上 下
681 / 848
第十六章

バックアップデータ

しおりを挟む
「リトル東京に行きたいだと? なぜだ?」

 僕の問いに、ジジイはニカっと笑って答える。

「この惑星で、美女と美酒にありつくにはリトル東京が一番じゃからな」
「ふざけんな! そんな理由で、連れていけるか!」
「それを決めるのは、おまえじゃないぞ。リトル東京の有力者が決める事じゃ。おまえはただ、リトル東京の大統領だか総理大臣だか市長だか国王だか知らないが、一番偉い人にわしの希望を伝えるだけでよい。そしたら、さっきの事を教えてやる」
「本当にそれだけでいいのか? リトル東京の方で断ってきたらどうする?」
「その時は、あきらめるわい」

 本当に諦めるのだろうか?

 しかし、これはけっして悪い話ではないぞ。
 
 僕はただ、リトル東京側にジジイの希望を伝えるだけでいい。

 リトル東京市への入市を決めるかどうかは、向こうが判断するわけだが、判断材料としてジジイがこっちでやった所業も報告してやるのだ。

 そうすれば当然、リトル東京がこんな性犯罪者を受け入れるはずがない。

 ジジイの希望は、どっちにしてもかなわないだろうな。

「芽依ちゃん。リトル東京へは、この事をメールで伝えておいてくれないか」
「メールでいいのですか? 直接通話でなくて」
「メールの方がいいんだ」
「はあ?」

 僕は翻訳ディバイスを切った。ジジイには日本語が分からないはず。

「芽依ちゃんも、翻訳ディバイスを切って」
「はい」

 芽依ちゃんが翻訳ディバイスを操作したことを確認してから、僕は話し始めた。

「直接通話だと、すぐに結果が分かっちゃうだろ。その結果、リトル東京から受け入れ拒否の返事が来たら、ジジイは途中で話をやめてしまうかもしれない」
「なるほど。メールなら返事がくるまでタイムラグがありますからね。その間に必要な事を聞き出すのですね」
「そうそう。それとジジイの希望だけでなく、奴がここでやった悪事も書いておいてほしい。それを読めば、向こうは受け入れ拒否してくるだろう」
「そうですね。あんな人に来られちゃ大変ですからね」

 そう言って、芽依ちゃんはメールを送る作業に入った。

 僕は翻訳ディバイスのスイッチを入れて、ジジイの方へ向き直る。

「いいだろう。リトル東京へは、あんたの希望を伝える事になった。ただし、どんな返事が返ってきても恨むなよ」
「恨んだりはせんよ」
「それでは、さっきの話をしてもらおうか」
「レム神が、接続者の意識を眠らせたまま残しているのはなぜか? という事じゃったな。別にこった理由があるわけではない。あれはバックアップデータじゃ」
「バックアップ?」 
「人格と言っても、所詮はデータ。データならコピーもできる。レム神はコピーして作った疑似人格を、時間をかけて自らの一部にしていたのじゃ」
「なぜそんな事を?」
「そもそも、最初からそうしていれば良かったのじゃ。レム君は最初、人の脳同士を直結させて融合させていた。最初のうちはそれでも良かったが、精神融合が進んで精神生命体レム神になってからは簡単には行かなくなったのじゃ。人間の精神がレム神と直接接触すると、精神が崩壊してしまうことが相次いだのじゃ」
「だがら、時間をかけてじっくりと対象者をレム神の精神に慣らしていき、それから融合しているとレイラ・ソコロフから聞いたが……」
「レイラ・ソコロフが知っているのは、そこまでじゃ。わしはもっと安全な方法をレム神に提案した」
「その方法というのが、疑似人格を融合するという方法なのか?」
「そうじゃ。融合する人格は、別に接続者の脳内にある人格である必要はない。人格も所詮は情報。コピーして作った疑似人格でもまったく問題はないのじゃ」
「じゃあ、バックアップというのは……?」
「そう。疑似人格の融合が上手く行かなかった時に備えて、接続者の脳内に本来の人格を残しておいたのじゃ。おまえの仲間が、何度も目覚めさせられたのは、疑似人格の融合に何度も失敗して、その度に本来の人格を目覚めさせてからコピーして疑似人格を新たに作っていたからじゃろう」
「じゃあ、人格融合さえ済んでしまえば、接続者を解放してもいいのじゃないのか?」
「確かにそうじゃ。しかし、解放はせんじゃろうな。レム神としては、自分の手駒となる接続者を手放したくはないじゃろう」
 
 そういう事だったのか?

「北村さん」

 芽依ちゃんに呼びかけられ、振り向いた。

「リトル東京から、返信が届いたのですが」

 ちょっと早いけどまあいいか。聞きたい事は聞き出したし……

「リトル東京からはなんと? まあ、受け入れ拒否だと思うが……」
「それが……ルスラン・クラスノフ博士を、丁重にお連れしろと……」
「ぬわにいいいい!?」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人
SF
元気いっぱい恋する乙女の小学5年生 安部まりあ。 ある日突然彼女の前に現れたのは、願いを叶える魔獣『かがみん』だった。 まりあは、幼馴染である秋月灯夜との恋の成就を願い、魔力を授かり魔法少女となる決意を固める。 しかし、その願いは聞き届けられなかった。 彼への恋心は偽りのものだと看破され、失意の底に沈んだまりあは、ふとある日のことを思い出す。 夏休み初日、プールで溺れたまりあを助けてくれた、灯夜の優しさと逞しい筋肉。 そして気付いた。 抱いた気持ちは恋慕ではなく、筋肉への純粋な憧れであることに。 己の願いに気付いたまりあは覚醒し、魔法少女へと変身を遂げる。 いつの日か雄々しく美しい肉体を手に入れるため、日夜筋トレに励む少女の魔法に満ち溢れた日常が、今幕を開ける―――。 *小説家になろうでも投稿しています。 https://ncode.syosetu.com/n0925ff/

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...