上 下
109 / 848
第六章

ティータイム

しおりを挟む
 雨が止むのを待って、アンダーは城を出た。
 城から十分離れたところで、切り株に腰を下ろして笛を吹く。
 音は鳴らない。
 人の耳には聞こえない音波を出す笛だからだ。
 犬笛みたいな物。
 ただし、これで呼ぶのは犬ではない。
『さっぱり来ねえな』
 アンダーがもう一度笛を吹こうとしたとき、羽の音がした。
 見上げると、赤いリボンをつけたベジドラゴンの子供が降りてくる。
『子供に用はない。大人を呼んで来い』
『大丈夫、アタシ、人、乗セラレル』
『本当かよ? 謝礼は、酒しかないぞ。お前飲めないだろ』
『オ父サン、オ酒、喜ブ』
『そうかい』
 アンダーはベジドラゴンに跨った。
 
 エシャーが飛び立ったのをPC画面で確認した僕は、席を立ちレインコートを羽織った。
「Pちゃん。ここを頼む」
 僕はミールと一緒にテントを出た。
 外は、やや肌寒い。
 空は相変わらず、どんよりと曇っている。
 雨季は、まだまだ続きそうだ。
 トレーラーの下に、もう一つテントが張ってあった。
 今、その中でキラ・ガルキナがミールの魔法で眠っている。彼女は一見元気そうに見えたが、ミールが見たところ精神に相当のダメージを受けているようだ。
 分身魔法を、何度も暴走させた結果だ。
 ミールが言うには、死んでいてもおかしくなかったらしい。
 ミールは、キラ・ガルキナに三日間安静にしているように命じた。
 本格的な修行は、それからだそうだ。
 
 僕らはトレーラーを降りると、発電機の傍へ行った。
「城はどっちの方向?」
「あっちです」
 ミールの指差す方向に双眼鏡を向けた。
 程なくしてエシャーの姿が見えてくる。
「来た。ミール、テントに隠れて」
「はーい」
 ミールはキラ・ガルキナのテントに入った。
 しばらくして、エシャーが上空に現れる。
 僕はレインコートのフードを被った。
 これで、地球人かナーモ族か、すぐには分からないだろう。
「おい! なんでこんなところで降りる?」
「雨ヤドリ、モウスグ、雨フル」
「お前、そんな事分かるのか?」
 エシャーは、僕の目の前に降りた。
 エシャーに跨っていたアンダーが降りてくる。
「よお、あんた。済まないが、もうすぐ雨が降るそうなんだ。休ませてもらっていいかい?」
「ああ、いくらでもいていいよ」
 ていうか、このまま帰さないけど……

 僕は、アンダーを発電機の傍に案内した。
 そこに置いてあった折り畳みテーブルに、ガーデンパラソルを立てる。
「へえ、便利なものだな」
 アンダーは、感心したように言う。
「雨が通り過ぎるまで、ここでゆっくりしていってくれ。今、茶を入れるよ」
「おお、わりいな」
 丁度その時、雨が降ってきた。
「ベジドラゴンて天気が分かるのか? 初めて知ったぜ」
 いや、君をここへ降ろすためにエシャーに言わせただけだよ。
 本当に降ってくるとは思わなかった。
 ちなみに、エシャーが着けている赤いリボンは、今回の事に協力してくれた事への僕からの報酬。
「お待たせしました」
 Pちゃんが、お茶を運んできた。
「おお! 可愛いメイドじゃねえか」
「ありがとうございます」
 Pちゃんは、テーブルに茶器を並べた。
 ちなみに茶と言っても、地球の茶葉を使っているのではない。
 この惑星にある、茶と似た植物の葉を使っている。
「ん?」
 茶器を見てアンダーが、怪訝な顔をする。

 あ! うっかりしてた……

 ナーモ族の使っている茶碗は、両側に取っ手が着いてるのが普通。
 これは、取っ手のまったくついていない東洋風茶器。
 怪しまれたか?
「これ、ひょっとしてケイトクチンか?」
 え? 今、景徳鎮けいとくちんって言ったような?
 ちなみに、この茶器はPちゃんがプリンターで出したもので、ブランドなどまったく知らない。
 てか、なんでこの男が、地球の磁器ブランドなんか知っているのだ?
 まあ、とにかく怪しまれたわけじゃなかったのか。
「Pちゃん。これは、景徳鎮なのか?」
「いいえ。伊万里いまりです」
 アンダーは、首をひねった。
「イマリというのは聞いたことないな。それも、カルカの物か?」
 カルカ!? それ、ミールが言っていた、帝国に滅ぼされた国……
「さあ? 古物商から手に入れたのでね。どこで作られたものかは知らないんだ」
「そうか。しかし、こんな高価な物使っているって、あんた金持ちなんだな」
 高価なのか?
「親父が、ケイトクチンを持っていたんだ。昔、カルカの商人から買ったとか言ってたな」
 カルカに景徳鎮が? 
 こりゃあ、ますます行って確かめないとな。
「もっとも、今は家にはないけどな」
「割ったのかい?」
「いや。俺が売りとばした。おかげで親父から、勘当されたぜ」
 なるほど。ミールの言う通り、こいつワルだな。 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

キャンピングカーで異世界の旅

モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。 紹介文 夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。 彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

宮様だって戦国時代に爪痕残すでおじゃるーー嘘です、おじゃるなんて恥ずかしくて言えませんーー

羊の皮を被った仔羊
SF
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 時は1521年正月。 後奈良天皇の正室の第二皇子として逆行転生した主人公。 お荷物と化した朝廷を血統を武器に、自立した朝廷へと再建を目指す物語です。 逆行転生・戦国時代物のテンプレを踏襲しますが、知識チートの知識内容についてはいちいちせつめいはしません。 ごくごく浅い知識で書いてるので、この作品に致命的な間違いがありましたらご指摘下さい。 また、平均すると1話が1000文字程度です。何話かまとめて読んで頂くのも良いかと思います。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...