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第十六章
不意の遭遇
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不意に橋本晶は、僕らの方へ振り向いた。
「北村さん。森田さん。戦闘は可能な限り避けようとしていたのですが、第二層の様子を見ようとしたところ、不意に敵兵と遭遇しまして、やむを得ず戦闘に入りました」
不意の遭遇か。それなら仕方ない……
そこへ芽依ちゃんが、僕に耳打ちしてきた。
「第二層には、ドローンを送り込んでいたはずです。敵兵が第一層に上がってくるのが分からないはずありません」
だよね。不意の遭遇であるはずがない。
なんだっで彼女は、そこまでして戦いたいのだろうね?
「敵兵に生存者は?」
「二名ほど、峰打ちで倒しました」
さっそく、捕虜の分身体をミールに作ってもらった。
「斥候が第一層を偵察したところ、誰もいないという報告を受けました」
捕虜の分身体が、何があったかを話し始める。
「私は一個小隊を率いて、第一層へ向かうように命令を受けました」
どうやらこの男は小隊長らしい。
「私は部下たちとともに、第一層へ向かう傾斜路を登っていきました」
ちなみにこの地下施設の階層間は、階段ではなく直径三十メートルほどの緩やかな螺旋状の傾斜路で結ばれるというバリアフリー設計。
ここを作った半人半馬のタウリ族にとって、階段は使いにくいのかもしれない。
一応エレベーターのような施設もあるが、現在は機能していないそうだ。
「我々は傾斜路を登り切り、先頭の者が扉をそっと開き、隙間から様子をうかがったのです」
傾斜路の出入り口には観音開きの扉がある。ノブのような物はない。元は自動ドアだったようだが、今でも手で押せば普通に開き、手を離せば勝手に閉まる仕組みだ。
「第一層には明かりがなく真っ暗でしたが、カンテラで照らしてみると何か動く物がいました。一瞬敵兵かと思いましたが、マルガリータ姫の部隊が残していったヤギだと分かって、我々は安心して第一層に入っていったのです。ところが数十メートル進んだとき、背後から、金属音が聞こえました」
金属音?
「扉が閉じた音ではないのか?」
「いえ。その音が聞こえる前に扉は閉じていました。私は何事かと振り返ると、そこに紫色の機動鎧を纏った敵がいたのです。私が戦闘命令を出す暇もなく、その者に間合いに入り込まれ、刀で切られました」
切られたと認識しているようだが、実際は峰打ちを食らったのだな。
「橋本君。彼らが振り返った金属音とは、なんだったのかな?」
「はい。彼らが第一層に入って来たとき、私は扉の陰に隠れていたのです。ところが、彼らが通り過ぎた後で扉が閉じてしまったために、慌てて別の隠れ場所を探そうとしたところ、刀の鞘が扉にぶつかり……」
それは不可抗力だな。
と思ったところへ、芽依ちゃんが耳打ちしてきた。
「鞘はプラスチック製ですから、ぶつかっても金属音など出ません。きっと抜き身の刀で扉を叩いて、帝国兵を振り向かせたのですよ」
そこまで疑わなくても……
「まあ、橋本君が無事だったのでなによりだ。僕が単独の戦闘を避けてほしいと言ったのは、敵兵の中にはロケット砲などを持っている奴もいるからだよ。一人で格闘戦をやっていると、気がつかないうちに狙い撃ちされる危険があったからなんだ」
「お心遣い感謝いたします。しかし、心配ご無用。RPG7を持っている兵士は二人だけで、そいつらは真っ先に切り捨てました。後は九九式には通用しない小銃だけですので」
「そうだったのか。しかし、すごいなあ君は。不意の遭遇で、敵の状況をそこまで見抜くとは」
「え? ああ、まあ、大したことではないですよ。あはは……」
笑いがひきつっている。やはり、不意の遭遇ではないな。
大方、傾斜路を登ってくる帝国兵の状況を、ドローンでじっくり観察して、待ち伏せしていたのだろう。
「北村さん。森田さん。戦闘は可能な限り避けようとしていたのですが、第二層の様子を見ようとしたところ、不意に敵兵と遭遇しまして、やむを得ず戦闘に入りました」
不意の遭遇か。それなら仕方ない……
そこへ芽依ちゃんが、僕に耳打ちしてきた。
「第二層には、ドローンを送り込んでいたはずです。敵兵が第一層に上がってくるのが分からないはずありません」
だよね。不意の遭遇であるはずがない。
なんだっで彼女は、そこまでして戦いたいのだろうね?
「敵兵に生存者は?」
「二名ほど、峰打ちで倒しました」
さっそく、捕虜の分身体をミールに作ってもらった。
「斥候が第一層を偵察したところ、誰もいないという報告を受けました」
捕虜の分身体が、何があったかを話し始める。
「私は一個小隊を率いて、第一層へ向かうように命令を受けました」
どうやらこの男は小隊長らしい。
「私は部下たちとともに、第一層へ向かう傾斜路を登っていきました」
ちなみにこの地下施設の階層間は、階段ではなく直径三十メートルほどの緩やかな螺旋状の傾斜路で結ばれるというバリアフリー設計。
ここを作った半人半馬のタウリ族にとって、階段は使いにくいのかもしれない。
一応エレベーターのような施設もあるが、現在は機能していないそうだ。
「我々は傾斜路を登り切り、先頭の者が扉をそっと開き、隙間から様子をうかがったのです」
傾斜路の出入り口には観音開きの扉がある。ノブのような物はない。元は自動ドアだったようだが、今でも手で押せば普通に開き、手を離せば勝手に閉まる仕組みだ。
「第一層には明かりがなく真っ暗でしたが、カンテラで照らしてみると何か動く物がいました。一瞬敵兵かと思いましたが、マルガリータ姫の部隊が残していったヤギだと分かって、我々は安心して第一層に入っていったのです。ところが数十メートル進んだとき、背後から、金属音が聞こえました」
金属音?
「扉が閉じた音ではないのか?」
「いえ。その音が聞こえる前に扉は閉じていました。私は何事かと振り返ると、そこに紫色の機動鎧を纏った敵がいたのです。私が戦闘命令を出す暇もなく、その者に間合いに入り込まれ、刀で切られました」
切られたと認識しているようだが、実際は峰打ちを食らったのだな。
「橋本君。彼らが振り返った金属音とは、なんだったのかな?」
「はい。彼らが第一層に入って来たとき、私は扉の陰に隠れていたのです。ところが、彼らが通り過ぎた後で扉が閉じてしまったために、慌てて別の隠れ場所を探そうとしたところ、刀の鞘が扉にぶつかり……」
それは不可抗力だな。
と思ったところへ、芽依ちゃんが耳打ちしてきた。
「鞘はプラスチック製ですから、ぶつかっても金属音など出ません。きっと抜き身の刀で扉を叩いて、帝国兵を振り向かせたのですよ」
そこまで疑わなくても……
「まあ、橋本君が無事だったのでなによりだ。僕が単独の戦闘を避けてほしいと言ったのは、敵兵の中にはロケット砲などを持っている奴もいるからだよ。一人で格闘戦をやっていると、気がつかないうちに狙い撃ちされる危険があったからなんだ」
「お心遣い感謝いたします。しかし、心配ご無用。RPG7を持っている兵士は二人だけで、そいつらは真っ先に切り捨てました。後は九九式には通用しない小銃だけですので」
「そうだったのか。しかし、すごいなあ君は。不意の遭遇で、敵の状況をそこまで見抜くとは」
「え? ああ、まあ、大したことではないですよ。あはは……」
笑いがひきつっている。やはり、不意の遭遇ではないな。
大方、傾斜路を登ってくる帝国兵の状況を、ドローンでじっくり観察して、待ち伏せしていたのだろう。
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