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第十六章

意外な過去

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「二つのうち一つは……」

 レムは矢納さんの遺体に、侮蔑ぶべつするような視線を向けた。

「嫌いだからですよ。この男が……」

 それは、分かる。

「嫌いでしたが、この男と取引をしないと、私は現状のシステムを維持することすら困難な状態でした。だが、取引をした結果この男は、私にいろいろと無理難題をふっかけてきましてね。特に我慢ならなかったのは、北村海斗さん。あなたを殺すのに協力しろという事でした」
「僕を殺したくはないのか?」

 自分も殺されるのは嫌だが……

「ええ。殺したくありません。なぜなら、私はあなたが大好きだったから」

 は?

「あなただけでない。芽依さん」
「わ……私がなにか?」
「あなたの事も、大好きでした」
「え!?」

 どう言うことだ? こいつ、まるで僕たちの事を昔から知っているみたいに……

「そして私が矢納を殺したい二つ目の理由ですが……知りたいですか?」
「知りたいから、聞いている」
「教えてもいいですが、その代わり私の頼みを一つ聞いてもらえますか?」
「なんだ?」
「北村海斗さん。そして芽依さん。バイザーを開いて、お二人の素顔を見せてください」

 なに? なんのつもりだ?

「ああ! もちろん、バイザーを開いたら、その隙に攻撃しようなんて事は考えてはいません」

 そう言って、レムは手にしていたボーガンを放り投げた。

 水音を立ててボーガンは湖面に落ち、沈んでいく。

 だが、芽依ちゃんは油断なくショットガンを構えていた。

「攻撃しないと言いましたね。でも、口の動きを見て分かりました。口の中に何かを含んでいますね」

 なに!?

「やれやれ。さすが、芽依さん。鋭い観察眼だ」

 こいつ! やはり、以前から芽依ちゃんを知っている。

「芽依ちゃん。こいつと面識あったの?」

 芽依ちゃんはブンブンブン! と首を横に振る。

「よく見て下さい。私の口の中を」

 そう言ってレムは口を大きく開いた。

 舌の上に乗っているのは薬のカプセル。

「見ての通り、自決用毒薬カプセルです。あなたたちを攻撃できるような物ではありません。だから、安心してバイザーを開いて下さい」
「断ると言ったら?」
「その時は、仕方ありませんね。これ以上、あなたたちに情報を渡すわけにはいきませんので、このカプセルを嚙み潰します」
「待て!」

 こいつ、なぜそこまでして僕たちの顔を見たがる?

 だが、危険はなさそうなのでバイザーを開いた。

 芽依ちゃんも、少し躊躇ちゅうちょしてから開く。

 レムはシゲシゲと僕たちの顔を見た。

「若いなあ。二人とも……でも、なつかしい」

 懐かしい?

「どうやら、あなた方は私と出会う前のオリジナル体からデータを取られたようですね。これでは私を知らなくて当然」

 出会う前?

「どういう事だ? レム・ベルキナのオリジナル体は、僕たちと出会っていたというのか?」
「ええ。私のオリジナル体は日本留学中に、あなたたち夫婦のお世話になっていたのですよ」

 なんだってえぇぇ!?
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