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第十六章

万能剣

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 倒れた女性兵士たちの様子を見ると、血は流れていない。

 全員を、峰打みねうちで倒したようだ。

「しかし……鎧の上からでも、峰打ちって効果あるのかな?」

 と、僕が何気なくつぶやいた疑問に、芽依ちゃんが答える。

「橋本さんの刀は、特注品オーダーメイドなのですよ」
特注品オーダーメイド?」
「昨日、イワンの触手を断ち切ったところを見ましたよね?」
「断ち切った瞬間は土煙で見えていなかったが、ヴィイイイン! という機械音が聞こえていた。振動剣という武器かな?」
「そうです。橋本さんの刀は、スイッチ一つで振動剣モードになるのです。他にも、スイッチ一つで高圧電流を流したりもできます」
「高圧電流? スタンガンにもなるという事かな?」
「そうです」

 万能剣か? 他にも、なんか変な機能がついていそうな……

 まあ、それはともかく……

「とにかく、様子を見に行こう。兵士達が目を覚ます前に、縛り上げておかないと」
「はい」


 僕と芽依ちゃんは岩陰から出て、倒れている女性兵士たちのところへ向かった。

 すると、戦闘モードになっているミールの分身たちが僕と芽依ちゃんを追い抜いて行き、そのまま倒れている女性兵士たちに群がる。

 また、損害賠償を取り立てる気か?

 ここしばらく、そういう事はしていなかったのに……

「ミールさん!」

 僕が止める前に、芽依ちゃんが声をかけた。

 十二体の分身が一斉に振り向く。

「なんでしょう? 芽依さん」
「敵兵から、身ぐるみぐのはやめて下さい」
「いやですねぇ、芽依さん。あたしがそんな追い剥ぎみたいな事をするとでも……」

 いや、いつもやっているだろ。

「あたしはただ、彼女たちの武装解除をするだけですから」
「そ……そうでしたか? 失礼いたしました」

 しかし、ミールの略奪行為は、カルカを出てからはなかったと思うが……ロータスで捕まえた帝国兵の財布を抜き取った以外は……芽依ちゃんはなぜ知っているのだ?

「北村さんが、気がつかなかっただけでロータスでもアーテミスでも、ミールさんはやっていましたよ」

 え?

「ロータスでは、戦場で倒れている敵兵の金品をくすねているところを私は見ました」

 マジ!?

「アーテミスでも、盗賊のアジトから金品を運び出していたところも……」

 気がつかなかった。あの時は、他に忙しかったからな……

「それにP0371からも聞いています。カルカに到着する前、ミールさんは敵兵の身ぐるみを剥いでいた事も、北村さんがそれを黙認していた事も……」

 う!

「それを知ったのが温厚な私だったから良かったですが、橋本さんの目の前で、そんな事をしでかしたら大事おおごとですよ」
「そうなの?」
「彼女……曲がったことは嫌いですから……以前から戦場で略奪を行った味方の兵士を、その場で手打ちにする事が何度も……」
「手打ちって? 切っていたのか?」
「いえ。峰打ちですけど……」

 峰打ちでも、鉄の棒で叩かれるのだから、めちゃくちゃ痛いだろうな。

 実際、山頂で峰打ちを食らった敵兵士は、肋骨が折れていたし……

「矢部さんの場合は、峰打ちではなく本当に切られそうになりましたが」
「あいつも略奪をやったの?」
「いいえ。矢部さんの場合は、捕虜にした女性兵士にセクハラを働いた事が原因です」

 つくづく変態だな。

「ミールさん。お手伝いありがとうございます」

 現場に着くと、分身達ミールズと橋本晶が仲良く敵兵士を縛り上げていた。

「私、戦場で敵を打倒すのは得意ですが、その後で武装解除したり縛り上げたりするのは、本当に面倒だなあと……」
「そうでしたか。あたしはそういうの得意ですから」

 得意というより、その後の略奪が楽しいのだろうな。

「それにしても、ミールさん手慣れていますね。財布の中に怪しいものがないか開いて調べるなんて。私だったら、そんな細かいところまでは気がつきませんでした」

 て言うか、それがミールの主目的なのだけど……

「いえいえ、それほどでも」
「ところでミールさん。調べ終わった財布は、もちろん本人に返すのでしょうね? まさか?」
「いえいえ! 着服なんかしませんよ。やだなあ、あたしがそんな事をするような女に見えますか?」

 僕には、見えまくりだが……

 しかし、財布は確かに本人のポケットに戻していた。

 今回はミールも空気を読んで、略奪行為はやめたのかな?

「北村さん。気がつきましたか?」
「何が?」

 僕は芽依ちゃんの方を振り向いた。

「ミールさん。財布を返す前に、中身を抜き取っていましたよ」
「あちゃあ!」

 女性兵士の一人が目を覚ましたのは、その時だった。
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