上 下
678 / 848
第十六章

幻覚?

しおりを挟む
 いったい、何があったのだ?

「姫。どうかされましたか?」

 僕の質問に、姫はひきつった顔で答える。

「今……わらわの尻を……誰かに、でまわされた」

 なに!? 

 不意に姫は、九九式に身を包んだ芽依ちゃんをにらみつける。

「おまえがやったのか?」
「ち……違います!」
「しかし、妾の近くには、おまえしかいないではないか」

 芽依ちゃんはヘルメットを外して、素顔をさらした。

「私は女です」
同性愛者レズビアンではないのか?」
「違います! 私はノンケです」

 この状況……嫌な既視感デジャビュが……

「おまえでなければ、誰だと……」
「それは……きゃああああ!」

 今度は、芽依ちゃんが悲鳴を上げる。

「芽依ちゃん! どうした?」
「だ……誰かが、私のお尻を……」

 しかし、芽依ちゃんの背後には誰もいない。

「いったいなんだ、この状況は……まるで……」
「まるで、わしが戻ってきたみたいじゃのう」
「そうだ! ジジイが戻ってきたみたい……え?」

 声は僕の背後から……

 振り向く。

「よ!」

 いかん。幻が見えた。

 そうだ幻だ! これは幻なんだ! 幻じゃなきゃやだ!

 ここにあいつがいるはずがない。

「おい! ワシを無視するのか」

 イカン! 幻聴まで聞こえる。

「芽依ちゃん。なんだか僕は、ヒドく疲れているみたいだ。幻覚が見えるのだよ」
「北村さん。私も疲れているみたいです。北村さんの背後に、アーテミスに置き去りにしたはずのルスラン・クラスノフ博士の幻影が見えるのですよ」

 ルスラ……そういえば、そんな名前だったな。あのジジイ……

「こら! 誰が幻影じゃ! いい加減、現実を受け入れろ」

 僕の背後から飛び出したジジイの幻影が、芽依ちゃんの背後に飛びつき胸を揉みだした。

「いやあああ! 変態!」
「ほれほれ! 幻影にこんな事ができるか!」
「いやあ! やめてえ!」
「それにしても、さすが日本の九九式機動服じゃのう。触感を操縦者に伝えることができると聞いていたが、これほどとは……」
「く! センシング・カット」

 芽依ちゃんは触感を遮断するコマンドを叫んだ。

「ん? 急に手応えがなくなったぞ」
「ルスラン・クラスノフ博士。絶対に許しません」

 芽依ちゃんは背中にしがみついているジジイをがそうするが、ひらりと逃げられる。

 もちろん、僕もその様子をただ見ていたわけではなく、逃げ回るジジイに掴みかかるのだが、いつも寸前で避けられてしまう。

 マジに妖怪じゃないのか。このジジイ……

 制御室の上にジジイが飛び乗った時、制御室の扉が開き、アーニャが顔を出した。

「いったいなんの騒ぎ?」
「おお! ここにも美女が!」

 上からジジイが、アーニャにしがみつこうとして飛びかかる。

 だが、アーニャはジジイの腕を掴み、壁に向かって投げ飛ばした。

「ルスラン・クラスノフ博士! どうやってここへ?」
「へへーい! わしを置き去りにしたつもりだったようだが、そうはいかんぞ。わしならとっくに潜水艦に戻って隠れていたわ」
「どうやって?」
「アーニャさんと言ったな。あんたアーテミスで、樽酒を買っておっただろう。あのときワシは店員に金貨を渡して、空の酒樽を用意してもらって、その中に隠れておったのじゃ。そしたらこいつが……」

 ジジイは僕を指さす。

「まんまとひっかかって、ワシの入った酒樽を潜水艦に運び込んでくれたのじゃ」

 なんだってえ!?

 アーニャが僕を睨む。

「北村君! あの時、酒樽をいくつ持って帰ったの?」
「三つですけど……」
「私は二つしか買ってないわよ!」

 んな事今更言ったって……

 不意に小屋の扉が開いた。

「カイトさん、メイさん。なんの騒ぎですか?」

 入り口にいたのはミール。

「おお! ナーモ族の美少女ではないか」

 ジジイがミールの方へ向かっていく。

 ミールの表情が恐怖に歪んだ。

「ひい! おじいさん! なぜここに?」
「お嬢ちゃああん! わしと良いことしよう!」
「いやああああ!」

 悲鳴を上げた後、ミールの姿は突然消滅した。

 木札が小さな音を立てて床に落ちる。

 分身体だったのか。

 飛びつこうとしたミールが突然消えたため、行き場を失ったジジイはそのまま外へ転がり出た。

「お嬢ちゃん。わしと良いことしようよ」
「おい。ジジイ。良いことなら、私としないか」

 ん? エラの声……

「おお! ここにも美女じゃあ!」

 学習しないジジイだな。

「うぎゃあああああ!」

 ジジイの悲鳴が収まった後、外へ出てみると、エラの電撃を食らったジジイがヘリポートの上でノビていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)
SF
 空色の髪をなびかせる玉虫色の騎士。  それは王位継承戦に持ち出されたチェスゲームの中で、駒が取られると同事に現れたモンスターをモチーフとしたロボット兵”盤上戦騎”またの名を”ディザスター”と呼ばれる者。  彼ら盤上戦騎たちはレーダーにもカメラにも映らない、さらに人の記憶からもすぐさま消え去ってしまう、もはや反則レベル。  チェスの駒のマスターを望まれた“鈴木くれは”だったが、彼女は戦わずにただ傍観するのみ。  だけど、兵士の駒"ベルタ”のマスターとなり戦場へと赴いたのは、彼女の想い人であり幼馴染みの高砂・飛遊午。  異世界から来た連中のために戦えないくれは。  一方、戦う飛遊午。  ふたりの、それぞれの想いは交錯するのか・・・。  *この作品は、「小説家になろう」でも同時連載しております。

処理中です...