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第六章

据え膳食わぬは男の恥だが役に立つ

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 朝には、雨は止んだ。
 しかし、厚く垂れ込めた雲は消えそうにない。
 ミールの話では、こんな天気が一ヶ月続くそうだ。
 太陽電池パネルの発電効率は著しく下がっていた。
 警戒のために浮かべていたドローンも、すべて地表に降ろした。
 敵に近づかれたら大変だが、もうドローンを飛ばす余分な電力はない。
 このままだと、ドローンどころかPちゃんまでスリープモードに入ってしまう。
「まあ、それは大変ですね。お人形さんまで、動かなくなってしまうなんて」
「ミールさん。なんか凄く嬉しそうに、聞こえるのですが」
「そんな事ありませんわ」
「じゃあ、魔法で雲を消して下さいよ」
「そんな、非科学的な魔法はありません」
 魔法そのものが非科学的なんだが……
 とにかく、電源を太陽頼みにしていたのではダメだ。
 何か他の電源を用意しないと……
 とりあえず、プリンターで発電機を作ってみた。
 最初はキャンプで使うポータブル発電機を考えたが、ガソリンとかカセットガスボンベとかが必要と分かって却下。いや、それをプリンターで作れない事もないが、燃料なんかをプリンターで作っていたら、たちまちマテリアルカートリッジが無くなってしまう。
 消耗品は、なるべく現地調達だ。
 この地で手に入るエネルギーで、発電できるものにしないと…… 
 迷った末、三次元CADを使って自分でデザインした簡単な発電機を出力した。
 回転する磁石とコイルを組み合わせたシンプルな装置だ。
 問題はどうやって、これを回すかだが……
 この方法はそろそろ限界だな……
 発電機に付けたハンドルを回し続けていた僕の腕は、もうガクガク……
 しかし、発電機を作った時点で、水素の残量が五%を切ってしまっている。
 もはや、動力源まで作る余裕はない。
「ぜいぜい……Pちゃん。どうだ?」
 とにかく、Pちゃんが動かなくなるのが一番困るので、作った電気は真っ先にPちゃんの充電に回した。  
「ご主人様の作って下さった電気。おいしゅうございました」
「それで、バッテリーはどのぐらい回復した?」
「一・五%です」
 あかん……目眩が……
「きゃー! カイトさん」
 倒れかかった僕を、ミールが支えてくれた。

「これなら、どうだ!」
 半日後。近くを流れる川に、水車を設置した。
 プリンターが動かせないので、廃材を集めて作った僕の手作りだ。
「ご主人様、ありがとうございます。まもなく、エネルギー充電百パーセントに達します。波〇砲は無理ですが、目からビームくらいなら……」
「やらんでいい!」
 ビームと言っても、目についてるライトを灯すだけだろうけど……
「じゃあ、自分の充電が終わったら、後の電気は車に回しといて。僕は疲れたから寝る」
「了解しました。ゆっくり、お休み下さい」
 ん? ミールはどこ行ったんだろう?
 水車を一人で作るのは大変だから、ミールに僕の分身を六体出して手伝ってもらったのだが、もう分身は消してもいいのだけど……
 まあ、いいか。放っておいても、どうせ消えるし……
 テントの中には、布団が出しっぱなしだった。
 いや、不衛生だというのは分かるけど、一々片付けるのもめんどいし……
 東京で一人暮らししていた時も、ずっと万年床だったし……
 
 さて、おやすみなさ……ん? なんだ? この暖かくて柔らかい感触は……
「ああ、カイトさん。この布団、暖かくていいですね」
「ミール!」
 いないと思ったら、布団に中に……
「あの……これは僕の布団……」
「いいじゃないですか。このまま添い寝しましょう」
 ミールは、ガバっと僕の身体にのしかかってきた。
「いや……ヤバいよ。このままじゃ、添い寝じゃ済まなくなる」
「どう済まなくなるのですか?」
「そ……そ……それは……」
「日本の故事に『据え膳食わぬは男の恥』というのがあるそうですね」
 誰だよ? よけいな事教えたのは……

 バサ!

 突然テントの入り口が開いて、Pちゃんが無言で入ってきた。
 無言だが、その目は完全に怒っている。
 Pちゃんは、無言でミールの襟首を掴んで持ち上げた。

 か弱いんじゃなかったのか?

「ミールさん。その故事には、続きがあります」
「続き?」
「据え膳食わぬは男の恥だが役に立つ」
 そんな続き、あったっけ?
「では、ご主人様、ゆっくりお休み下さい」 
 Pちゃんは、ミールの襟首を摘んだままテントから出て行った。
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