上 下
649 / 848
第十六章

岩を挟んで、敵味方がいたとは

しおりを挟む
 イワンの電磁砲レールキャノンを食らい、岩は木端微塵こっぱみじんに砕け散った。

 ただし僕らが隠れている岩ではなく、ここから数百メートル離れたところにある岩だけど。

 しかし、カルルはあそこに何か動く物が見えたと言っていたな。

 動物でもいたのかな?

 ん?

 確かに動く物がいるが……

 あれって、帝国軍兵士では?

 カルルの奴、間違えて味方を撃ったのか。

 五人ほどの兵士が、ズダボロになりながらも何とか立ち上がって、イワンに向かって抗議する。

「エステス殿! なぜ我々を攻撃するのですか?」

 イワンの装甲に丸い穴が開き、スピーカーが出てきた。

 そこからカルルの声が流れる。

「君たち。そこで、何をしていたのだ?」
「対空砲陣地の構築ですよ。エステス殿がドローンに苦戦しているようですので、生き残った対空砲をここいら辺に設置して援護しようと……」
「こりゃまた失礼」
「気を付けて下さい。このあたりの岩影には、我々以外の者もいますので」
「分かった。気を付ける。ところで、犠牲者は出なかったか?」
「幸い軽傷者だけで済みましたが、運んできた対空砲がオシャカです」
「そうか、済まない。対空砲は何門残っている?」
「我々の対空砲がつぶれたので、残り四門です。すでにこのあたりの岩影に配備してあります」
「分かった。ではここに陣取って、奴を迎え撃とう」

 迎え撃つも何も、すでにここにいるのだが……

「ところで、この辺りには岩が多いが、敵は隠れていなかったか?」
「我々が来たときには、特には……」

 偵察が不十分だな。

「まあ、いい。奴の攻撃目標は俺だからな。ここにイワンがいれば、すぐにやってくるだろう」

 そのままイワンは、五十メートルほど移動して停止。

 僕らが隠れている岩から、二百メートルほどの位置だ。

「北村さん。ちょっとまずいです」
「どうした? 芽依ちゃん」
「今気がついたのですが、岩の反対側に帝国軍兵士がいて、対空砲を設置しています」
「なに?」

 岩影から、鏡を出すと、確かにそこに帝国軍兵士が五人ほどいた。

 ううむ。大きな岩を挟んで、敵味方がいたとは……

「でも、これってチャンスではないでしょうか」
「え? チャンス」
「ここから、イワンを攻撃すれば、イワンは味方が邪魔で攻撃できません」
「人質を取るのか。それは卑怯では……」
「何を言っています。戦いに卑怯もへったくりもないと、いつも言っていたのは北村さんではないですか」

 そうだった。ん?

 鏡に映っている帝国軍兵士の様子がおかしい。

 兵士の一人が、僕たちのいる方向を指さして何か叫んでいる。

 どうやら、向こうもこっちに気がついたようだな。

「芽依ちゃん。どうやら気づかれたようだ。迷っている時間はない。今すぐ攻撃する」
「はい」

 僕たちはロケット砲を構えた。

 いかに劣化ウラン弾でも、イワンの真芯まっしんに当てなければ効果が期待できないので、狙いは慎重に定めないと……

 狙いを定めている間に、岩向こうにいる帝国軍兵士の一人がイワンに向かって駆け出した。

 どうやら、このことを報告に行くらしい。

 そんな事をしなくても、さっきみたいに大声を出せばイワンに聞こえると思うが……

 そうか。向こうの帝国軍兵士たちは、まだ僕たちに見つかっている事に気がついていないのだな。

 撃つなら今しかない。

「芽依ちゃん。準備は?」
「いつでも撃てます」

 おあつらえ向きにイワンは静止している。

ー!」

 二発のミサイルが同時に放たれた。

 まっすぐ、イワンに突き進む。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめる予定ですー!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...