692 / 848
第十六章
偶然だよ
しおりを挟む
屍の山を築きながら、僕たちは第三層へと続く傾斜路の前で合流した。
僕らの通り過ぎた後に、捕虜以外に生きている者はいない。
百人近い大虐殺。
三人とも、死んだら地獄行き確定だな。
「二人とも無事か?」
「ええ」「大丈夫です」
身体は無事だけど、メンタル面では結構きついだろう。これだけ殺しては……
「捕虜は?」
「二人ほど峰打ちで倒しました」「すみません。戦いに夢中で、捕虜は……」
橋本晶は、引きずってきた二人の男を床に投げ出した。
男たちは、二人とも意識が無いようだ。
「そうか。僕は五人ほど捕まえた」
僕は後ろを向いて、ワイヤーガンのコマンドを唱える。
「ウインチ スロースタート」
左腕のワイヤーが低速で巻き戻されていく。
やがて、手錠をかけられてワイヤーに繋がれた五人の捕虜たちが、引きずられるようにこっちへ歩いてきた。
先頭の女性兵士が、催涙剤を浴びて真っ赤に腫らした目で涙を流しながら、悔しそうに僕を睨みつけている。
無言だが、その目は『く! 殺せ』と言っているような……ん? なんか芽依ちゃんと橋本晶の視線が冷たいような気が……
「北村さん」「隊長」
「なんだい?」
「「なんで捕虜は、女の子ばかりなのですか?」」
だって、女の子殺したくないもーん。
「あれ? 言われてみれば、みんな女性兵士ばかりだな。まあ、偶然だよ」
「偶然ですか?」「帝国軍の女性兵士の割合は、一~二パーセントぐらいだったかと……」
「偶然だって……」
誰がなんと言っても偶然だよ。
催涙剤を浴びて苦しんでいる帝国軍兵士の中から、男だけ選別して殺していったのも偶然。
女性兵士だけ選んで手錠をかけてワイヤーガンのワイヤーに繋いだのも偶然だよ。
どう見ても偶然だろ。
「リトル東京の喫煙所で、よくカルル・エステスさんが言っていたのですが……」
ん?
「北村さんは、ムッツリスケベだと」
なぬ!? カルルの奴、そんな事を……
「もちろん、私はそんなことはないと思っていましたが、この様子を見ると、どうやらカルル・エステスさんが言っていたことも、あながち……」
「んな事はない!」
「違うのですか?」
「確かに女性兵士だけ殺さなかったが、僕が彼女たちに悪さをするとでも思っているのか?」
その時、さっきから僕を睨みつけていた女性兵士が帝国語で叫んだ。
間をおかずに翻訳ディバイスから、その日本語訳が流れる。
「殺すなら殺せ! おまえ達に、この身を汚されるぐらいなら死を選ぶ!」
橋本晶が彼女を指さす。
「ああ言っていますが、汚しますか?」
「やらねえよ! てか、ジュネーブ条約違反だろ!」
不意に橋本晶がバイザーをパカっと開く。
その顔はニヤニヤ笑っていた。
「冗談ですよ。そんなムキにならないで下さい」
からかわれていたのか。
「そういう反応は、前の隊長と同じで可愛いですね」
年上の男に『可愛い』とか言うな!
ん? 急に彼女が涙を流し始めた。
慌ててバイザーを閉じるが、どうしたんだ? あ!
「橋本君。催涙剤の影響が、まだ残っていたんだろ?」
「ふいましぇん。忘れてましゅた」
つくづく、致死性ガスは使わなくてよかった。
通信機から呼び出し音が鳴ったのはその時。
通信相手はミール。
「ミール、どうだった?」
『カイトさん。第二層に分身体を送り込みましたが、何も問題ありません』
第一層と第二層の間には、プシトロンパルスを遮るものはないようだ。
「分かった。第二層はまだ、催涙剤の影響が残っているから、降りてくるのはもう少し待ってくれ」
『はーい』
さてと……
橋本晶の方を振り向いた。
ヘルメットを外そうとしているのを、芽依ちゃんに止められている。
「放しちぇ! 森田しゃん! 目がひたいの!」
「落ち着いて下さい。今、ヘルメットを外したらよけいヒドくなりますよ」
やれやれ……
今から第一層に戻るのも大変だな。
僕は第三層へ続く扉を開く。
傾斜路なら、まだ催涙剤は入り込んでいないだろうと思って、橋本晶を連れて入るつもりだったのだが……
そこにそいつらが待ちかまえていた。
僕らの通り過ぎた後に、捕虜以外に生きている者はいない。
百人近い大虐殺。
三人とも、死んだら地獄行き確定だな。
「二人とも無事か?」
「ええ」「大丈夫です」
身体は無事だけど、メンタル面では結構きついだろう。これだけ殺しては……
「捕虜は?」
「二人ほど峰打ちで倒しました」「すみません。戦いに夢中で、捕虜は……」
橋本晶は、引きずってきた二人の男を床に投げ出した。
男たちは、二人とも意識が無いようだ。
「そうか。僕は五人ほど捕まえた」
僕は後ろを向いて、ワイヤーガンのコマンドを唱える。
「ウインチ スロースタート」
左腕のワイヤーが低速で巻き戻されていく。
やがて、手錠をかけられてワイヤーに繋がれた五人の捕虜たちが、引きずられるようにこっちへ歩いてきた。
先頭の女性兵士が、催涙剤を浴びて真っ赤に腫らした目で涙を流しながら、悔しそうに僕を睨みつけている。
無言だが、その目は『く! 殺せ』と言っているような……ん? なんか芽依ちゃんと橋本晶の視線が冷たいような気が……
「北村さん」「隊長」
「なんだい?」
「「なんで捕虜は、女の子ばかりなのですか?」」
だって、女の子殺したくないもーん。
「あれ? 言われてみれば、みんな女性兵士ばかりだな。まあ、偶然だよ」
「偶然ですか?」「帝国軍の女性兵士の割合は、一~二パーセントぐらいだったかと……」
「偶然だって……」
誰がなんと言っても偶然だよ。
催涙剤を浴びて苦しんでいる帝国軍兵士の中から、男だけ選別して殺していったのも偶然。
女性兵士だけ選んで手錠をかけてワイヤーガンのワイヤーに繋いだのも偶然だよ。
どう見ても偶然だろ。
「リトル東京の喫煙所で、よくカルル・エステスさんが言っていたのですが……」
ん?
「北村さんは、ムッツリスケベだと」
なぬ!? カルルの奴、そんな事を……
「もちろん、私はそんなことはないと思っていましたが、この様子を見ると、どうやらカルル・エステスさんが言っていたことも、あながち……」
「んな事はない!」
「違うのですか?」
「確かに女性兵士だけ殺さなかったが、僕が彼女たちに悪さをするとでも思っているのか?」
その時、さっきから僕を睨みつけていた女性兵士が帝国語で叫んだ。
間をおかずに翻訳ディバイスから、その日本語訳が流れる。
「殺すなら殺せ! おまえ達に、この身を汚されるぐらいなら死を選ぶ!」
橋本晶が彼女を指さす。
「ああ言っていますが、汚しますか?」
「やらねえよ! てか、ジュネーブ条約違反だろ!」
不意に橋本晶がバイザーをパカっと開く。
その顔はニヤニヤ笑っていた。
「冗談ですよ。そんなムキにならないで下さい」
からかわれていたのか。
「そういう反応は、前の隊長と同じで可愛いですね」
年上の男に『可愛い』とか言うな!
ん? 急に彼女が涙を流し始めた。
慌ててバイザーを閉じるが、どうしたんだ? あ!
「橋本君。催涙剤の影響が、まだ残っていたんだろ?」
「ふいましぇん。忘れてましゅた」
つくづく、致死性ガスは使わなくてよかった。
通信機から呼び出し音が鳴ったのはその時。
通信相手はミール。
「ミール、どうだった?」
『カイトさん。第二層に分身体を送り込みましたが、何も問題ありません』
第一層と第二層の間には、プシトロンパルスを遮るものはないようだ。
「分かった。第二層はまだ、催涙剤の影響が残っているから、降りてくるのはもう少し待ってくれ」
『はーい』
さてと……
橋本晶の方を振り向いた。
ヘルメットを外そうとしているのを、芽依ちゃんに止められている。
「放しちぇ! 森田しゃん! 目がひたいの!」
「落ち着いて下さい。今、ヘルメットを外したらよけいヒドくなりますよ」
やれやれ……
今から第一層に戻るのも大変だな。
僕は第三層へ続く扉を開く。
傾斜路なら、まだ催涙剤は入り込んでいないだろうと思って、橋本晶を連れて入るつもりだったのだが……
そこにそいつらが待ちかまえていた。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
マスターブルー~完全版~
しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。
お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。
ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、
兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ
の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、
反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と
空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

宮様だって戦国時代に爪痕残すでおじゃるーー嘘です、おじゃるなんて恥ずかしくて言えませんーー
羊の皮を被った仔羊
SF
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
時は1521年正月。
後奈良天皇の正室の第二皇子として逆行転生した主人公。
お荷物と化した朝廷を血統を武器に、自立した朝廷へと再建を目指す物語です。
逆行転生・戦国時代物のテンプレを踏襲しますが、知識チートの知識内容についてはいちいちせつめいはしません。
ごくごく浅い知識で書いてるので、この作品に致命的な間違いがありましたらご指摘下さい。
また、平均すると1話が1000文字程度です。何話かまとめて読んで頂くのも良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる