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第六章

節操のない奴……

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「へえ。城から帰る途中だったのかい? という事は、君は帝国軍と、商売でもしているのかい?」
 知っているくせに、よく言うなあ。自分でも感心するというか……
「まあな。商売とはちっと違うが……」
「よかったら、城の中の事を、話してくれないかな」
「それは、ダメだな。商売相手の事を……」
「まあまあ、そう言わずに」
 僕は、アンダーに銀貨を数枚握らせた。
 まあ、こんなはした金で話すとは思えないけど……
「ネクラーソフって奴が城で一番偉いんだが、これが陰険な野郎でな……」

 せ……節操のない奴……
 
 本当は、いつも通りミールに分身を作ってもらってから情報を聞き出すはずだった。ただ、今のところミールの分身は、十二体全部が城にいる。その中の一体を消さないと、次の分身を作れない。
 だから、分身たちが城から出るまで、雑談でこの男を引き留めておくだけのつもりだった。
 まさか、銀貨数枚でペラペラ喋ってくれるとは……
「何でも、帝都の方じゃ毎日火事が起きてるそうだ」
 いつの間にか、雨が止んでいたがアンダーは話を止めないで、聞かれてもいないことまでペラペラ喋ってくれている。
「帝都には、そんなに放火魔がたくさんいるのかい?」
「放火じゃなくて、魔力の暴走だそうだ。それで、帝国軍の奴らはどうしても、火炎魔法のエキスパートが欲しかったらしい。それで、帝国軍の奴ら俺に相談にきたわけよ」
 この男、城を包囲している帝国軍相手に、娼婦を使って稼いでいたというのだ。
 帝国軍が包囲する前は、城兵相手にそういう商売をしていたので、城の内部事情にも通じていたらしい。
「宮廷魔法使いのカ・ル・ダモンを懐柔するには、どうすればいいかってな」
 アンダーの背後で、テントが少し開いてミールが顔をヒョコっと覗かせた。
「で、教えてやったのよ。ダモンは女房、子供を大切にしているから、それを人質にすれば逆らえなくなるってな」
 ミールは怒りの形相でテントから出てきたが、アンダーは背後で起きている事にまったく気が付かない。
「で、俺が仲間と一緒に、ダモンの女房と子供を捕まえて監禁したわけだ」
 拳固めて今にも殴りかかろうとしているミールを、Pちゃんが必死で押さえていた。
「他にも、帝都では怪物が暴れているが、これも魔法なのか? と聞かれたんだよ。俺は魔法使いじゃないから、そんな事言われても分からん。と、言いかけたのだが、その時ピン! と来たんだよ。その怪物というのは、人間の姿をしているが、剣で刺しても銃で撃っても死なない。で、そいつと瓜二つの人間が他にいるのじゃないのかと。そしたら、ネクラーソフはまさにそれだと」
「それは、分身魔法じゃないのか?」
「そう! それそれ。俺の村にもミールって性悪女がいて、そいつが分身魔法を使うから知っていたんだ」
 その背後では、ミールは近くにあったバールのような物を掴もうとして、Pちゃんに止められていた。
「ミールの奴も宮廷魔法使いになっていたはずだが、城が落ちてから行方不明。村にも帰った様子はなかった。しかし、村の近くの洞窟に潜伏していたんだ。そこで村を焼き討ちして、隠れているミールを誘き出すなんてネクラーソフは言いだしたんだ。だから、俺も止めたんだよ」

 少しは、故郷を思う気持ちがあったのか……?

「親父たちを殺すのは構わないが、火をつけるのはやめてくれよと。俺の家は、親父が死んだら、俺が相続することになっているんだからとな」

 やっぱ、こいつクズだ。

「そこで、俺の家だけは勘弁してくれるというから、奴らに協力することにしたんだ」
「そうだったのか。Pちゃん。もういいよ」
「ん? 何がいいんだ?」
 怪訝な顔をしているアンダーの背後で、Pちゃんがミールに竹刀を渡していた。
「どうぞ、存分にお使いください」
「ありがとう。Pちゃん」
 アンダーの顔が引きつった。
「い……今の声は……?」
 アンダーは振り向く。
「アンダー! あんたって人はあぁぁぁぁぁ!」
 怒りの形相で竹刀を構えたミールが、こっちへ駆けてくるところだった。
「げ! ミール! なぜ、ここに!」
 
 (これより残酷シーンにより描写自主規制。手を抜いているのではありません。自主規制と言ったら自主規制です)
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