上 下
670 / 848
第十六章

妾から奪ったモノは返してもらうぞ

しおりを挟む
 すでに鎮痛剤が利いてきたのか、マルガリータ皇女が顔に浮かべていた苦痛の表情はやわらいでいる。

「芽依ちゃん。この人と話をしても大丈夫かい?」
「ええ。もう、鎮痛剤が利いていますから……ただ、この人、態度が偉そうなのですよね。橋本さんも、切れかかっていますし……」

 だろうな。相手は皇族だし……

「隊長。この女、さっきから『殺せ』と言っていますが、ここは武士の情け。望み通りとどめを刺してもいいですか?」

 日本刀のつかに手をかけて物騒な事を言っている橋本晶を制止してから、僕は彼女に話しかけた。

「マルガリータ姫」

 僕に呼ばれて、姫は僕を睨みつけてきた。

「「姫!?」」

 芽依ちゃんと橋本晶も『姫』と聞いて驚いたようだ。

「おまえが、カイト・キタムラか?」
「そうです」
「この卑怯者! 部下に戦わせて、自分は安全なところに隠れていたのか」

 ええっと……まあ、言われてみればそうなるのだが……

「いやいや、誉めるには及びません」
「誉めてない! それより、貴様。わらわの名を知っているという事は、そっちにキラ・ガルキナがいるのだろう?」

 ううん……ここはとぼけるか。

「キラ・ガルキナ? 誰の事ですか?」
「とぼけるな! さっき戦いの最中に見たぞ。ナーモ族の分身体に混じって、キラ・ガルキナの分身体がいたのを」

 あかん……見られていたか。

「確かにキラ・ガルキナはここにいますが、彼女に何かご用でしょうか?」

 本人が会いたくないと言っていたのは、言わない方がいいかな?

「用もへったくりもあるか! 妾が皇帝陛下にゴネまくってまで……いやいや、誠意を込めてお願いしてまで、この部隊の最高指揮官を任せて頂いたのは、奴に鉄槌を下すためだ」

 え? キラは『仲が悪かった人ではない』と言っていたが……何か本人の知らないところで、恨みを買っていたのだろうか?

 いや、それよりも……

「最高司令官? では、北ベイス島駐留帝国軍を指揮していたのは、あなただったのですか?」
「いかにも」

 という事は、小淵の助言を無視した無能司令官は、このお姫様だったのか。

「失礼ですが、階級をお聞かせ願いますか?」
「大佐だ」
 
 連隊長か。

「最高司令官ともあろう人が、なぜ最前線に?」
「馬鹿者! 本来の最前線はここではなく、海岸線だったはずだ。それをおまえの流した卑劣な偽情報のせいで、妾自らここで戦うはめに……」

 卑劣って……ミーチャをスパイに利用していたあんたらが言うか!

「先ほど、山頂基地で小淵に会って聞いたのですが、僕の卑劣な嘘は小淵が見破っていたそうです。でも、それを上司に助言したのに無視されたとか……」
「ウグ!」

 都合の悪いことを言われて姫は押し黙った。
 
「ええい! そんな些細ささいな事はどうでもいい!」

 些細なんだ。

「それより、キラ・ガルキナはどこだ? 早く出せ!」
「その前にお姫様。あなたは、ご自分の立場を理解されていますか?」
「立場だと?」
「あなたは今、捕らわれの身なのですよ。我々に何かを要求できる立場ではない」
「妾は帝国の皇女であるぞ」

 だから、どうした? と、言いたいところだが、帝国とは後で交渉しなきゃならないし、ここでの皇女に対する僕の発言が後で問題になっても困るな。

「いいでしょう。キラに会いたいようですが、会ってどうされるのです?」
「知れたこと。決闘を申し込む」
「決闘? それは穏やかではない。キラが帝国を裏切ってリトル東京へ亡命する事が、そんなに許せないのですか?」
「はあ? 亡命?」

 あれ? その事で怒っているのじゃないのか?

「そういえば、あいつは亡命するそうだな? そんな事はどうでもいい。リトル東京でもカルカでも、行きたければ好きなところへ行けばいい。だが、キラ・ガルキナが、妾から奪ったモノは返してもらうぞ」
「え?」

 キラ、何をやったのだ?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめる予定ですー!

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~

俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。 が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。 現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。 しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。 相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。 チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。 強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。 この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。 大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。 初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。 基本コメディです。 あまり難しく考えずお読みください。 Twitterです。 更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。 https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...