上 下
95 / 850
第六章

元上司

しおりを挟む
 騎兵たちは、何事もなかったかのように城の方へ戻って行った。
 ただし、その騎兵をデジカメで見ると、出現消滅を繰り返している。
 ミールの作った分身だ。
 本物たちは、どうしているかと言うと……
「そ……それだけは、勘弁してくれ」
「おだまりなさい。お前の物はあたしの物、あたしの物はあたしの物です」
 例によって、ミールに身包みを剥がされて、下着姿で縛り倒されていた。
 しかし、これを見てると、どっちが被害者か分からなくなるなあ……
「ミール。損害賠償の取り立てはいいけど、その前にこいつらから情報聞き出さないと」
「大丈夫です。身包み剥いでからでも、情報は聞き出せますから」
「ミールさん、鬼畜ですね」
「ありかどう。もっと誉めて」
 だから、Pちゃんは誉めてないって……
 ちなみに、さっき作った分身からは、情報を聞き出していない。
 あれは、すぐに城に帰らせなきゃならないので、そんな暇はなかったのだ。
 斥候が帰らないと、何かあったと思われてマズイことになる。
 だから、分身には一度城へ帰って『異常なし』と報告させてから、城の中の目立たないところで消えてもらうことにした。
 城外へ出た兵士が帰ってこなければ大騒ぎになるが、城内で消える分にはそれほど問題にはならないだろう。
「ちっ! しけてますねえ」
 追いはぎ……いや、損害賠償の取り立ては終わったようだな。
 しかし、分身を新たに作り出して情報を引き出してみたが、あまり得られるものはなかった。
 関所の人員交代のタイミングどころか、こいつらは関所の場所すら知らなかったのだ。
「使えない奴ですね。カイトさん、どうします?」
「とりあえず、城の中の人数とか、司令官は誰かとか聞き出してみよう」
 その結果分かったのは、城に詰めているのは一個師団、八千人ほど。
 司令官はネクラーソフ将軍という男だ。
 名前からして、性格悪そうだな……
「ダモン様?」 
 不意にミールが呟いた。
「ミール。どうかしたの?」
「今、送り返した分身が城内に入ったのですが、チラッと知人の姿が目に入ったのです。見間違えかもしれないのですが……」
「じゃあ、映像をチェックしてみよう」
 分身たちには、もちろんウェアラブルカメラを持たせてあるが、まだ映像をチェックしていなかった。
 PCを立ち上げて、リアルタイムの映像を出す。
 ちょうど、上官に『異常なし』と報告しているところだった。
 そこから映像を巻き戻す。
 城門をくぐるところまで戻して、映像スタート。
「あ! そこで止めて下さい」
 二人の人物が、向かい合って何かを話している様子が映っていた。
 拡大してみる。
 一人は帝国人。まだ少年のようだ。
 もう一人はナーモ族の男。歳は五十代ぐらいだろうか?
「間違いありません。ダモン様です」
「ダモン?」
「あたしの上司です。よかった。てっきり城が落ちた時に、亡くなったものかと……」
 ミールの目に、涙が光っていた。
「あ! でも、上司として尊敬していただけで、恋愛感情はありませんよ。第一、ダモン様には奥さんもお子さんもいるし。そもそも、あたしはオジさんは趣味じゃありません」
「ミールさん。誰もそんな事は聞いていません」
「ダモンという人は、ミールと一緒に逃げなかったのかい?」
「非戦闘員を逃がすために、城に留まったのです。立派な方でした」
 映像を少し進めてみた。
 ダモンと向かい合っていた少年が、反対方向を向く。
 少年は突然両手を前に突き出した。
 カメハメ波? いや、ミールがさっき使っていた火炎魔法だ。
 少年の手の先、数メートルのところに大きな火球が出現した。
「ミールさんの魔法より、ずっとすごいですね」
「あたしの専門は分身魔法ですから……火炎魔法は、ついでにやっているだけです」
 映像の中で、ダモンは少年の頭を撫でていた。
「優しそうな人ですね。ミールさんも、あんなふうに頭を撫でてもらった事あるのですか?」
「ありますよ。その時は『火炎魔法はもういいから、君は分身魔法を極めなさい』と言ってもらえました」
「それって、火炎魔法は才能ないから、他へ行けということですね」
「ほっといて下さい」
 いい上司に恵まれたんだな。ミールは……
 自分の下で使い物にならないからって『自殺しろ』なんて言う矢納課長とは雲泥の差だ。
「ところで、非戦闘員を逃がすためと言ってましたが、ミールさんも戦闘員ですよね?」
「う!」
 ミールは少し辛そうな顔をする。
「その時のことを、お話ししましょう」
 ミールは語り始めた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...