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第六章
ティータイム
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雨が止むのを待って、アンダーは城を出た。
城から十分離れたところで、切り株に腰を下ろして笛を吹く。
音は鳴らない。
人の耳には聞こえない音波を出す笛だからだ。
犬笛みたいな物。
ただし、これで呼ぶのは犬ではない。
『さっぱり来ねえな』
アンダーがもう一度笛を吹こうとしたとき、羽の音がした。
見上げると、赤いリボンをつけたベジドラゴンの子供が降りてくる。
『子供に用はない。大人を呼んで来い』
『大丈夫、アタシ、人、乗セラレル』
『本当かよ? 謝礼は、酒しかないぞ。お前飲めないだろ』
『オ父サン、オ酒、喜ブ』
『そうかい』
アンダーはベジドラゴンに跨った。
エシャーが飛び立ったのをPC画面で確認した僕は、席を立ちレインコートを羽織った。
「Pちゃん。ここを頼む」
僕はミールと一緒にテントを出た。
外は、やや肌寒い。
空は相変わらず、どんよりと曇っている。
雨季は、まだまだ続きそうだ。
トレーラーの下に、もう一つテントが張ってあった。
今、その中でキラ・ガルキナがミールの魔法で眠っている。彼女は一見元気そうに見えたが、ミールが見たところ精神に相当のダメージを受けているようだ。
分身魔法を、何度も暴走させた結果だ。
ミールが言うには、死んでいてもおかしくなかったらしい。
ミールは、キラ・ガルキナに三日間安静にしているように命じた。
本格的な修行は、それからだそうだ。
僕らはトレーラーを降りると、発電機の傍へ行った。
「城はどっちの方向?」
「あっちです」
ミールの指差す方向に双眼鏡を向けた。
程なくしてエシャーの姿が見えてくる。
「来た。ミール、テントに隠れて」
「はーい」
ミールはキラ・ガルキナのテントに入った。
しばらくして、エシャーが上空に現れる。
僕はレインコートのフードを被った。
これで、地球人かナーモ族か、すぐには分からないだろう。
「おい! なんでこんなところで降りる?」
「雨ヤドリ、モウスグ、雨フル」
「お前、そんな事分かるのか?」
エシャーは、僕の目の前に降りた。
エシャーに跨っていたアンダーが降りてくる。
「よお、あんた。済まないが、もうすぐ雨が降るそうなんだ。休ませてもらっていいかい?」
「ああ、いくらでもいていいよ」
ていうか、このまま帰さないけど……
僕は、アンダーを発電機の傍に案内した。
そこに置いてあった折り畳みテーブルに、ガーデンパラソルを立てる。
「へえ、便利なものだな」
アンダーは、感心したように言う。
「雨が通り過ぎるまで、ここでゆっくりしていってくれ。今、茶を入れるよ」
「おお、わりいな」
丁度その時、雨が降ってきた。
「ベジドラゴンて天気が分かるのか? 初めて知ったぜ」
いや、君をここへ降ろすためにエシャーに言わせただけだよ。
本当に降ってくるとは思わなかった。
ちなみに、エシャーが着けている赤いリボンは、今回の事に協力してくれた事への僕からの報酬。
「お待たせしました」
Pちゃんが、お茶を運んできた。
「おお! 可愛いメイドじゃねえか」
「ありがとうございます」
Pちゃんは、テーブルに茶器を並べた。
ちなみに茶と言っても、地球の茶葉を使っているのではない。
この惑星にある、茶と似た植物の葉を使っている。
「ん?」
茶器を見てアンダーが、怪訝な顔をする。
あ! うっかりしてた……
ナーモ族の使っている茶碗は、両側に取っ手が着いてるのが普通。
これは、取っ手のまったくついていない東洋風茶器。
怪しまれたか?
「これ、ひょっとしてケイトクチンか?」
え? 今、景徳鎮って言ったような?
ちなみに、この茶器はPちゃんがプリンターで出したもので、ブランドなどまったく知らない。
てか、なんでこの男が、地球の磁器ブランドなんか知っているのだ?
まあ、とにかく怪しまれたわけじゃなかったのか。
「Pちゃん。これは、景徳鎮なのか?」
「いいえ。伊万里です」
アンダーは、首をひねった。
「イマリというのは聞いたことないな。それも、カルカの物か?」
カルカ!? それ、ミールが言っていた、帝国に滅ぼされた国……
「さあ? 古物商から手に入れたのでね。どこで作られたものかは知らないんだ」
「そうか。しかし、こんな高価な物使っているって、あんた金持ちなんだな」
高価なのか?
「親父が、ケイトクチンを持っていたんだ。昔、カルカの商人から買ったとか言ってたな」
カルカに景徳鎮が?
こりゃあ、ますます行って確かめないとな。
「もっとも、今は家にはないけどな」
「割ったのかい?」
「いや。俺が売りとばした。おかげで親父から、勘当されたぜ」
なるほど。ミールの言う通り、こいつワルだな。
城から十分離れたところで、切り株に腰を下ろして笛を吹く。
音は鳴らない。
人の耳には聞こえない音波を出す笛だからだ。
犬笛みたいな物。
ただし、これで呼ぶのは犬ではない。
『さっぱり来ねえな』
アンダーがもう一度笛を吹こうとしたとき、羽の音がした。
見上げると、赤いリボンをつけたベジドラゴンの子供が降りてくる。
『子供に用はない。大人を呼んで来い』
『大丈夫、アタシ、人、乗セラレル』
『本当かよ? 謝礼は、酒しかないぞ。お前飲めないだろ』
『オ父サン、オ酒、喜ブ』
『そうかい』
アンダーはベジドラゴンに跨った。
エシャーが飛び立ったのをPC画面で確認した僕は、席を立ちレインコートを羽織った。
「Pちゃん。ここを頼む」
僕はミールと一緒にテントを出た。
外は、やや肌寒い。
空は相変わらず、どんよりと曇っている。
雨季は、まだまだ続きそうだ。
トレーラーの下に、もう一つテントが張ってあった。
今、その中でキラ・ガルキナがミールの魔法で眠っている。彼女は一見元気そうに見えたが、ミールが見たところ精神に相当のダメージを受けているようだ。
分身魔法を、何度も暴走させた結果だ。
ミールが言うには、死んでいてもおかしくなかったらしい。
ミールは、キラ・ガルキナに三日間安静にしているように命じた。
本格的な修行は、それからだそうだ。
僕らはトレーラーを降りると、発電機の傍へ行った。
「城はどっちの方向?」
「あっちです」
ミールの指差す方向に双眼鏡を向けた。
程なくしてエシャーの姿が見えてくる。
「来た。ミール、テントに隠れて」
「はーい」
ミールはキラ・ガルキナのテントに入った。
しばらくして、エシャーが上空に現れる。
僕はレインコートのフードを被った。
これで、地球人かナーモ族か、すぐには分からないだろう。
「おい! なんでこんなところで降りる?」
「雨ヤドリ、モウスグ、雨フル」
「お前、そんな事分かるのか?」
エシャーは、僕の目の前に降りた。
エシャーに跨っていたアンダーが降りてくる。
「よお、あんた。済まないが、もうすぐ雨が降るそうなんだ。休ませてもらっていいかい?」
「ああ、いくらでもいていいよ」
ていうか、このまま帰さないけど……
僕は、アンダーを発電機の傍に案内した。
そこに置いてあった折り畳みテーブルに、ガーデンパラソルを立てる。
「へえ、便利なものだな」
アンダーは、感心したように言う。
「雨が通り過ぎるまで、ここでゆっくりしていってくれ。今、茶を入れるよ」
「おお、わりいな」
丁度その時、雨が降ってきた。
「ベジドラゴンて天気が分かるのか? 初めて知ったぜ」
いや、君をここへ降ろすためにエシャーに言わせただけだよ。
本当に降ってくるとは思わなかった。
ちなみに、エシャーが着けている赤いリボンは、今回の事に協力してくれた事への僕からの報酬。
「お待たせしました」
Pちゃんが、お茶を運んできた。
「おお! 可愛いメイドじゃねえか」
「ありがとうございます」
Pちゃんは、テーブルに茶器を並べた。
ちなみに茶と言っても、地球の茶葉を使っているのではない。
この惑星にある、茶と似た植物の葉を使っている。
「ん?」
茶器を見てアンダーが、怪訝な顔をする。
あ! うっかりしてた……
ナーモ族の使っている茶碗は、両側に取っ手が着いてるのが普通。
これは、取っ手のまったくついていない東洋風茶器。
怪しまれたか?
「これ、ひょっとしてケイトクチンか?」
え? 今、景徳鎮って言ったような?
ちなみに、この茶器はPちゃんがプリンターで出したもので、ブランドなどまったく知らない。
てか、なんでこの男が、地球の磁器ブランドなんか知っているのだ?
まあ、とにかく怪しまれたわけじゃなかったのか。
「Pちゃん。これは、景徳鎮なのか?」
「いいえ。伊万里です」
アンダーは、首をひねった。
「イマリというのは聞いたことないな。それも、カルカの物か?」
カルカ!? それ、ミールが言っていた、帝国に滅ぼされた国……
「さあ? 古物商から手に入れたのでね。どこで作られたものかは知らないんだ」
「そうか。しかし、こんな高価な物使っているって、あんた金持ちなんだな」
高価なのか?
「親父が、ケイトクチンを持っていたんだ。昔、カルカの商人から買ったとか言ってたな」
カルカに景徳鎮が?
こりゃあ、ますます行って確かめないとな。
「もっとも、今は家にはないけどな」
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