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第十六章

マルガリータ姫

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 起きあがった女性は、二十代半ばぐらいでブロンド髪に碧眼へきがんの美女。しかし、どこかで会ったような?

「ううう!」

 彼女は、痛そうに顔をしかめていた。

 見ると首筋に細長い傷がある。

 あそこに峰打ちを食らったようだ。

 痛いところに手を当てたいようだが、手足を縛られていてできないらしい。いましめを解いてやりたいが、やったらみんな怒るだろうな。

 芽依ちゃんが、鎮痛剤の入った高圧注射器を持って歩み寄る。

「じっとしていて下さい」
「な! なんだ!? おまえは? 私に何をする気だ?」
「治療をするだけですから、安心して下さい」
「治療だと!? 余計な事を! 敵の情けなど……」
「いらないのですか? その怪我だと、すごく痛いと思いますけど……」
「なんの! これしきの痛み……うぐぐぐ……」

 あ~あ、無理しちゃって……

 結局、彼女の意地も苦痛には勝てず、芽依ちゃんに泣いて治療を頼んだのだった。

 最初から、やせ我慢しなきゃいいのに……

「カイト殿」

 ん? キラ (分身体)に呼ばれて振り向いた。

 岩陰で手招きしている。 

 あ! 今、気がついたが、あの女性兵士の顔ってキラに似ている。どこかで会ったような気がしたのはそのせいか。

「キラ。あの女、君の親戚か何かか?」
「マルガリータ皇女だ」
「皇女? という事は、皇帝の娘」

 そういえば、最近忘れがちだけど、キラって皇帝の血筋だったのだよな。

「そうだ。ちなみに、彼女は第六皇女」
「なんで、そんな人がここに?」
「私が聞きたいぐらいだ。確かに武芸に優れている人だが、戦場に出て来るような人ではない。安全な帝都にいるべき人が、なぜこんなところに来ているのか」
「まあ、事情は後でミールに分身体を作ってもらって聞き出せばいいが、キラは顔を合わせたくないのか?」

 キラは首を縦にふった。

「特に仲が悪かった人ではないが、私を見たらきっと『裏切り者』となじるだろう」
「なるほど。無用なトラブルは避けた方がいいな。それなら、キラは隠れていてくれ」
「それと、もう一つあの人には問題があるのだが……」
「問題?」
「それは後で話す」
「……?」

 僕は岩陰にキラを残して、捕虜たちのところへ歩み寄った。
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