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第十六章

悪い虫

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 姫の話はさらに続いた。

「ミーチャがわらわの元から消えてしばらく経ったある日、妾は神官からミーチャの消息を聞かされた。なんとミーチャは、偉大なるレム神から見守られていたというのじゃ」

 敬虔なレム教徒なら『見守られていた』と思うだろうが、実際はこうだ。


 見守られていた。 ×

    ↓訂正

 接続され、見張られていた。 ○


「レム神の声を聞くことができる神官には、ミーチャの消息が分かるというのじゃ。それによると、ミーチャはエラから逃げ出した後、敵であるカイト・キタムラ……つまり、おぬしのところへ逃げ込んだそうじゃな?」
「その通りですが……」
「その件については礼を言おう。よくぞミーチャを助けてくれた」
「いえ、人として当然の事ですので……」
「だが、その後が良くないぞ」
「え? 何がですか?」
「今は、おぬしがミーチャの保護者だろ」
「まあ、そうなりますが……」
「保護者なら、ミーチャに悪い虫が付かないように、もっと気を配ったらどうじゃ!」
「悪い虫? なんの事です?」
「キラ・ガルキナじゃ! あいつがミーチャに、色目を使っているのに気が付いていないのか!?」

 いや、気が付いていたけど……

「僕は、人の恋愛には口を出さない主義なので。それにミーチャとキラなら、お似合いだと思っていますから」
「お似合いだと!? そんな事は妾が認めぬ。ミーチャから『お姉様』と呼んでもらって良いのは妾だけじゃ!」

 ううん……困ったものだ。

「カイト殿」

 ん? キラ (分身体)が岩陰から出てきた。

「私が、直接お話をした方がよさそうだな」

 代わってくれるのか。

 正直、この姫様の相手をするのは疲れる。

「出てきたな! キラ・ガルキナ!」
「マルガリータ様。お久しぶりです」
「挨拶などどうでもいい! ミーチャをかけて妾と勝負しろ」
「お断りします」
「なに! なぜじゃ?」
「今のマルガリータ様は手足を拘束された虜囚の身。何かを要求できる立場ではありません」
「妾は、帝国の皇女であるぞ」
「それが何か?」
「なに?」
「今、あなたは帝国の権威が通用しないところにいるのですよ。ご存知ですか?」
「ぐぬぬ」
「それと、ミーチャは一人の人間です。誰かの所有物ではありません。賭けの対象にすべきではない」
「何を言う! 恋人を賭けて決闘をするというのは、よくある事ではないか」
「これは異なことを。マルガリータ様は、ミーチャを恋人として見ていたのですか?」
「え? いや、ミーチャは妾の弟……」
「それなら問題ないではないですか。恋人ならともかく『お姉様』なら何人いても……」
「黙れ! 何が『お姉様』じゃ! 弟の背中や二の腕に、偶然を装って乳を押し付けて誘惑する姉がどこにいる!」

 キラ、そういう事やっていたのか……

「な……何を言っているのですか……私がそんな破廉恥な事……」
「とぼけるな! ミーチャはレム様が常に見守っておられる。ミーチャが見聞きした事、肌で感じた事はすべてレム様に伝わっているのじゃ」
「しまったあ!」

 迂闊だったな。キラ……
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