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第十六章

小淵本来の人格?

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 地下施設入り口には橋本晶を一人残し、僕と芽依ちゃんはマルガリータ姫を連れて山頂基地へ一度戻る事にした。

「わ……わらわを、いったいどうするつもりじゃあ? これは捕虜虐待じゃ! うったえるぞ!」

 二つの九九式の間で発生している反重力場の中で姫が抗議しているが、これは決して虐待ではないぞ。

 最も安全な輸送手段だ。

 僕が抱えて運んでもいいのだが、後でセクハラだと訴えられても困るし……

 程なくして山頂基地へ到着。

 プレハブ小屋の近くには、九九式のパーツが散らばっていた。

 色を見て、すぐに小淵の物だと分かる。

 破壊されたというより、自らバラバラになった感じだ。

 おそらく小淵は、地上から帝国兵に牽制攻撃をかけさせ、その間に空から小屋に侵入してミクを連れ去るだろうと僕は予想していた。

 そこで小屋の中で待機しているエラには、帝国兵の攻撃が始まったら、高周波磁場を展開するように言っておいたのだ。

 小淵も、こちらにファースト・エラがいる事は知っているはずだから、警戒ぐらいはしていただろう。

 しかし、高周波磁場があるのは小屋の内側。外からは視認できない。

 それに気が付かないで、小屋の壁を破って突入してしまえば、エラの高周波磁場に捕まってしまう。

 そうなるとロボットスーツの安全機構は、僕がエラNo.5にやられた時のように、装着者保護のために強制パージを行い、小淵を無傷で捕らえることができるはず。

 実際、今回は僕の思惑通り、小淵は突入してくれたようだ。

「カイトさん」

 小屋からミールが出てきた。

「コブチは、麻酔で眠らせておきました」
「麻酔で? なぜ? 縛っておくだけで良かったのだが……」
「アーニャさんが言うには、自決する危険があるというのです」

 ありうるな。もちろん、自決は小淵の意志じゃない。レムに操られてやるのだ。

 レムとの脳間通信を切断してからではないと、安心して起こせないか。

「北村さん」

 声の方へ振り向くと、芽依ちゃんが地面に散らばっていた九九式のパーツを集めていた。

「小淵さんの九九式、修理できそうです」

 それは良かった。

 もし、小淵を取り戻す事ができたら、使える九九式は四機になる。

 心強い戦力だ。

 もっとも、レムとの脳間通信を切断できたらの話だが……

 できないときは、このまま解放するしかないな。自決するかもしれない捕虜を抱えるのは大変だし……
 
「ミール。小淵の分身体は?」
「もう作ってあります。予想通りでした」
「と、言うと……」
「はい。分身体の意識に、レム神の影響はありません。本来のコブチだと思われます」

 先日、アーテミスでダニの分身体を作ったが、分身体の意識にはここ数年の記憶が欠落していて重要な事は何も聞き出せなかった。

 その時は、分身体を作る前にレムが何か小細工をしたのかと思っていたが、今はそうではないと分かっている。

 三人目の矢納さんが提供した情報によると、レムの接続者たちの本来の人格は脳内に眠ったままで、その体はプシトロンパルスによって遠隔操作されている。

 そして、ミールの作った分身体は、レムからのプシトロンパルスを受信していないため、眠っていた本来の人格が目覚める事ができるはず。

 つまり、あの時ダニの分身体の中にいたのは、脳内で眠っていたダニ本来の人格だったのだ。だから、ブレインレターを掛けられた後の記憶がなかったわけだ。

 小屋の中に入ると、二人の小淵が待っていた。

 一人は床に横たわって寝ている。
 
 これが本物の小淵。

 パイプ椅子に腰掛けている分身体の小淵に話しかけてみた。

「あなたが、小淵さんだね?」
「そうです。正確に言うと、僕はミールさんの作った分身体ですが……」
「分身体は、ミールの命令に逆らえないわけだが、それは分かるね?」
「分かります。すでに説明を受けています」
「では、仮定の話だけど、君が分身体ではなく人間だとしたら、どこの所属だと認識している?」
「リトル東京防衛隊機動服中隊。副隊長小淵二尉」

 やはり、小淵本来の意識なのか?

「僕が誰だか分かるかい?」
「もちろん。二人目の北村さんですね」

 二人目の僕が存在している事を知っている?

 つまり、ブレインレターを掛けられた後の記憶も持っているというのか?

 ダニはブレインレター以前の記憶しかなかったのに……

 どういう事だ? こいつは、小淵本来の人格ではないのか?
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