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第十六章

妾から奪ったモノは返してもらうぞ

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 すでに鎮痛剤が利いてきたのか、マルガリータ皇女が顔に浮かべていた苦痛の表情はやわらいでいる。

「芽依ちゃん。この人と話をしても大丈夫かい?」
「ええ。もう、鎮痛剤が利いていますから……ただ、この人、態度が偉そうなのですよね。橋本さんも、切れかかっていますし……」

 だろうな。相手は皇族だし……

「隊長。この女、さっきから『殺せ』と言っていますが、ここは武士の情け。望み通りとどめを刺してもいいですか?」

 日本刀のつかに手をかけて物騒な事を言っている橋本晶を制止してから、僕は彼女に話しかけた。

「マルガリータ姫」

 僕に呼ばれて、姫は僕を睨みつけてきた。

「「姫!?」」

 芽依ちゃんと橋本晶も『姫』と聞いて驚いたようだ。

「おまえが、カイト・キタムラか?」
「そうです」
「この卑怯者! 部下に戦わせて、自分は安全なところに隠れていたのか」

 ええっと……まあ、言われてみればそうなるのだが……

「いやいや、誉めるには及びません」
「誉めてない! それより、貴様。わらわの名を知っているという事は、そっちにキラ・ガルキナがいるのだろう?」

 ううん……ここはとぼけるか。

「キラ・ガルキナ? 誰の事ですか?」
「とぼけるな! さっき戦いの最中に見たぞ。ナーモ族の分身体に混じって、キラ・ガルキナの分身体がいたのを」

 あかん……見られていたか。

「確かにキラ・ガルキナはここにいますが、彼女に何かご用でしょうか?」

 本人が会いたくないと言っていたのは、言わない方がいいかな?

「用もへったくりもあるか! 妾が皇帝陛下にゴネまくってまで……いやいや、誠意を込めてお願いしてまで、この部隊の最高指揮官を任せて頂いたのは、奴に鉄槌を下すためだ」

 え? キラは『仲が悪かった人ではない』と言っていたが……何か本人の知らないところで、恨みを買っていたのだろうか?

 いや、それよりも……

「最高司令官? では、北ベイス島駐留帝国軍を指揮していたのは、あなただったのですか?」
「いかにも」

 という事は、小淵の助言を無視した無能司令官は、このお姫様だったのか。

「失礼ですが、階級をお聞かせ願いますか?」
「大佐だ」
 
 連隊長か。

「最高司令官ともあろう人が、なぜ最前線に?」
「馬鹿者! 本来の最前線はここではなく、海岸線だったはずだ。それをおまえの流した卑劣な偽情報のせいで、妾自らここで戦うはめに……」

 卑劣って……ミーチャをスパイに利用していたあんたらが言うか!

「先ほど、山頂基地で小淵に会って聞いたのですが、僕の卑劣な嘘は小淵が見破っていたそうです。でも、それを上司に助言したのに無視されたとか……」
「ウグ!」

 都合の悪いことを言われて姫は押し黙った。
 
「ええい! そんな些細ささいな事はどうでもいい!」

 些細なんだ。

「それより、キラ・ガルキナはどこだ? 早く出せ!」
「その前にお姫様。あなたは、ご自分の立場を理解されていますか?」
「立場だと?」
「あなたは今、捕らわれの身なのですよ。我々に何かを要求できる立場ではない」
「妾は帝国の皇女であるぞ」

 だから、どうした? と、言いたいところだが、帝国とは後で交渉しなきゃならないし、ここでの皇女に対する僕の発言が後で問題になっても困るな。

「いいでしょう。キラに会いたいようですが、会ってどうされるのです?」
「知れたこと。決闘を申し込む」
「決闘? それは穏やかではない。キラが帝国を裏切ってリトル東京へ亡命する事が、そんなに許せないのですか?」
「はあ? 亡命?」

 あれ? その事で怒っているのじゃないのか?

「そういえば、あいつは亡命するそうだな? そんな事はどうでもいい。リトル東京でもカルカでも、行きたければ好きなところへ行けばいい。だが、キラ・ガルキナが、妾から奪ったモノは返してもらうぞ」
「え?」

 キラ、何をやったのだ?
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