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第六章

モーンプチシチュー

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 馬車のような乗り物が通りかかった。
 実際に車を引いているのは、馬ではなくトリケラトプスに似た生物。
 ナーモ族は荷役龍と言っていたが、それも全く咎められることなく関所を通り過ぎて行った。
「この関所って、元々自由に通れるものなの?」
「いいえ、通行料を、取り立てられていましたわ」
「通行手形とかは?」
「それはありません。でも、通行料の取り立てがひどいのですよ」
「そんなに高かったの?」
「あたしが分身を連れて通ろうとしたら、分身の分まで払えって。宮廷魔法使いの証明書を提示して、分身がどういう物か説明しても、取り合ってくれないのですよ」
「そうなの?」
「通行料は、あくまでも自由人にかけられるもので、家畜どころか奴隷にも、かけられません。分身は、奴隷と同じ扱いにするべきだと言っても『払え』の一点張り。まったく、がめついにも、ほどがあります」
 いや、その人は職務に忠実だっただけだと思うけど……
「がめついって……ミールさん。あなたが、それ言いますか」
「Pちゃん。あたしのどこが、がめついと……」
「いつも『損害賠償』と言って、帝国軍兵士の身包み剥いでいるじゃないですか」
「あれは正当な行為です。法律上も問題ありません」
「ミールさんの脳内法律ですか?」
「そんな事はありません」
 ああ! また話が脱線した。
「とにかく、今現在はここが関所として機能していないように見えるだけど、どうなの?」
 ミールはもう一度PC画面を見た。
「確かに、通行人が素通りしていますね。何のための関所なのだか……」
 いや、考えてみれば、帝国軍が関所を占領したからと言って、そこをそのまま関所として使うかは分からない。
 そもそも、帝国国内には関所なんてないのかもしれない。
「キラを起こして聞いてみるわけには、いかないかな?」
「カイトさん。あたしとしては、この件に関してキラには一切関与させたくないのです」
「なぜ?」
「あたしにとって帝国は敵です。でも、キラにとっては大切な祖国。祖国を軽々しく裏切るような人を、あたしは弟子として近くに置いておきたくはありません」
「ミールさん、意外と潔癖ですね」
「Pちゃん。少し違います。さすがにあたしも、自分が潔癖だなんて自惚れていません。狡い事だってしちゃいますよ」

 自覚あったんだ。

「祖国を裏切るような人を、近くに置いときたくないというのは、そういう人は、いつかあたしも裏切るかもしれないからです」
「ミールは、キラを信用できるのかい?」
「ええ。いろいろと腹の立つこともあったけど……嘘をつけない子だという事は、分かりましたから」
「そうか。それで聞くけど、ダモンさんが裏切った事を、君は許せるのかい?」
「許すとか許さないとか、そういう気持ちはないです。奥さんと子供を人質に取られて仕方なくやったのなら、それさえ取り戻せば味方に戻ってくれると思っています。考えが甘いかもしれないですけど……」
 PC画面に目を戻すと、新たな動きがあった。
 建物から人が出てきて、昼飯の支度を始めたのだ。
 雨が降っていないからなのか、庭で食事するらしい。
 兵士たちが庭にテーブルを並べ、別の兵士が竈に火を入れている。
「そろそろ、お昼の時間ですね。ご主人様、ごはん何がいいですか?」
 言われてみれば、お腹が空いてきていたな。
「たまには、あたしが用意しましょうか?」
 画面の中では、兵士たちが大鍋を竃の上に乗せていた。
「ミールさん。料理できるのですか?」
 Pちゃんが疑わしそうな目を向ける。
 画面の中では、ナーモ族の中年女性が食材を鍋に放り込んでいた。
「失礼ですね。あたしだって料理ぐらいしますよ」
 画面の中で、ナーモ族の子供がテーブルに食器を並べていた。
「あたしの作る、モーンプチシチューは絶品ですよ。ダモン様の奥様にレシピを教えてもらったのですが。一度、カイトさんに食べて頂きたいですわ」
 ううむ……まだ、あまりナーモ族の料理を口にしたことがないのだが……日本人の口に合うのだろうか?
「ミール。そのモーンプチシチューって、どんな料理?」
「ええっとですね」ミールはPC画面を指差した。「ちょうど作っていました。こんな料理で……す……え?」
 ミールの目はPC画面にくぎ付けになる。
「奥様?」
 え? 奥様?
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