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第五章

魔力の暴走

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 ドロノフの映像を出してみた。
 まだ、屋敷の中にいたようだ。
 そこへ伝令が駆け込んでくる。

『同士討ちが続いています。止められません』
 ダサエフは、伝令の胸倉をつかんだ。
『おまえは、分身じゃないだろうな?』
『め……滅相もない』
『分身を見破る道具を持っている奴は、いなかったか?』
『いました』
 
 実は、そいつが分身なわけだが……

『もう一度行って、そいつをここへ連れてこい。あの道具がないと、どうにもならん』
『は』
 伝令が駆け出して行った。
『くそ! 忌々しい小娘が!』
『ダサエフ大尉、お聞きしたいことがあるのですが』
『なんだ? ドロノフ』
『あの魔法使いを捕えて、どうするつもりですか?』
『上層部から命令なので、あまり詳しい事は分からん。ただ、上の方では魔法の使い方を知りたいらしい』
『魔法の使い方? そんな事を聞き出しても、我々に使えるのですか?』
『使えるも何も、帝国人の中に魔力を持ってる奴がどんどん生まれているんだ』
『なんと! 我々の中に、魔法使いが?』
『魔法使いなんて、上等なもんじゃない。魔法使いは魔力を使いこなしているから魔法使いというんだ。帝国人の場合は、使いこなせてないんだよ』
『使いこなせていない?』
『魔力を持ってはいるが、本人の意思とは関係なく魔法が発動してしまい、帝国各地で被害が出ているんだよ』
『被害とは、どうような?』
『突然火がついたり、物が浮かび上がったり、物が壊れたり。そのせいで、あちこちで建物の倒壊や延焼が相次いでいる』

 騒霊ポルターガイスト現象かな?

『他にも、モンスターが出現して、大勢の死傷者が出たという事件も多発している。ナーモ族の魔法使いは、これを制御する技術をもっているらしい』

 だったら、頭下げて教えを請えよ。

『それなら、事情を話して、教えてもらえばよかったのでは』
『ふざけんなよ。俺達は誇り高い帝国人だ。ナーモ族のような卑しい獣人に頭下げて教えを請えるか!』
『しかし、他に方法がないのでは……』
『分かってる。しかし、仮に頭を下げたとして、奴らが素直に教えると思うか? 交換条件として、戦争で奪った土地を返せと言ってくるに決まっている』

 返してやればいいじゃないか。

「やはり、そういう事だったのですね。いや、そうじゃないかと思いましたよ」
 ミールは一人納得したようにつぶやく。
「ミール。どういう事なんだ?」
「いえね、ナーモ族の魔法使いの間では、帝国で、この問題が起きているのじゃないのかと予想していたのですよ」
「なんで?」
「この惑星では、ナーモ族以外にも知性体がいますが、どの種族にも決まった掟があるのです。魔力の強い者は、必ず魔法技術を習得しなければならないと。それを怠った場合の罰則は、国によって違いますが、厳しい国では死刑もありうるのです」
「なんで、そんな事ぐらいで死刑に……?」
「そのくらい危険なんですよ。魔力の強い者を放置するという事は。実際、魔力の暴走事故というのは、毎年起きているのです。だから、どの国も魔法技術習得を法で義務化しているのです。ところが、ただ一つその法律がない国があるのです」
「帝国か?」
「そうです」
「しかし、帝国人て元々も地球人だし、魔法なんて最初からもってるわけ……」
「いいえ。今、ダサエフが言ってた事は、間違えなく魔力の暴走による事故です」
「そうなの?」
「魔力の強さは知能の高さと比例するのです。ナーモ族より知能の高い帝国人に、魔力がないはずありません。なのに魔法技術習得が義務化されていない。だから、帝国内では魔力暴走事故が頻発しているのではと予想していたのです」 
「でも、地球には魔法使いなんていなかったぞ」
「それです。もしかすると、地球には魔力の発動を抑制する要因があったのではないしょうか? だから、魔法技術が発達しなかった。あるいはかつてはあったのに衰退してしまった」
「魔法の発動を抑制する要因て?」
「それが、なんであるかは分かりません」
「ご主人様、ミールさん。お話中申し訳ありませんが、少々悪い事態になってきました」
 いけない。話に夢中になって、ダサエフ達の会話を聞き逃していた。
「ダサエフが、ナーモ族を人質にとって、分身魔法をやめさせようと言っています」
 それはまずい。
「装着」
 僕は、ロボットスーツを身に着けた。
「カイトさん。どうするのです?」 
「ナーモ族を、守りに行ってくる」
 拳銃をミールに手渡した。
「さっき、こいつの使い方教えたけど、覚えているね?」
「はい。記憶はいい方です」
「万が一の時は、これで身を守ってくれ」
「わっかりました」
「Pちゃん。ドローンのコントロールを頼む」
「了解です」
 僕は暗闇の中へ踏み出した。
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