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第十六章

宇宙一のドケチ男

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 ゼロ部隊と菊花部隊が合流してまもなく、北ベイス島から迎撃機が上がってきた。

 その数は八機。

 映像を拡大してみると、ジェットドローン三機、プロペラ機五機。

「少ないわね」

 レーダー画面と映像を見てアーニャがつぶやく。

「向こうもカートリッジを節約したいので、形ばかりの迎撃なのでしょう」
「なるほど。本命は、地上での迎撃ね」
「そうです。しかし、対空砲の位置はナージャが地道に調べ上げてくれました。今頃は、先に上陸した地上走行ドローンが、対空砲陣地に向かっています。すべての対空砲は無理でも、半分ぐらいはつぶせるでしょう」

 それを聞いていたミクが口をはさむ。

「でもさ、なんでフーファイターは来ないの? さっきの戦いで、二機目が出てきたよね。ブラック上司は死んだけど、あれは残っているのでしょ?」
「ミク。確かにフーファイターには予備機があったよ。でも、これは僕の推測だけど、コントローラーはフライング・トラクターにしか無かったんだよ」

 ドヤ顔でそんな事を言った直後に『ご主人様。フーファイターが現れました』などという事になるのでは?

 という不安が一瞬脳裏をぎったが、そんなお約束な事態は起きなかった。

 という事は僕の推測は間違っていなかったという事になるな。

「予備のコントローラーは無かったの? なんで?」
「矢納さんは、凄く心の狭い人だからだよ」
「心が狭い? それって、関係があるの?」
「ああ。あの人は、自分が犠牲になる事によって誰かが特をするという事を、何よりも嫌うんだ。そのくせ、他人には自己犠牲を強いるけど」

 フーファイターとフライング・トラクターのデータは、矢納さんが帝国へ逃げる時に持参したもの。

 元々、マトリョーシカ号にそのデータは無かった。

 フーファイターの予備機はともかく、コントローラーの予備が必要な事態になるとしたら、それは矢納さん本人が死んだ時という事になる。

 自分が死んだ後に、自分の持参したフーファイターで誰かが特をするという事態は、あの人にとって絶対に許せないはず。

「マジ!? 心狭い!」
「この前分かった事だが、矢納さんはリトル東京のドローン部隊の同僚たちからは『宇宙一のドケチ男』とか、陰口を叩かれていたらしいからね」

 そんな話をしている間に、戦闘が始まった。

 最初にミサイルを放ったのは、菊花でもゼロでもなく、その背後にいた飛行船ドローン部隊。

 合計八十発のミサイルを放ち、敵の迎撃機部隊を翻弄ほんろうする。

 大量に放たれたミサイル群を追いかけるように、菊花部隊が敵のドローンに襲いかかった。

 敵のドローンはまたたく間に全滅。

 こちらの損害は菊花一機のみ。

 ゼロ部隊は損害皆無のまま、北ベイス島攻撃を開始した。

 北ベイス島から対空砲が放たれてくるが、弾幕は薄い。

 すでに地上走行ドローンによって、かなりの数の対空砲を潰してあったからだろう。

 ゼロ部隊の放った空対地誘導弾は、最初に北ベイス島のレーダードームを直撃した。

 続いて海岸付近に建っている小屋を攻撃。

 ナージャの調査によって、その小屋には海底に敷設ふせつしたソナーの情報が集まっている事が分かっていたので、攻撃対象に選んだのだ。

 小屋を破壊した時点で、落とされたゼロは三機。

 残った七機のゼロが、対空砲陣地へ次々とミサイルを放つ。

 ミサイルを撃ち切ったゼロは、その機体を弾丸と化し特攻を仕掛けた。

 狙いは対空砲本体ではなく、その近くに置いてある弾薬。

 北ベイス島の七カ所で大爆発が生じた。

 その後、島上空を菊花が飛び回るも、対空砲を撃ってくる様子はない。

 北ベイス島の防空能力は、これで完全に消滅したようだ。

 一方で、海中でも探信音ピンガー途絶とだえる。

 北ベイス島駐留帝国軍は、空と海の守りを同時に失った。
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