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第六章
ネクラーソフは根が暗い
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「ああ。ネクラーソフというのは帝国軍の将軍だ。この先にあるナーモ族の城を落とした男でな。城攻めの最中に、ナーモ族の分身魔法にそうとう苦しめられたらしい。そんな優秀な魔法使いなら、ぜひ教えを請いたいと思っていた」
教えを請いたい? そんな殊勝な心がけだったのか?
「ところが、城が落ちた時には魔法使いは逃げた後。ダモンという火炎魔法の使い手が城に残っていたが、彼には分身魔法の制御法は分からないという。しかし、ダモンは逃げた魔法使いの潜伏先を知っているらしいのだ。だが、ネクラーソフが頼んでも教えてくれない。そこで、私一人だけで会いに行かせるからと、紹介状と地図を書いてもらったのだ」
「地図は、君に直接手渡されたの?」
「当然だ。他人には絶対に見せるなと、ダモンに言われていた。ところが、私が出発の準備をしている間に、地図が紛失してしまったのだ。いや、どうやら盗まれたらしい」
盗まれた?
「すまない。こんな話つまらなかったかな?」
「いや、とても興味深いよ」
「そうなのか? ここしばらく、まともに人と話す機会がなくて、ついべらべらと私の身に起きた事を喋ってしまったが、迷惑なら言ってくれ」
「迷惑じゃないよ。むしろ途中で止められた方が気になる。続けて聞かせてほしいな。地図が盗まれたって、どうして思ったわけ?」
「ああ、私が必死で地図を探している間に、ダサエフ大尉の部隊が、魔法使いの潜伏しているミケ村に攻め込んだのだ。ダモンと私しか知らないはずの潜伏先に。ネクラーソフの手の者が、私の部屋から、地図を盗み出したに違いない」
「なぜ、ネクラーソフがやったと分かるの?」
「ダモンにもう一度、地図をもらいに行ったのだ。だが、ダモンは激怒していた。私が自分からネクラーソフに地図を渡して『魔法使いを拉致してくれ』と頼んだと聞かされていたのだ。私がいくら違うと言っても、聞き入れてくれなかった」
「それで、どうしたの?」
「実は、その後の記憶がないのだ。私は、分身が暴れている間、記憶が途切れる事があるのでな。気が付いた時には、城内に何人もの死傷者が出ていた。みんな、私がやったと言うのだ」
おいおい……三日前に聞いた話と、全然違うじゃないか。いったい、誰が嘘をついてるのだ?
「ちょうど、その頃、ダサエフ中隊との連絡が途切れていてな。ネクラーソフから、様子を見てこいと命令されたのだ。魔法使いを捕まえるまでは、帰ってくるなともな。ようするに奴は、私を厄介払いしたかったようだ」
厄介払いされたという自覚はあったんだ。
「魔法使いには、会えたのかい?」
会ってない事を知りながらこういう事聞く僕って、やな奴だな。
「会えなかった。それどころか、道に迷ってしまい、ダサエフ中隊の駐屯地にも、たどり着けなかった」
近くにまで来ていたのに……
「その時に、おかしな鎧を着た男に出会ったのでな。道を尋ねようと呼び止めただのだが、そいつにおちょくられたもので、つい頭に血が登って発砲してしまった」
道を聞きたかっただけなのか。
だったら、素直に『道を教えてください』と言えばいいものを……
「幸い弾は外れたが……」
いや、当たってた。第一層まで貫通された。
「奴を怒らせてしまい、川に叩き込まれてしまったのだ」
いや、別に怒ってはいなかったけど……
「その直後から、私の記憶が途切れてしまった。どうやら、分身が暴れたらしい」
それは知っている。
「気が付くと、私は荒野に一人倒れていた。近くに怪我をした帝国兵がいたので、話かけてみたのだが、奴は悲鳴を上げて逃げ出した。どうやら、私の分身に何かされたらしい。なんとか捕まえて事情を聞いてみたところ、ダサエフ中隊は魔法使いに敗北して逃走中だというのだ。そこまで話したところで、そいつは死んでしまった。仕方なく、私は一人でここまで落ち延びてきた。しかし、魔法使いを捕まえるまで帰ってくるなと言われているので、城を目の前にして帰るに帰れんのだ」
「しかし、なんでネクラーソフは君にそんな意地悪を? 魔法が暴走したら、奴だって困るのだろ」
「最初は分からなかった。特に恨みを買うような事はしていない。分身を暴れさせて迷惑をかけたりはしたが、それならなおの事、私に早く魔法を習得させたいはずだ。だが、冷静に考えてみれば、奴がなぜこんな事をしたのか納得できる」
「どういう事?」
「奴の使命は、あくまでも魔法使いを一人でも多く確保して、帝都へ連れ帰ることだ。私一人に魔法を習得させるだけでは、使命が果たせない。しかし、ダモンは魔法使いの居場所を教えてくれない。ネクラーソフとしても、これから魔法を教えてもらうべき魔法使いを、脅迫したり拷問したりして、機嫌を損ねたくはなかったのだろう。だから、奴は私をダシにしたのではないのだろうか?」
「ダシに?」
「私一人を魔法使いの元に行かせるなら、ダモンも教えてくれると考えたのだろう。事実、ダモンは地図を書いてくれた。ネクラーソフは、最初からその地図を奪い取るつもりだったと考えれば……」
あのおっさん、やっばり名前通り性格悪いわ。
教えを請いたい? そんな殊勝な心がけだったのか?
「ところが、城が落ちた時には魔法使いは逃げた後。ダモンという火炎魔法の使い手が城に残っていたが、彼には分身魔法の制御法は分からないという。しかし、ダモンは逃げた魔法使いの潜伏先を知っているらしいのだ。だが、ネクラーソフが頼んでも教えてくれない。そこで、私一人だけで会いに行かせるからと、紹介状と地図を書いてもらったのだ」
「地図は、君に直接手渡されたの?」
「当然だ。他人には絶対に見せるなと、ダモンに言われていた。ところが、私が出発の準備をしている間に、地図が紛失してしまったのだ。いや、どうやら盗まれたらしい」
盗まれた?
「すまない。こんな話つまらなかったかな?」
「いや、とても興味深いよ」
「そうなのか? ここしばらく、まともに人と話す機会がなくて、ついべらべらと私の身に起きた事を喋ってしまったが、迷惑なら言ってくれ」
「迷惑じゃないよ。むしろ途中で止められた方が気になる。続けて聞かせてほしいな。地図が盗まれたって、どうして思ったわけ?」
「ああ、私が必死で地図を探している間に、ダサエフ大尉の部隊が、魔法使いの潜伏しているミケ村に攻め込んだのだ。ダモンと私しか知らないはずの潜伏先に。ネクラーソフの手の者が、私の部屋から、地図を盗み出したに違いない」
「なぜ、ネクラーソフがやったと分かるの?」
「ダモンにもう一度、地図をもらいに行ったのだ。だが、ダモンは激怒していた。私が自分からネクラーソフに地図を渡して『魔法使いを拉致してくれ』と頼んだと聞かされていたのだ。私がいくら違うと言っても、聞き入れてくれなかった」
「それで、どうしたの?」
「実は、その後の記憶がないのだ。私は、分身が暴れている間、記憶が途切れる事があるのでな。気が付いた時には、城内に何人もの死傷者が出ていた。みんな、私がやったと言うのだ」
おいおい……三日前に聞いた話と、全然違うじゃないか。いったい、誰が嘘をついてるのだ?
「ちょうど、その頃、ダサエフ中隊との連絡が途切れていてな。ネクラーソフから、様子を見てこいと命令されたのだ。魔法使いを捕まえるまでは、帰ってくるなともな。ようするに奴は、私を厄介払いしたかったようだ」
厄介払いされたという自覚はあったんだ。
「魔法使いには、会えたのかい?」
会ってない事を知りながらこういう事聞く僕って、やな奴だな。
「会えなかった。それどころか、道に迷ってしまい、ダサエフ中隊の駐屯地にも、たどり着けなかった」
近くにまで来ていたのに……
「その時に、おかしな鎧を着た男に出会ったのでな。道を尋ねようと呼び止めただのだが、そいつにおちょくられたもので、つい頭に血が登って発砲してしまった」
道を聞きたかっただけなのか。
だったら、素直に『道を教えてください』と言えばいいものを……
「幸い弾は外れたが……」
いや、当たってた。第一層まで貫通された。
「奴を怒らせてしまい、川に叩き込まれてしまったのだ」
いや、別に怒ってはいなかったけど……
「その直後から、私の記憶が途切れてしまった。どうやら、分身が暴れたらしい」
それは知っている。
「気が付くと、私は荒野に一人倒れていた。近くに怪我をした帝国兵がいたので、話かけてみたのだが、奴は悲鳴を上げて逃げ出した。どうやら、私の分身に何かされたらしい。なんとか捕まえて事情を聞いてみたところ、ダサエフ中隊は魔法使いに敗北して逃走中だというのだ。そこまで話したところで、そいつは死んでしまった。仕方なく、私は一人でここまで落ち延びてきた。しかし、魔法使いを捕まえるまで帰ってくるなと言われているので、城を目の前にして帰るに帰れんのだ」
「しかし、なんでネクラーソフは君にそんな意地悪を? 魔法が暴走したら、奴だって困るのだろ」
「最初は分からなかった。特に恨みを買うような事はしていない。分身を暴れさせて迷惑をかけたりはしたが、それならなおの事、私に早く魔法を習得させたいはずだ。だが、冷静に考えてみれば、奴がなぜこんな事をしたのか納得できる」
「どういう事?」
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「ダシに?」
「私一人を魔法使いの元に行かせるなら、ダモンも教えてくれると考えたのだろう。事実、ダモンは地図を書いてくれた。ネクラーソフは、最初からその地図を奪い取るつもりだったと考えれば……」
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