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第六章

カマキリ男

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 フロントガラスに叩きつける雨粒はますます激しくなり、ワイパーもほとんど役に立たなくなってきた。
「ち!」
 運転席でハンドルを握っていた、カマキリを連想させる男は、思いっ切り不機嫌そうに舌打ちをする。
「まったく、なんで俺がこんな雨の中で運転しなきゃならないんだ。てめえなんかを助手席に乗せて」
 僕だって、あんたの運転する車なんかやだよ……とは言えず……
「すみません」
「ああ!? なんだ? 聞こえねえよ。デカい声で喋れよ」
「あの……運転代わりましょうか?」
「ああ!? てめえ、何を企んでる?」
 企む? 何を疑ってるんだ? あんたが運転したくないというから、代わろうかと言ってるのに……
「運転代わって、川にでも飛び込む気か? てめえが自殺すんのは勝手だが、俺を巻き込むなよ。それと会社の車は使うな。飛び込むならてめえの車でやれよ」
「自殺なんてしません」
「なんで自殺しないんだよ? てめえ自分が何やらかしたか分かってるのか?」

 さっき僕は顧客の前で挨拶一つ出来ず、過呼吸で倒れてしまった。

 気が付くと、車の座席に座らされていた。

「まったく、ここまで使えない奴とは思わなかったぜ」 

 もう嫌だ。

 こんな所から逃げ出したい。

 外国でも、異世界でもいいから、この……この……あれ? 上司の名前が思い出せない。
 
 とにかく、この名前も思い出せないカマキリ男のいないところへ行きたい。

 雨の音がさらに強くなる。

 ん? 雨の音? なんか変だ? 

 車の屋根というより、テントに叩きつけるような……

 目を開く。

 あ! テントだった。

 そうか、僕はとっくに異世界ならぬ、異惑星に来ていたんだったな。
 いや、来てはいない。
 僕の本体は、地球に残って天寿を全うしたんだ。
 僕はそのコピーに過ぎない。
 なんのためにコピーされたか知らんが……
 
 それにしても、なんであの時は挨拶一つできなかったんだろうな?
 ここ数日、ナーモ族や帝国人相手には普通に話ができたのに…… 
 自分で勝手にコミュ症と決めつけていただけで、やろうと思えば普通に会話できたのだろうか?

 まあ、いいか。もうあのカマキリ男と会わずに済むのだから……

 バサ!

 突然、テントの入り口が開いた。
 人影が立っている。
「わあ! ごめんなさい! かま……じゃなくて、矢納やなさん! 許して」
 あ! とっさに名前を思い出した。矢納やな課長だ。
 てか、なんでこんなところに?
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