。私は、ちょっと外へ食料調達に行ってまいります」
「え? 食料なら携行食が……」
「現地調達できるなら、それに越した事はないでしょう」
「まあ、そうだが……」

 調達って? 何を調達する気だ? まさか!? いや、その前に……

「待て。今、扉の外に誰かいるのだぞ」
「大丈夫です。新聞の勧誘なら『ネットがあるからいらない』と言っておきます。宗教なら『うちは仏教だ』と言って追い払います。受信料の集金なら『口座引き落としにしている』と言ってお引き取り願います」

 いや、この惑星にそんなのはいないから……

 レム教の勧誘はありそうだが……

「いや、そうじゃなくて敵かもしれないだろう」
「敵なら、切り捨てればそれで済む事です。なにも悩む事はありません」

 そう言って橋本晶は扉を開く。

「おお!」

 扉を開くなり、彼女は感嘆の声を上げる。

 何が居たのだ?

「まさか、そっちから来てくれるとは!」

 扉の隙間から、白い小さな生き物が入ってくる。

「メェェェ」

 子ヤギじゃないか。扉を叩いていたのはこいつか。

 脅かしやがって……

「まあ、可愛い」

 芽依ちゃんが目を輝かせて子ヤギを見つめる。

「ユキちゃんみたい」

 ユキちゃん? ああ! 確かハ○ジが可愛がっていた子ヤギがそんな名前だったな。

 その時、橋本晶は満面の笑みを浮かべて振り返った。

「隊長。喜んで下さい。食料の方から来てくれました」

 ちょっと待てい! それを食う気かあ!? 
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