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第十六章

再燃。入れ墨問題。

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 格納庫は爆煙に包まれた。

 地上の様子は見えないが、どうやら仕留しとめられなかったようだ。

 爆煙の中では可視光線は通らないが、赤外線は通過できるため、熱源体がその中を移動しているのが分かる。

 もうしばらくしたら、爆煙の中からさっきの球体が姿を現すだろう。

 ふいにPちゃんが僕の方を振り向く。

「ご主人様。母船が通信を求めています」
「つないでくれ」
「はい」

 モニターに現れたのは、電脳空間サイバースペースの香子。

 カルカで再会した香子と違い、二十代前半の若い姿をしている。

『海斗。さっき送られて来た球体機動兵器の映像を照合した結果、一致する機動兵器のデータが見つかったわ』
「どうだった?」
『ロシア製の機動兵器で名称はイワン。西暦二千八十年頃に開発された兵器よ。地球上で実戦に使われた記録はないけど、植民惑星で使われたという情報があるわ』
「それで、スペックは?」

 香子は首を横にふる。

『《イサナ》のデータベースには、外見のデータしかないの。レーザー砲を出してこなければ、イワンかどうかも特定できなかったわ。球体機動兵器は、米国も日本も中国も作っていたけど、外見上の差異がほとんどないの』
「イワンが、レーザー砲を搭載していることは分かるのか?」
『内蔵しているレーザー砲を出している映像があったからね。出力までは分からないけど。他にもガトリング砲や、多関節マニピュレーターを出している映像があったわ』
「防御力は?」
『それは分からない。少なくとも、ロケット砲の一発や二発じゃ倒せないと思うわ』

 だろうな。

『それと海斗。ついでに確認したい事があるのだけど、今いいかしら?』
「なんだい?」
『ここ数日、体調に異常はない?』
「いや……特には」
『そう。頭の中で、誰かの声が聞こえるとかいう事はない?』

 はあ?

『その顔だと、ないみたいね』
「当たり前じゃないか。いったいなんでそんな事を……まさか!?」
『数日前、海斗のコピーを一人作ったの』

 やっぱし……

『シンクロしていないか確認する必要があったのだけど、どうやら大丈夫みたいね?』
「おいおい……大丈夫で無かったら、どうするつもりだった?」
『その時は、こっちのコピー人間を処分するわ』
「処分って……殺人だぞ」
電脳空間サイバースペースの海斗には、万が一の時コピー人間を殺処分することへの同意書に署名捺印してもらったから。コピー人間の海斗にも、その記憶があるから大丈夫よ』

 いいのかな? 法律上の問題とかは……

『とにかく、そちらの海斗に問題がないと分かったので、コピーは地上に降ろすから、自分と同じ顔の男に出会う事があっても驚かないでね』
「いいけど、どこに降ろすの?」
『カルカよ』
「カルカ? リトル東京じゃないのか?」
『リトル東京にはもちろん行くけど、最初にカルカにいるあたしのコピーを回収してから、二人でリトル東京へ向かうわ』
「そうか。しかし、移動手段はあるの?」
『カルカでは、飛行船を用意してもらう事になっているの。そうそう。リトル東京へ出発する前に、あたしのコピーに求婚プロポーズすると言っていたわ』

 なに!? いや、落ち着け。それをやるのは、僕ではなくて僕のコピーだ。

 ふいにミールが僕にしがみついてくる。

「では、海斗さん。さっそく、コピーと見分けが付くように入れ墨タトゥーを……」

 忘れていた! コピーが出来たら、入れ墨タトゥーを入れる事になっていたんだ。

「待て! ミール! それは作戦が終わってから……」
『ミールさん。入れ墨タトゥーなら必要なくなったわ』
「え? いらないのですか?」
『コピーの海斗に、先に入れ墨タトゥーを入れておいたから』
「なんだ、残念」

 いや、助かった。

「ちなみに、どんな入れ墨タトゥーを入れたのだ?」
『アルファベッドの『K』の文字を額に』

 香子は言うと同時に、画像データを送ってきた。

 デザインされた『K』の文字が額に入っている自分の……いや、自分そっくりの顔がそこにあった。

 なんかヤダなあ。

 すまん。コピー君。僕の代わりにこんな顔にされてしまって……

 もし、地上で出会えたら、お詫びに一杯奢ろう。

「あら! かっこいいわね」

 え? 『かっこいい』って、何を言っているのですか? アーニャさん。

「本当。なかなかいかすわ」

 馬艦長まで……

「お兄ちゃん。かっこいい」

 ミクまで! この流れでいくと……

「カイトさん。みんなもこう言っている事だし、あれと同じ入れ墨タトゥーを入れましょうよ」

 やっばり、こういう展開になったか……

「待って下さい! ミールさん。北村さんに入れ墨タトゥーを入れる話は、別のコピーと区別するためですよ」

 芽依ちゃん。君なら止めてくれると思っていたよ。

「メイさん。それは分かっていますけど、おしゃれで入れ墨タトゥーするのもいいじゃないですか」

 良くない。

「ミールさん。同じデザインの入れ墨タトゥーを入れたら、見分けがつかなくなるじゃないですか。違うデザインにしないと」

 え? 止めてくれるのではないのか?

「そうでした。ではどうしましょう?」
「向こうの北村さんが『K』なのだから、こっちは『L』にして対抗しないと」

 なんで『L』なら『K』に対抗できるのだ?

 意味が分からないが……

「とにかく、入れ墨タトゥーの話は作戦が終わってから考えよう」
 
 爆煙の中から、球体機動兵器イワンが姿を現したのはその時だった。
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