107 / 850
第六章
魔法使いの弟子がやってはいけない事
しおりを挟む
ミールは紹介状を広げて一読した。
「キラ・ガルキナさん。あなたを、あたしの弟子に迎えるには、ある条件を飲んでもらわなければなりません」
「え? その条件とやらを飲めば、魔法を教えてもらえるのか?」
「ミール。いいのかい?」
「カイトさん。魔力を持つ者は、魔法技術習得が義務付けられていると前に言いましたね。逆に教える側の魔法使いも、正当な理由がない限り、弟子入り志願者を拒めないのですよ。あたしが嫌っているからというのは、正当な理由にはなりません」
「そうなの?」
「弟子を拒める正当な理由は、高齢など健康上無理な場合、家族の反対、すでに弟子が五人以上いる、弟子が異性または同性愛者、言葉が通じないなどがあります。あたしに、これらの理由はありま……キラ・ガルキナさん。あなた同性愛などという事はないでしょうね?」
「私に、そんな趣味はない!」
「それなら、いいです。ただ、あたしには、あなたを拒める正当な理由が一つだけあります」
「それは?」
「所属する国家が敵対関係にある場合も、拒否する正当な理由になります」
「やはりだめなのか? 私が帝国民であるから……」
「あたしの条件は、技術習得が終わるまで、帝国を捨てる事です」
「帝国を……」
「国籍まで捨てろとはいいません。ただし、あたしの下にいる限りは、帝国とは一切連絡を取らない。もし、手紙の一通でも出したら、即刻破門にします。それでも、いいですか?」
「分かった! その条件を飲む」
「それと、もう一つ」
まだ、あるのか?
「カイトさん」
「なに?」
「キラ・ガルキナも、旅の仲間にしていいですか?」
「僕は、構わないけど」
「そう言ってくれると思いました。キラ・ガルキナさん。あたしは旅の途中です。あなたは、その旅に付いてこられますか? できないなら弟子にはできません」
「着いていく。どこへだって」
「いいでしょう。それでは、今からキラ・ガルキナをカ・モ・ミールの弟子と認めます。弟子となった以上、あたしの指示には従いなさい。逆らったら破門ですよ」
「分かった」
「それと、修行中は恋愛禁止です」
「元より恋愛など、興味ない」
「そんな事を言っている人ほど、一度恋に落ちると歯止めが効かなくなります。心得ておきなさい」
「分かった」
「殿方に、言い寄られても、断るのですよ」
「それは心配ない。私のようなブスに、言い寄る物好きな男いるわけないだろう」
「ブス?」
ミールは、怪訝な表情を浮かべる。
「彼女、自分が美女だという自覚がないんだ」
ミールの耳元で僕は小声で言った。
「そうなのですか?」
「この前、彼女の分身と戦った時に『君は綺麗だ』と言ったのだが、僕が騙そうとしていると思ったらしく、怒り出してしまったんだ」
「カイトさん。綺麗だと言ったのですか?」
「え? いや、口説こうとしたわけじゃないから……そんな、状況じゃなかっただろ。それに口説いたところで、僕に靡くわけないし……」
「は?」
「ある意味、騙そうとしたのは確かだ。彼女を煽てて、戦意喪失させようとしたのだから……」
「そうだったのですか」
「ミールは、もっと綺麗だから」
「ありがとうございます」
ミールはにっこり微笑んで、キラ・ガルキナに向き直った。
「それでも、恋は突然訪れるもの。でも、その想いは修業が終わるまで、心の内に秘めなさい。けっして、殿方に打ち明けてはいけません」
「私なんかに打ち明けられても、殿方は迷惑するだけだ」
「いるんだよな。本当は綺麗なのに、容姿に自信がない人って」
ボソっと小声でつぶやいたつもりだったのだが、ミールの耳には聞こえたみたいだ。
「カイトさんが、それ言いますか」
な……なんか、不味いこと言ったかな?
「世の中には、容姿に自信がなくても、身体で殿方を自分の物にしようとする、けしからん女もいます。だから、殿方を好きになっても……」
不意にミールは僕の左腕にしがみ付いてきた。
ちょ! 胸が当たってる。
「こういう事をしたり……」
そう言って、腕から離れた。
……と、思ったら今度は背中から抱き着いてくる!
「こういう事を、したらいけませんよ」
「いや……やるつもりも、ありませんが……」
キラ・ガルキナは、少し引いてるみたいだが……
「いい心がけです」
「ちょ……ミール……その……胸が当たってる」
「カイトさん。それは、違いますわ。当たってるのではなく、当ててるのです」
そう言って、ミールは僕から離れた。
危なかったあ……
「ましてや、こんな事は絶対にやってはいけません」
ミールは僕の首を押え、唇を近づけてきた。
「ミールさん。あなたも、やってはいけません」
いつの間にか、Pちゃんがミールを羽交い絞めにしていた。
「Pちゃん。あたしはただ、弟子にやっていけない事の実例を……」
キラ・ガルキナが心配そうに僕に小声で囁く。
「なあ、この人、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ……」……たぶん……
「キラ・ガルキナさん。あなたを、あたしの弟子に迎えるには、ある条件を飲んでもらわなければなりません」
「え? その条件とやらを飲めば、魔法を教えてもらえるのか?」
「ミール。いいのかい?」
「カイトさん。魔力を持つ者は、魔法技術習得が義務付けられていると前に言いましたね。逆に教える側の魔法使いも、正当な理由がない限り、弟子入り志願者を拒めないのですよ。あたしが嫌っているからというのは、正当な理由にはなりません」
「そうなの?」
「弟子を拒める正当な理由は、高齢など健康上無理な場合、家族の反対、すでに弟子が五人以上いる、弟子が異性または同性愛者、言葉が通じないなどがあります。あたしに、これらの理由はありま……キラ・ガルキナさん。あなた同性愛などという事はないでしょうね?」
「私に、そんな趣味はない!」
「それなら、いいです。ただ、あたしには、あなたを拒める正当な理由が一つだけあります」
「それは?」
「所属する国家が敵対関係にある場合も、拒否する正当な理由になります」
「やはりだめなのか? 私が帝国民であるから……」
「あたしの条件は、技術習得が終わるまで、帝国を捨てる事です」
「帝国を……」
「国籍まで捨てろとはいいません。ただし、あたしの下にいる限りは、帝国とは一切連絡を取らない。もし、手紙の一通でも出したら、即刻破門にします。それでも、いいですか?」
「分かった! その条件を飲む」
「それと、もう一つ」
まだ、あるのか?
「カイトさん」
「なに?」
「キラ・ガルキナも、旅の仲間にしていいですか?」
「僕は、構わないけど」
「そう言ってくれると思いました。キラ・ガルキナさん。あたしは旅の途中です。あなたは、その旅に付いてこられますか? できないなら弟子にはできません」
「着いていく。どこへだって」
「いいでしょう。それでは、今からキラ・ガルキナをカ・モ・ミールの弟子と認めます。弟子となった以上、あたしの指示には従いなさい。逆らったら破門ですよ」
「分かった」
「それと、修行中は恋愛禁止です」
「元より恋愛など、興味ない」
「そんな事を言っている人ほど、一度恋に落ちると歯止めが効かなくなります。心得ておきなさい」
「分かった」
「殿方に、言い寄られても、断るのですよ」
「それは心配ない。私のようなブスに、言い寄る物好きな男いるわけないだろう」
「ブス?」
ミールは、怪訝な表情を浮かべる。
「彼女、自分が美女だという自覚がないんだ」
ミールの耳元で僕は小声で言った。
「そうなのですか?」
「この前、彼女の分身と戦った時に『君は綺麗だ』と言ったのだが、僕が騙そうとしていると思ったらしく、怒り出してしまったんだ」
「カイトさん。綺麗だと言ったのですか?」
「え? いや、口説こうとしたわけじゃないから……そんな、状況じゃなかっただろ。それに口説いたところで、僕に靡くわけないし……」
「は?」
「ある意味、騙そうとしたのは確かだ。彼女を煽てて、戦意喪失させようとしたのだから……」
「そうだったのですか」
「ミールは、もっと綺麗だから」
「ありがとうございます」
ミールはにっこり微笑んで、キラ・ガルキナに向き直った。
「それでも、恋は突然訪れるもの。でも、その想いは修業が終わるまで、心の内に秘めなさい。けっして、殿方に打ち明けてはいけません」
「私なんかに打ち明けられても、殿方は迷惑するだけだ」
「いるんだよな。本当は綺麗なのに、容姿に自信がない人って」
ボソっと小声でつぶやいたつもりだったのだが、ミールの耳には聞こえたみたいだ。
「カイトさんが、それ言いますか」
な……なんか、不味いこと言ったかな?
「世の中には、容姿に自信がなくても、身体で殿方を自分の物にしようとする、けしからん女もいます。だから、殿方を好きになっても……」
不意にミールは僕の左腕にしがみ付いてきた。
ちょ! 胸が当たってる。
「こういう事をしたり……」
そう言って、腕から離れた。
……と、思ったら今度は背中から抱き着いてくる!
「こういう事を、したらいけませんよ」
「いや……やるつもりも、ありませんが……」
キラ・ガルキナは、少し引いてるみたいだが……
「いい心がけです」
「ちょ……ミール……その……胸が当たってる」
「カイトさん。それは、違いますわ。当たってるのではなく、当ててるのです」
そう言って、ミールは僕から離れた。
危なかったあ……
「ましてや、こんな事は絶対にやってはいけません」
ミールは僕の首を押え、唇を近づけてきた。
「ミールさん。あなたも、やってはいけません」
いつの間にか、Pちゃんがミールを羽交い絞めにしていた。
「Pちゃん。あたしはただ、弟子にやっていけない事の実例を……」
キラ・ガルキナが心配そうに僕に小声で囁く。
「なあ、この人、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ……」……たぶん……
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる