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第六章
裏切り
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PC画面は相変わらず真っ暗だが、音だけは聞こえていた。
「カイトさん。こっちからの声は送れないのですか?」
「送ることはできるよ。しかし、周囲で誰が聞いているか分からないから、迂闊な事はできないだろ」
「そうですね。まさか、ダモン様が憑代をポケットに入れるとは考えていなかったです。好都合でしたね」
好都合だけどね……盗聴されている事を知ったら、ダモンさんも気を悪くするだろうな。
扉が開く音がした。
『ダモン師を、お連れしました』
『うむ。ご苦労。おまえは下がってよい』
将軍の部屋に入ったようだ。
『先ほど、ダサエフ大尉が帰って来た。ただし、彼の率いていた中隊は壊滅した』
『壊滅? それで、ミールはどうなりました? 捕らえたと聞いていましたが』
『うむ。ダサエフ大尉。さっき、ワシにした説明をもう一度してくれ』
『そ……それが、ですね』
ダサエフの声だ。
『捕らえた事は捕らえたのですが……夜道を急いだもので、馬車が川に転落しました』
こいつ、虚言癖あるな。
『中隊を総動員して救助活動を行っていたので、報告を送る余裕が無かったのです。翌朝になって下流で倒れているミールを見つけました。意識がなかったので、村に運んで医者に見せていたのです。したがって、本隊に運ぶのは容態を見てからにしようと判断しまして……』
よくまあ、ここまでポンポンと嘘が出るなあ。
『そうだったのか。私はてっきり、ミールの分身魔法に騙されて、取り逃がしたのかと思っていたよ』
ダモンさんも、いい性格している。真実を知っているのに……
『な……なんの事でしょうか! 自分は……』
ダサエフのセリフをネクラーソフが遮った。
『ダサエフ大尉。分身魔法に騙されて、ミールを取り逃がしたのなら、そう言いたまえ。その事で君を咎める気はない。ミールが分身魔法を持っている事を伝えなかったのはワシのミスだ』
『い……いえ……決して、嘘では……』
ああ、もう、しどろもどろだ。
『では、ミールが重症を負っていたというのなら、貴様の中隊を壊滅させたのは何者か?』
『それは……ですね。キラ・ガルキナであります。奴が分身を暴走させたために中隊は壊滅しました』
『ダモン先生。ダサエフ大尉はこう言っているが、キラ・ガルキナの能力で一個中隊を壊滅させる事は可能ですかな?』
『不可能です。ミールならば、魔法回復薬を使えば、できるかもしれない。だが、キラ・ガルキナは、自分の分身を、まったくコントロールできていない。一個中隊を壊滅させる前に、彼女自身が、生命力を分身に吸い尽くされて死ぬだけだ』
『さて、魔法の専門家がこう言っているわけだが』
『その……』
『ダサエフ大尉。ワシはミールを取り逃がした事を咎めるつもりはない。だが、虚偽報告は許さんぞ』
『虚偽報告なんて……自分は……』
あれ? 急にPC画面が明るくなった。
ミールが怪訝な表情を顔に浮かべる。
「ダモン様! 憑代をここで出すなんて、なんのつもり?」
そうか。憑代をポケットから出したのか。でも、なんのために?
『ダサエフ君、これを見たまえ』
ダサエフの顔が大写しになる。
その顔は、ひどく驚いているようだが……
『ダサエフ君。その様子だと、君はこの木札と同じものが見たことがあるね?』
ダサエフは激しく首を横に振る。
『知らない! そんなもの見たことない』
いや、その反応は『見ました』と言ってるようなものだよ。
『君はミールを馬車に乗せたそうだね。そこまでは本当だと思うが、その後でミールは馬車の中から消えてしまったのではないのかい? その後に、この木札と同じものが残っていたはずだ』
ダサエフは、ますますうろたえた。
『知らない……そんな物は知らない』
『ダモン先生。それは、いったいなんですかな?』
でっぷりと太った五十代くらいの男が覗き込むように画面に映った。
このおっさんがネクラーソフのようだ。
『将軍。この木札は、ミールが分身魔法を使う時に使っていた憑代です。分身が消える度に、これがそこに残るのですよ。今でも、この城のあちこちに残っていますよ』
『なるほど』
『ちゃんと片付けるように言っていたのですが、後片付けのできない娘でして……』
「ダモン様ひどーい! あたし、ちゃんと片付けていましたよ。プンプン」
ミールが頬をふくらましていた。
「まあまあ。そういう事にしておけば、ダモンさんが憑代を持っていても不自然じゃないだろ」
「それは、分かりますけど……」
『偉そうに言うなよ! この獣人が!』
あ! ダサエフが切れた。
『ダサエフ大尉。口を慎みたまえ』
ネクラーソフに言われても、ダサエフは口を慎みそうにない。
『ああそうだよ! 俺は嘘をついたよ。だがな、てめーみたいに、仲間裏切る奴にとやかく言われる筋合いはない!』
裏切り?
『確かにテメーの流した情報で、日本人の補給基地を潰せたよ。おかげで日本人の飛行機械は、ここまで飛んで来れなくなって、この城を落とせた。だがな、俺はテメーみたいに、仲間裏切る奴が大嫌いだ!』
「うそ……ダモン様が……裏切り?」
「ミール……」
そうとうショックを受けているようだ。
PC画面に目を戻すと、ダサエフが衛兵に連行されていく様子が映っていた。
「カイトさん。こっちからの声は送れないのですか?」
「送ることはできるよ。しかし、周囲で誰が聞いているか分からないから、迂闊な事はできないだろ」
「そうですね。まさか、ダモン様が憑代をポケットに入れるとは考えていなかったです。好都合でしたね」
好都合だけどね……盗聴されている事を知ったら、ダモンさんも気を悪くするだろうな。
扉が開く音がした。
『ダモン師を、お連れしました』
『うむ。ご苦労。おまえは下がってよい』
将軍の部屋に入ったようだ。
『先ほど、ダサエフ大尉が帰って来た。ただし、彼の率いていた中隊は壊滅した』
『壊滅? それで、ミールはどうなりました? 捕らえたと聞いていましたが』
『うむ。ダサエフ大尉。さっき、ワシにした説明をもう一度してくれ』
『そ……それが、ですね』
ダサエフの声だ。
『捕らえた事は捕らえたのですが……夜道を急いだもので、馬車が川に転落しました』
こいつ、虚言癖あるな。
『中隊を総動員して救助活動を行っていたので、報告を送る余裕が無かったのです。翌朝になって下流で倒れているミールを見つけました。意識がなかったので、村に運んで医者に見せていたのです。したがって、本隊に運ぶのは容態を見てからにしようと判断しまして……』
よくまあ、ここまでポンポンと嘘が出るなあ。
『そうだったのか。私はてっきり、ミールの分身魔法に騙されて、取り逃がしたのかと思っていたよ』
ダモンさんも、いい性格している。真実を知っているのに……
『な……なんの事でしょうか! 自分は……』
ダサエフのセリフをネクラーソフが遮った。
『ダサエフ大尉。分身魔法に騙されて、ミールを取り逃がしたのなら、そう言いたまえ。その事で君を咎める気はない。ミールが分身魔法を持っている事を伝えなかったのはワシのミスだ』
『い……いえ……決して、嘘では……』
ああ、もう、しどろもどろだ。
『では、ミールが重症を負っていたというのなら、貴様の中隊を壊滅させたのは何者か?』
『それは……ですね。キラ・ガルキナであります。奴が分身を暴走させたために中隊は壊滅しました』
『ダモン先生。ダサエフ大尉はこう言っているが、キラ・ガルキナの能力で一個中隊を壊滅させる事は可能ですかな?』
『不可能です。ミールならば、魔法回復薬を使えば、できるかもしれない。だが、キラ・ガルキナは、自分の分身を、まったくコントロールできていない。一個中隊を壊滅させる前に、彼女自身が、生命力を分身に吸い尽くされて死ぬだけだ』
『さて、魔法の専門家がこう言っているわけだが』
『その……』
『ダサエフ大尉。ワシはミールを取り逃がした事を咎めるつもりはない。だが、虚偽報告は許さんぞ』
『虚偽報告なんて……自分は……』
あれ? 急にPC画面が明るくなった。
ミールが怪訝な表情を顔に浮かべる。
「ダモン様! 憑代をここで出すなんて、なんのつもり?」
そうか。憑代をポケットから出したのか。でも、なんのために?
『ダサエフ君、これを見たまえ』
ダサエフの顔が大写しになる。
その顔は、ひどく驚いているようだが……
『ダサエフ君。その様子だと、君はこの木札と同じものが見たことがあるね?』
ダサエフは激しく首を横に振る。
『知らない! そんなもの見たことない』
いや、その反応は『見ました』と言ってるようなものだよ。
『君はミールを馬車に乗せたそうだね。そこまでは本当だと思うが、その後でミールは馬車の中から消えてしまったのではないのかい? その後に、この木札と同じものが残っていたはずだ』
ダサエフは、ますますうろたえた。
『知らない……そんな物は知らない』
『ダモン先生。それは、いったいなんですかな?』
でっぷりと太った五十代くらいの男が覗き込むように画面に映った。
このおっさんがネクラーソフのようだ。
『将軍。この木札は、ミールが分身魔法を使う時に使っていた憑代です。分身が消える度に、これがそこに残るのですよ。今でも、この城のあちこちに残っていますよ』
『なるほど』
『ちゃんと片付けるように言っていたのですが、後片付けのできない娘でして……』
「ダモン様ひどーい! あたし、ちゃんと片付けていましたよ。プンプン」
ミールが頬をふくらましていた。
「まあまあ。そういう事にしておけば、ダモンさんが憑代を持っていても不自然じゃないだろ」
「それは、分かりますけど……」
『偉そうに言うなよ! この獣人が!』
あ! ダサエフが切れた。
『ダサエフ大尉。口を慎みたまえ』
ネクラーソフに言われても、ダサエフは口を慎みそうにない。
『ああそうだよ! 俺は嘘をついたよ。だがな、てめーみたいに、仲間裏切る奴にとやかく言われる筋合いはない!』
裏切り?
『確かにテメーの流した情報で、日本人の補給基地を潰せたよ。おかげで日本人の飛行機械は、ここまで飛んで来れなくなって、この城を落とせた。だがな、俺はテメーみたいに、仲間裏切る奴が大嫌いだ!』
「うそ……ダモン様が……裏切り?」
「ミール……」
そうとうショックを受けているようだ。
PC画面に目を戻すと、ダサエフが衛兵に連行されていく様子が映っていた。
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