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第十六章

地道な修復作業

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 第四層にドローンを送り込んだところ、多数の熱源体を感知した。

 しかし、近づいて映像で確認してみるとヒツジやヤギなど動物ばかり。

 捕虜の分身体から聞き出したところ、地下施設内に動物をばらまいたのはカルル・エステスの指示らしい。

 動物を使って、こちらの熱源体探知を混乱させたいようだ。

「この中に、人間が混ざっているかもしれませんね」

 芽依ちゃんは、第四層に入るなり油断なく銃を構える。

「森田さんの言うとおりですね。私がカルル・エステスさんなら、この中に狙撃兵を混ぜます」

 このまま入っていくのも危険だな。

「よし。いったん近くの小部屋に陣取り、ドローンによる偵察を続けよう。第四層を抜けるのは、安全が確認できてからだ」

 さて、どこの小部屋を使うか?

 それにしても……

「ここは、ずいぶんと明るいな」

 第一層から第三層までは暗闇だったので、帝国軍も僕らも電灯やカンテラなど自前の光源を用意していた。

 ところが第四層は、高さ五メートルほどの天井から謎の光源によって照らされている。

 恐らくタウリ族の技術だと思うが……

 レイラ・ソコロフの話では、ここの電気設備は三十年前に電磁パルス攻撃を受けて破壊されたはず。

 帝国軍に、それが修理できたとは思えない。

「別に驚くことではないぞ」

 その声は、僕の背後から……

 振り向くと、ジジイがいつの間にか背後に立っている。

「ジジイ付いてきたのか。ミールたちと一緒に、傾斜路で待っていろと言っただろう」
「わしを止めることなど、誰にもできぬわ。まあ、あそこにおっても良かったのじゃが、ちょっと気になることがあってのう」
「気になること?」
「おぬしも不思議に思うじゃろう。第四層がこんなに明るい事に」
「ああ」

 捕虜の話では、第四層に最初に入った頃はやはり暗闇だったという。

 それが暫くすると、端っこの方から明かりが点いていき、今では第四層の七割の区画に明かりが灯っているらしい。

「以前にわしが、タウリ族のスーホに会った事は話したじゃろう」
「ああ」
「スーホの話では、この施設はタウリ族が放棄した後もロボットによるメンテナンスが続いていたそうじゃ」
「だけど、そのロボットも電磁パルス攻撃で破壊されたのだろ?」
「スーホの話では、ロボットが一体でも残っていれば、地道に時間をかけて施設を修理していくじゃろうと」
「なんだって? じゃあ、たった一体のロボットが三十年かけて、ここまで修理したというのか?」
「おそらく最初は一~二体だけじゃったが、途中で仲間を増やしていったのじゃろうな。わしが最後にこの施設に入ったのは五年前じゃが、その時には第七層の光源だけが回復していた。今は第四層が修理中なのじゃろう」

 気の長い話だ。

「しかし、ロボットが活動するにはエネルギーが必要だろう? それにこの明かりにも」
「この施設の最下層に、相転移ジェネレーターがあるらしい。わしらはそんな物があるとは知らずに、第一層に核融合炉を置いていたのじゃ」
「相転移だと!? タウリ族は、真空からエネルギーを取り出せるのか?」
「らしいな。わしもスーホから聞いただけじゃ」
「しかし、タウリ族はそんな膨大なエネルギー源を何に使っていたのだ?」
「ワームホールを開くのに使っていたらしい」
「ワームホールだと!?」
「別に驚く事ではあるまい。地球でも二十一世紀の終わり頃には、ワームホールを開くことに成功している」
「それもそうか」
「ただし、地球の技術ではワームホールの接続先を自在にコントロールできなかったがの」
「タウリ族は、ワームホールの接続先をコントロールできたのか?」
「そうらしい。どうやっていたのか分からんが」

 一説によればワームホールを最初に観測した人の思いによって、接続先が決まるとも言われているが、人の思いが物理現象に影響するなんて事が……ん?

「ジジイ。この施設って、プシトロンパルスを遮る事ができるのだよな」
「ん? そうじゃ。それがどうかしたか?」

 プシトロンパルスを使えば、人の思考が物理現象に影響を及ぼせる。

 もし、ワームホールがプシトロンパルスの影響を受けているとしたら……

「プシトロンパルスを遮る物質でこの施設を覆ったのは、ワームホールの接続先をコントロールするのに必要な事だったからじゃないのか?」
「なに?」

 そう言ってジジイは暫し考え込んだ。

「おお!」

 突然、大声をあげる?

「その可能性があったわ」

 ジジイはそのまま近くの小部屋の扉を開いた。

「わしは暫くここに籠もって考え事をしているから、邪魔をするなよ」

 え?

 そのままジジイは扉を閉じた。
 
 まあ、中で大人しくしてくれるなら、それに越した事はないわけだが……
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