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第六章
兜を取れ
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その光景は、とても、監禁されているように見えなかった。
ドローンからの映像なので、声は聞こえないが、ダモンの妻は帝国軍兵士たちと和気藹々とした雰囲気で食事を共にしている。
その娘に至っては、食事の済んだ兵士とボール遊びをしていた。
「どうなっているんだ? これは……」
ミールは考え込んでいた。
「ううむ……ダモン様の奥様は昔から大らかな人格で、人から慕われる人でしたからねえ……帝国軍兵士を、手懐けてしまったのではないかと……」
「そういうものなのかな?」
敵からも慕われるとは、まるでウルトラの母……
「しかし、いくら慕われていると言っても、僕らが奪還にいったとして、素直に渡すわけないし……」
「そうですね。でも、ひどい扱いをされているのではと、心配していましたが、それはなかったようですね」
だけど、逆にやりにくくなった。
この母子と仲良くやっている兵士たちを、二人の目の前で殺すのは……
子供の心に、深いトラウマを刻みそうだな。
後ろを振り向いた。
テントの隅に、アンダーの分身が無表情な顔でうずくまっている。
こいつを利用できないだろうか?
僕とミールが、関所の門をくぐったのはそれから二時間後の事。
本当に誰もいない。
岩壁と岩壁の間にかけられた見張り小屋から、兵士がこっちを見下ろしているが、特に何も言ってこなかった。
「詰所への入り口は?」
「こっちです」
ミールは、左側の岩壁を指差した。
岩壁を削って作った石段がある。
僕たちが石段を上り始めると、見張り小屋の兵士が慌てて出てきた。
階段の途中で、二人の兵士と遭遇する。
「待て。ここに何の用だ?」
ちなみに今、僕とミールは帝国軍の鎧兜を身に着けているので、友軍と思われているはすだ。
なんで、そんなものがあったかって?
聞くまでもない。
ミールが、損害賠償で取り立てた物だ。
僕は、アンダーの分身を突き出した。
「こいつの顔に、見覚えはあるか?」
「ん?」
兵士の一人が、アンダーの顔をマジマジと見つめた。
「ああ、知っている。たしか、コ・リ・アンダーとかいうナーモ族の女衒だな。こいつがどうかしたのか?」
「我々は偵察任務中に、突然この男に助けを求められたのだ。なんでも、反帝国分子に捉えられて、なんとか逃げ出してきたらしい。だがその時、とんでもない事を白状してしまったというのだ」
「とんでもないこと?」
「すぐに城に連れ帰ろうとしたのだが、この者の言ってる事が事実なら、ここが襲撃される危険がある。済まないが、ここの責任者に会わせてくれないか?」
「分かった。ちょっと、ここで待っていろ」
兵士は、奥の方へ入って行った。
「カイトさん。うまく行きそうですね」
「まだ分からないよ。分身たちは、今どうしている?」
「すぐに駆けつけられる場所に、六体隠してあります。あたしが魔法回復薬を飲めば、こんな関所ぐらい簡単に制圧できますよ」
できれば、使わないで済ませたいけどね。
「それにしても、この兜って蒸れますね。帝国軍兵士は、よくこんな気持ち悪い物被っていられます」
「顔全体覆っているからね。早いとこ外したいよ」
兵士が戻ってきた。
「隊長が、会って下さるそうだ」
僕たちは、詰所に案内された。
その玄関前まで来たとき、突然数名の兵士に囲まれて銃を突き付けられた。
ばれたか?
「中に入る前に兜を取って、顔を見せてもらおうか」
「なぜだ?」
「その兜の下にあるのが、本当に帝国人なら取っても問題はなかろう。それとも、兜の下に隠している猫耳を見せられないから、兜は取れないとでも?」
やはり、ミールの正体に気づかれたのか?
「そんなはずないだろう。何を疑っている?」
「兜を被っていれば顔が見えないのをいいことに、我々に成りすますというのは、ナーモ族がよくやる手なんでな。それとも、他に兜を外したくない理由でもあるのか?」
理由か……何か、適当な理由はないだろうか? ないな……
ドローンからの映像なので、声は聞こえないが、ダモンの妻は帝国軍兵士たちと和気藹々とした雰囲気で食事を共にしている。
その娘に至っては、食事の済んだ兵士とボール遊びをしていた。
「どうなっているんだ? これは……」
ミールは考え込んでいた。
「ううむ……ダモン様の奥様は昔から大らかな人格で、人から慕われる人でしたからねえ……帝国軍兵士を、手懐けてしまったのではないかと……」
「そういうものなのかな?」
敵からも慕われるとは、まるでウルトラの母……
「しかし、いくら慕われていると言っても、僕らが奪還にいったとして、素直に渡すわけないし……」
「そうですね。でも、ひどい扱いをされているのではと、心配していましたが、それはなかったようですね」
だけど、逆にやりにくくなった。
この母子と仲良くやっている兵士たちを、二人の目の前で殺すのは……
子供の心に、深いトラウマを刻みそうだな。
後ろを振り向いた。
テントの隅に、アンダーの分身が無表情な顔でうずくまっている。
こいつを利用できないだろうか?
僕とミールが、関所の門をくぐったのはそれから二時間後の事。
本当に誰もいない。
岩壁と岩壁の間にかけられた見張り小屋から、兵士がこっちを見下ろしているが、特に何も言ってこなかった。
「詰所への入り口は?」
「こっちです」
ミールは、左側の岩壁を指差した。
岩壁を削って作った石段がある。
僕たちが石段を上り始めると、見張り小屋の兵士が慌てて出てきた。
階段の途中で、二人の兵士と遭遇する。
「待て。ここに何の用だ?」
ちなみに今、僕とミールは帝国軍の鎧兜を身に着けているので、友軍と思われているはすだ。
なんで、そんなものがあったかって?
聞くまでもない。
ミールが、損害賠償で取り立てた物だ。
僕は、アンダーの分身を突き出した。
「こいつの顔に、見覚えはあるか?」
「ん?」
兵士の一人が、アンダーの顔をマジマジと見つめた。
「ああ、知っている。たしか、コ・リ・アンダーとかいうナーモ族の女衒だな。こいつがどうかしたのか?」
「我々は偵察任務中に、突然この男に助けを求められたのだ。なんでも、反帝国分子に捉えられて、なんとか逃げ出してきたらしい。だがその時、とんでもない事を白状してしまったというのだ」
「とんでもないこと?」
「すぐに城に連れ帰ろうとしたのだが、この者の言ってる事が事実なら、ここが襲撃される危険がある。済まないが、ここの責任者に会わせてくれないか?」
「分かった。ちょっと、ここで待っていろ」
兵士は、奥の方へ入って行った。
「カイトさん。うまく行きそうですね」
「まだ分からないよ。分身たちは、今どうしている?」
「すぐに駆けつけられる場所に、六体隠してあります。あたしが魔法回復薬を飲めば、こんな関所ぐらい簡単に制圧できますよ」
できれば、使わないで済ませたいけどね。
「それにしても、この兜って蒸れますね。帝国軍兵士は、よくこんな気持ち悪い物被っていられます」
「顔全体覆っているからね。早いとこ外したいよ」
兵士が戻ってきた。
「隊長が、会って下さるそうだ」
僕たちは、詰所に案内された。
その玄関前まで来たとき、突然数名の兵士に囲まれて銃を突き付けられた。
ばれたか?
「中に入る前に兜を取って、顔を見せてもらおうか」
「なぜだ?」
「その兜の下にあるのが、本当に帝国人なら取っても問題はなかろう。それとも、兜の下に隠している猫耳を見せられないから、兜は取れないとでも?」
やはり、ミールの正体に気づかれたのか?
「そんなはずないだろう。何を疑っている?」
「兜を被っていれば顔が見えないのをいいことに、我々に成りすますというのは、ナーモ族がよくやる手なんでな。それとも、他に兜を外したくない理由でもあるのか?」
理由か……何か、適当な理由はないだろうか? ないな……
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