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第五章

電脳空間(サイバースペース)会議

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(三人称視点)
 惑星上空三万キロの衛星軌道を、その船は巡っていた。
 船の中に、生物はいない。
 しかし、そのコンピューターの中にある電脳空間サイバースペースでは、千人の人が暮らしている。
 その電脳空間サイバースペースの中にある一つの会議室で、十人ほど男女が長方形のテーブルを取り囲んでいた。
「諸君、集まってくれてありがとう」
 議長席にいた初老の男が挨拶する。
「今から二十五年前に、我々はこの恒星系タウ・セチに到着したわけだが、到着直後に、我々より先に到着していた地球の宇宙船を発見した」
 メインディスプレーに、宇宙船の映像が現れる。
「我々が調べた時には、この船はすでに機能を停止していた。この船のデータを地球に送った後、我々は地表を調査した。その結果、数種類の知生体が文明を築いているのが分かった」
 メインディスプレーに惑星上の村や町の映像が現れる。
「だが、その中にどう見ても地球人にしか見えない種族がいた。彼らの文明は地球の中世程度だが、彼らが帝国語と称している独自の言葉には、英語、仏語、ドイツ語、ロシア語、中国語、日本語の単語がかなり含まれていた。また、帝国文字という文字は、アルファベットを別の記号に置き換えたものに過ぎない事が判明した。DNA鑑定の結果も地球人だった。にも拘わらず、彼らは『自分達はこの惑星で発生した種族だ』と言い張っている。ただ、言い張るだけならいいが、帝国は他の国々に、侵略の手を伸ばしていた」
 メインディスプレーに、地表で起きている戦争の様子が映った。
「帝国人がこの惑星で発生したというなら、我々には干渉する資格はない。しかし、彼らが地球人の末裔であるなら、これは放置できない。明らかに宇宙条約に反することだ」
 一人の男が意見を挟んだ。
「議長。その事は、ここにいる面々はすべて知っています。話を進めて下さい」
「うむ。そうだったな。実は先ほど、地球から通信が届いた」
 会場内がどよめいた。
 一人の女性が発言する。
「それは、二十五年前に送った報告への返事ですか?」
「そうだ。あの宇宙船を出した国へ問い合わせたところ、あの船には百万人分の凍結受精卵があったらしい」
 別の女性が質問する。
「なぜ、凍結受精卵なんかを積んでいたのでしょう? 私たちと同じようにデータだけにすれば軽くて済むのに」
「もっともな疑問だ。確かにデータだけなら軽くて済むが問題がある。人間を含め生物など、内部に流体を持っている物体をプリントする時は、無重力状態でなければならない。だから、我々が地表に要員を送る時は、この船でプリントしてから、大気圏突入体で地表に送り込んでいる。だが、これでは地表に大量の人員を送り込めない。しかし、凍結受精卵なら、地表に送り込んだ後で、プリンターで人工子宮を作り、大勢の人間を生み出せる」
 一人の男が手を上げた。
「そもそも、そんな大量の人員なんて必要はないと思うのですが。植民地を作るならともかく」
「その国は、最初から植民地を作るつもりでいたらしい」
「なんと! しかし、この惑星には原住民がいます。侵略は、国連が禁止しています」
「かの国は、原住民がいた場合は断念するように、人工知能AIに指示してあったと言っている」
「疑わしいものですね。最初から侵略する気満々で船を送り出しておいて、いざとなったら『暴走した人工知能AIが勝手にやった』と言い逃れるつもりだったのではないのですか?」
「私もそう思う。しかし、証拠がない。ただ、我々には国連から正式な要請が来た。『手段を尽くして原住民を守り、帝国の侵略を阻止せよ』と」
「もう、帝国との戦いは始まっていますけどね」
「しかし、これで我々の戦いに大義が生まれた。それに兵器の三次元データも送られてきた。これからは、プリンターで正規の兵器を作れる」
「ありがたい話ですね。しかし、データがあっても、マテリアルカートリッジが残りわずか。なんとかかき集めたカートリッジを積んだシャトルは、落とされてしまった。どうするんですか?」
「落とされたシャトルの人工知能AIと、乗せてあった北村海斗君のコピーは生きているらしい。そして現在は、マテリアルカートリッジを持って、敵の手を逃れてるようだ」
「本当ですか?」
「ただ、人工知能P0371は、メインコンピューターからサポート用アンドロイドに移った際に、かなりのデータを失ってしまったと推測される。北村海斗君のコピーも、生データから再生したために事情をなにも知らない」
「それでは、リトルトーキョーに指令を送って人員を……」
「いや。まだ大気圏突入体が一つ残っている。カートリッジも、人間一人ぐらいなら再生できるぐらいの余裕はある。そこで、君たちにお願いしたい。北村海斗君をサポートするために、地表に送る者を人選してほしい」
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