114 / 848
第六章
モーンプチシチュー
しおりを挟む
馬車のような乗り物が通りかかった。
実際に車を引いているのは、馬ではなくトリケラトプスに似た生物。
ナーモ族は荷役龍と言っていたが、それも全く咎められることなく関所を通り過ぎて行った。
「この関所って、元々自由に通れるものなの?」
「いいえ、通行料を、取り立てられていましたわ」
「通行手形とかは?」
「それはありません。でも、通行料の取り立てがひどいのですよ」
「そんなに高かったの?」
「あたしが分身を連れて通ろうとしたら、分身の分まで払えって。宮廷魔法使いの証明書を提示して、分身がどういう物か説明しても、取り合ってくれないのですよ」
「そうなの?」
「通行料は、あくまでも自由人にかけられるもので、家畜どころか奴隷にも、かけられません。分身は、奴隷と同じ扱いにするべきだと言っても『払え』の一点張り。まったく、がめついにも、ほどがあります」
いや、その人は職務に忠実だっただけだと思うけど……
「がめついって……ミールさん。あなたが、それ言いますか」
「Pちゃん。あたしのどこが、がめついと……」
「いつも『損害賠償』と言って、帝国軍兵士の身包み剥いでいるじゃないですか」
「あれは正当な行為です。法律上も問題ありません」
「ミールさんの脳内法律ですか?」
「そんな事はありません」
ああ! また話が脱線した。
「とにかく、今現在はここが関所として機能していないように見えるだけど、どうなの?」
ミールはもう一度PC画面を見た。
「確かに、通行人が素通りしていますね。何のための関所なのだか……」
いや、考えてみれば、帝国軍が関所を占領したからと言って、そこをそのまま関所として使うかは分からない。
そもそも、帝国国内には関所なんてないのかもしれない。
「キラを起こして聞いてみるわけには、いかないかな?」
「カイトさん。あたしとしては、この件に関してキラには一切関与させたくないのです」
「なぜ?」
「あたしにとって帝国は敵です。でも、キラにとっては大切な祖国。祖国を軽々しく裏切るような人を、あたしは弟子として近くに置いておきたくはありません」
「ミールさん、意外と潔癖ですね」
「Pちゃん。少し違います。さすがにあたしも、自分が潔癖だなんて自惚れていません。狡い事だってしちゃいますよ」
自覚あったんだ。
「祖国を裏切るような人を、近くに置いときたくないというのは、そういう人は、いつかあたしも裏切るかもしれないからです」
「ミールは、キラを信用できるのかい?」
「ええ。いろいろと腹の立つこともあったけど……嘘をつけない子だという事は、分かりましたから」
「そうか。それで聞くけど、ダモンさんが裏切った事を、君は許せるのかい?」
「許すとか許さないとか、そういう気持ちはないです。奥さんと子供を人質に取られて仕方なくやったのなら、それさえ取り戻せば味方に戻ってくれると思っています。考えが甘いかもしれないですけど……」
PC画面に目を戻すと、新たな動きがあった。
建物から人が出てきて、昼飯の支度を始めたのだ。
雨が降っていないからなのか、庭で食事するらしい。
兵士たちが庭にテーブルを並べ、別の兵士が竈に火を入れている。
「そろそろ、お昼の時間ですね。ご主人様、ごはん何がいいですか?」
言われてみれば、お腹が空いてきていたな。
「たまには、あたしが用意しましょうか?」
画面の中では、兵士たちが大鍋を竃の上に乗せていた。
「ミールさん。料理できるのですか?」
Pちゃんが疑わしそうな目を向ける。
画面の中では、ナーモ族の中年女性が食材を鍋に放り込んでいた。
「失礼ですね。あたしだって料理ぐらいしますよ」
画面の中で、ナーモ族の子供がテーブルに食器を並べていた。
「あたしの作る、モーンプチシチューは絶品ですよ。ダモン様の奥様にレシピを教えてもらったのですが。一度、カイトさんに食べて頂きたいですわ」
ううむ……まだ、あまりナーモ族の料理を口にしたことがないのだが……日本人の口に合うのだろうか?
「ミール。そのモーンプチシチューって、どんな料理?」
「ええっとですね」ミールはPC画面を指差した。「ちょうど作っていました。こんな料理で……す……え?」
ミールの目はPC画面にくぎ付けになる。
「奥様?」
え? 奥様?
実際に車を引いているのは、馬ではなくトリケラトプスに似た生物。
ナーモ族は荷役龍と言っていたが、それも全く咎められることなく関所を通り過ぎて行った。
「この関所って、元々自由に通れるものなの?」
「いいえ、通行料を、取り立てられていましたわ」
「通行手形とかは?」
「それはありません。でも、通行料の取り立てがひどいのですよ」
「そんなに高かったの?」
「あたしが分身を連れて通ろうとしたら、分身の分まで払えって。宮廷魔法使いの証明書を提示して、分身がどういう物か説明しても、取り合ってくれないのですよ」
「そうなの?」
「通行料は、あくまでも自由人にかけられるもので、家畜どころか奴隷にも、かけられません。分身は、奴隷と同じ扱いにするべきだと言っても『払え』の一点張り。まったく、がめついにも、ほどがあります」
いや、その人は職務に忠実だっただけだと思うけど……
「がめついって……ミールさん。あなたが、それ言いますか」
「Pちゃん。あたしのどこが、がめついと……」
「いつも『損害賠償』と言って、帝国軍兵士の身包み剥いでいるじゃないですか」
「あれは正当な行為です。法律上も問題ありません」
「ミールさんの脳内法律ですか?」
「そんな事はありません」
ああ! また話が脱線した。
「とにかく、今現在はここが関所として機能していないように見えるだけど、どうなの?」
ミールはもう一度PC画面を見た。
「確かに、通行人が素通りしていますね。何のための関所なのだか……」
いや、考えてみれば、帝国軍が関所を占領したからと言って、そこをそのまま関所として使うかは分からない。
そもそも、帝国国内には関所なんてないのかもしれない。
「キラを起こして聞いてみるわけには、いかないかな?」
「カイトさん。あたしとしては、この件に関してキラには一切関与させたくないのです」
「なぜ?」
「あたしにとって帝国は敵です。でも、キラにとっては大切な祖国。祖国を軽々しく裏切るような人を、あたしは弟子として近くに置いておきたくはありません」
「ミールさん、意外と潔癖ですね」
「Pちゃん。少し違います。さすがにあたしも、自分が潔癖だなんて自惚れていません。狡い事だってしちゃいますよ」
自覚あったんだ。
「祖国を裏切るような人を、近くに置いときたくないというのは、そういう人は、いつかあたしも裏切るかもしれないからです」
「ミールは、キラを信用できるのかい?」
「ええ。いろいろと腹の立つこともあったけど……嘘をつけない子だという事は、分かりましたから」
「そうか。それで聞くけど、ダモンさんが裏切った事を、君は許せるのかい?」
「許すとか許さないとか、そういう気持ちはないです。奥さんと子供を人質に取られて仕方なくやったのなら、それさえ取り戻せば味方に戻ってくれると思っています。考えが甘いかもしれないですけど……」
PC画面に目を戻すと、新たな動きがあった。
建物から人が出てきて、昼飯の支度を始めたのだ。
雨が降っていないからなのか、庭で食事するらしい。
兵士たちが庭にテーブルを並べ、別の兵士が竈に火を入れている。
「そろそろ、お昼の時間ですね。ご主人様、ごはん何がいいですか?」
言われてみれば、お腹が空いてきていたな。
「たまには、あたしが用意しましょうか?」
画面の中では、兵士たちが大鍋を竃の上に乗せていた。
「ミールさん。料理できるのですか?」
Pちゃんが疑わしそうな目を向ける。
画面の中では、ナーモ族の中年女性が食材を鍋に放り込んでいた。
「失礼ですね。あたしだって料理ぐらいしますよ」
画面の中で、ナーモ族の子供がテーブルに食器を並べていた。
「あたしの作る、モーンプチシチューは絶品ですよ。ダモン様の奥様にレシピを教えてもらったのですが。一度、カイトさんに食べて頂きたいですわ」
ううむ……まだ、あまりナーモ族の料理を口にしたことがないのだが……日本人の口に合うのだろうか?
「ミール。そのモーンプチシチューって、どんな料理?」
「ええっとですね」ミールはPC画面を指差した。「ちょうど作っていました。こんな料理で……す……え?」
ミールの目はPC画面にくぎ付けになる。
「奥様?」
え? 奥様?
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめる予定ですー!

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~
俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。
が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。
現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。
しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。
相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。
チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。
強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。
この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。
大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。
初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。
基本コメディです。
あまり難しく考えずお読みください。
Twitterです。
更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。
https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる