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第六章

関所

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 関所の五キロ手前に、車を止めた。
 もう、敵の勢力圏内と言っていい。
 周囲から集めてきた木の枝を、車に被せてカムフラージュした後、テントを一つだけ出して僕らは、その中で打ち合わせをすることにした。もちろん、警戒用のドローンは浮かべてある。
「師匠。私は……」
 車から降りようとするキラを、ミールは押しとどめた。
「あなたは、車の中で寝てなきゃダメ」
「それは、私を信用していないという事か?」
「では、キラ。あなた『銃を持って帝国兵を殺せ』と、あたしが言ったら、やれるの?」
「それは……」
 ギラは口ごもる。
 その間に、ミールは何かの呪文を唱えていた。
 突然、キラが倒れ掛かり、ミールに支えられる。

 睡眠魔法?

「Pちゃん。キラを車の中に押し込むのを手伝って下さい」
「はい」
「僕も手伝おうか?」
「カイトさんはダメです」
「え?」
「キラは女の子なのですよ。触りたいのですか?」
「いや……その……」
「そうです。ご主人様は、手を出しちゃいけません。まったくエッチなんだから」
 
 ヒドい言われよう。悲しいなあ……

 テントの中に入ると、先に運び込んでおいたPC画面に関所の様子が映っていた。
 関所上空に、浮かんでいるドローンから送られてくるリアルタイムの映像だ。
 関所は、岩山を切り開いた幅十メートルほどの切り通しの両側の入り口に門を設けた構造。さらに切り通しの上には橋がかけてあり、その橋の上に見張り小屋があって、切り通しを通る人間を上からチェックできるようになっていた。
 敵が来たら、ここから矢を射かけたり、投石したりして攻撃するのだろう。
 岩山の上には、役人の詰所と思しき建物。
 中の赤外線源は十。
 そのうち二つが、ダモンの妻子だとするなら兵士の数は八。
 問題は、本当にここにダモンの妻子がいるのか?
 アンダーは、ここへ連れてきたと言っているが、その後もここにいるか分からない。
 その時点で城はまだ落ちていなくて、監禁できる建物が他になかったからここを使ったらしいが、城が落ちた今では他にいくらでも監禁場所を用意できるわけだ。
 すでに、他の場所に移された可能性もある。
 ネクラーソフは、ダモンたち魔法使いを帝都に連れて行く目的だ。
 それなら、その家族を先に帝都に運び込んでいるかもしれない。
 もし、ここにダモンの妻子がいないなら、今ここを襲撃しても意味がない。

 まあ、いずれ、ここを通る時に襲撃することにはなるけどね。
 その時のために、戦力を確認しておくに越したことはないか。

 前回、偵察した時は十人いた。
 二人減ったのか?
 と、思ったら見張り小屋に二人いたので戦力は十人。
 前回と変わり無しか。
 いや、門のところにも見張りがいるはず。
 丁度いいぐあいに、通行人が通りかかった。
 
 ん? これは?

「ご主人様。お待たせしました」「カイトさん。こっちは済みました」
 Pちゃんとミールがテントに入ってきた。
「ミール。ちょっと、これを見てくれ」
「なんでしょう?」
 ミールはPC画面を覗き込む。
 通行人が、誰からも咎められることもなく、関所を通り抜けて行った。
 そもそも、そこに役人がいない。
 関所というから、箱根の関所のように髪の毛まで調べられるものかと思っていたが……
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