上 下
667 / 848
第十六章

チャンバラ

しおりを挟む
 入り口の制圧には、それほど時間はかからなかった。

 まあ、当然だ。

 地下施設入り口内に積み上げた土嚢どのうの向こうで、待ちかまえていた兵士は五人だけ。

 残りの熱源体は、橋本晶の言うとおり動物 (羊や山羊)で数を誤魔化していたのだ。

 弾薬もほとんどなかったのか、ミールとキラの分身体相手に無駄撃ちをしていたら、一分もしない間に弾が尽きたのか銃撃が止んだ。

 ただ、その後が少し面倒だった。

 銃撃が止んだ後、ミールとキラには一度後方に下がってもらってから、降伏勧告をしてみた。だが、五人の兵士たちはそれを無視して、刀や槍を構えて地下施設から飛び出してきたのだ。




「隊長。ここは、私にお任せください」

 橋本晶はそう言って日本刀を抜くと、僕たちが隠れていた岩陰から出て敵に向かって駆け出していく。

 なんか、嬉しそうに見えるのだが……

「北村さん。撃ってはだめです」

 援護しようと思ってショットガンを抜いた僕を、芽依ちゃんが制止した。

「なんで?」
「橋本さんって、チャンバラが好きなのですよ」
「え?」
「刀や槍を持った相手には、喜んでかかっていくのです。こういう時に迂闊に銃で援護なんかすると、機嫌を悪くしますから気を付けて下さい」

 彼女も結構、面倒な性格をしているな……

 橋本晶は、敵まで十数メートルのところで立ち止まり、正眼の構えで日本刀を構えた。

「リトル東京防衛隊、橋本晶三尉である。腕に覚えのある者は、かかってまいれ!」

 いや、名乗りを上げている暇があったら攻撃しろよって、元寇の時代から言われているだろう。

 まあ、こっちはロボットスーツを使っているのだから、その程度のハンデは付けてやっても問題ないけど……しかし、翻訳ディバイスを切ったままだという事に気がついていないみたいだな。

 せっかく名乗りをあげたのに、向こうには伝わっていないぞ。

 それに対して、敵の兵士たちも立ち止まると、兜を一斉に取って投げ捨てた。

 兜の下から現れたのは……え? 女?

 五人とも女性兵士ばかり。

 それも若くて可愛い娘ばかり。

 しかし、なんのつもりだ?

 一人の女性兵士が前に進み出る。

「かかって来い! カイト・キタムラ」

 あ! どうやら、ロボットスーツの中身を僕だと思っているらしい。

「どうした? かかってこないのか? 私たちが女であるからといって、遠慮することなどないぞ」

 その背後で、別の女性兵士がニヤリと笑みを浮かべる。

「できまい。おまえは、女を殺せないのだからな」

 なに!?

「な……なぜ、僕の弱点が分かったのだ?」
「北村さん。それ、ボケですか?」

 芽依ちゃんの声が、なんだか冷たく聞こえるなあ。

「どうやら、敵は北村さんの動きを封じるために、女性兵士だけをここに残したようですね」
「心外だな。こんな事で、僕の動きを封じれるわけないだろう」
「じゃあ北村さん。彼女たちを撃てますか?」

 う……無理かも……

 その時になって、橋本晶は翻訳ディバイスを切っていた事に気がついたようだ。

「すまぬ。翻訳機を入れ忘れていたので、君たちが何を言ったのか聞こえなかった。もう一度言ってくれないか」
「面倒くさい男ね!」
「え? 男?」

 ハスキーな声をしているから、男と思われているようだな。

 そして女性兵士たちは、さきほどと同じような挑発を繰り返したのだが……

「どうやら、君たちは勘違いをしているな」
「どういう事よ?」

 橋本晶は、再び日本刀を正眼に構えた。

「北村海斗は私の上司」

 まだ、正式にそうなったわけじゃないけどね。

「私はリトル東京防衛隊、橋本晶三尉である。腕に覚えのある者は、かかってまいれ!」
「ゲッ! カイト・キタムラじゃないの!?」
「落ち着きなさい。向こうも銃を持っていないし、刀で戦う気よ。これなら勝算はあるわ」
「行くわよ! みんな」

 五人の女性兵士たちは一斉にかかって行く。

 そして……

「アクセレレーション!」

 加速機能を発動させると、橋本晶は目にも止まらぬ早さで彼女たちの間を駆け抜けて行った。

 数メートル離れたところで立ち止まると、背後を振り向きもしないで日本刀を鞘に収める。

「ふ! たわいもない」

 彼女がそう言った直後、その背後では、動きを止めた五人の女性兵士たちが糸の切れた操り人形のように地面に倒れていった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

キャンピングカーで異世界の旅

モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。 紹介文 夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。 彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

処理中です...