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第十五章
格納庫でのひととき
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完成した水彩画に、カルル・エステスがサインを書き込んだのは、大きく開かれた出入口から夕日が射し込む北ベイス島の機動兵器格納庫。
戦いが始まる前に、絵は完成したようだ。
「この絵は、君にやろう」
モデルになった女性兵士に、カルルは絵を手渡す。
「良いのですか? もらってしまって」
「ああ。近日中にここは戦場になる。せっかくの絵を、戦火に焼かれたくないからな。明日、帝都に向かう定期便が出る。それに乗せて、君の家族に届けてもらえ」
「ありがとうございます。これで、心おきなく戦えます」
「いい心がけだ。だがな、戦いが始まっても無茶はするなよ。もし危なくなったら、金色のロボットスーツの前に出て、女だと分かるように兜を外して素顔を晒すのだ。あいつはドスケベだから、美女は絶対に殺さない」
「ええ!? ドスケベなのですか? カイト・キタムラって」
「ああ。普段は紳士面しているが、あいつは絶対ドスケベだ。男は平然と殺すのに、女は殺さない理由が他に考えられない」
「はあ」
そう思うのは、あんたがドスケベだからでは……とノドから出掛かったセリフを、女性兵士は寸前で飲み込む。
「でも、なんで敵艦隊は、到着が遅れたのでしょう?」
「馬鹿な神様が、余計なちょっかいをかけたせいだ」
「え?」
「ん? 神を馬鹿呼ばわりするなんてとんでもないとでも言いたいのか?」
「い……いえ……でも……そんな事を言って、怖くないのですか? 神罰が」
「神罰が怖くて生きてられるか。罰なんぞ当てられるものなら当ててみやがれ。ダメ神が」
カルルの脳裏に声が聞こえてきた。
『私はそんな安易な挑発には乗らないが、君とは違って信心深い彼女が怖がっているぞ』
「だったらどうした」
そう言ってから、カルルは女性兵士の方を向く。
「神としばらく話をするが、気にしないでくれ」
「はい」
カルルは神との会話に戻った。
「その様子では、ミクの拉致には失敗したようだな」
『いや、まったく。アーテミスの盗賊たちが、あそこまで無能だったとは……』
「潜水艦に忍び込ませたスパイにも、気付かれたのではないのか? アーテミスでミクが一人で行動している事が、なぜあんたに分かったのかを不審に思うだろうな」
『スパイについては、アーテミスに上陸する以前から怪しまれている。しかし、私のクローンは、以前に分身魔法による尋問を受けている事から容疑から外れているようだ。カイト・キタムラは一度会議で決めた作戦の変更内容を、わざわざクローンのいる前で話した。クローンは、信用されているようだ。ただ、ダニーロビッチ・ボドリャギンが、私に接続されている事は知られてしまった。余計な事を喋らないうちに始末するようにクラウジー・モロゾフに命じたが、失敗したようだ』
「だったら、もうかなりの情報が海斗に漏れただろうな」
『なに。ボドリャギンには、たいして重要な情報は持たせていない。それより、潜水艦隊が先ほど内海に入った。今は港町で食料の補給をしているが、明後日にはベイス島は戦闘行動半径に入る。準備をしておいてくれ』
「準備だと」
カルルは、格納庫の奥に視線を向けた。
視線の先では、機動兵器が鈍く光っている。
「準備などとっくに終わっている。ヒマすぎて絵を描いていたぐらいだ」
『では、期待しているぞ』
声はそのまま途切れた。
「海斗よ。おまえが来たら、俺は全力で戦うことになるだろう。俺がやりたくなくても、その時はもう一人の俺が目覚めてしまうのでどうにもならん。悪く思うなというのは、無理な話だが……」
カルルは機動兵器を一瞥する。
「おまえなら、こんなポンコツには負けないと信じている」
(第十五章終了)
戦いが始まる前に、絵は完成したようだ。
「この絵は、君にやろう」
モデルになった女性兵士に、カルルは絵を手渡す。
「良いのですか? もらってしまって」
「ああ。近日中にここは戦場になる。せっかくの絵を、戦火に焼かれたくないからな。明日、帝都に向かう定期便が出る。それに乗せて、君の家族に届けてもらえ」
「ありがとうございます。これで、心おきなく戦えます」
「いい心がけだ。だがな、戦いが始まっても無茶はするなよ。もし危なくなったら、金色のロボットスーツの前に出て、女だと分かるように兜を外して素顔を晒すのだ。あいつはドスケベだから、美女は絶対に殺さない」
「ええ!? ドスケベなのですか? カイト・キタムラって」
「ああ。普段は紳士面しているが、あいつは絶対ドスケベだ。男は平然と殺すのに、女は殺さない理由が他に考えられない」
「はあ」
そう思うのは、あんたがドスケベだからでは……とノドから出掛かったセリフを、女性兵士は寸前で飲み込む。
「でも、なんで敵艦隊は、到着が遅れたのでしょう?」
「馬鹿な神様が、余計なちょっかいをかけたせいだ」
「え?」
「ん? 神を馬鹿呼ばわりするなんてとんでもないとでも言いたいのか?」
「い……いえ……でも……そんな事を言って、怖くないのですか? 神罰が」
「神罰が怖くて生きてられるか。罰なんぞ当てられるものなら当ててみやがれ。ダメ神が」
カルルの脳裏に声が聞こえてきた。
『私はそんな安易な挑発には乗らないが、君とは違って信心深い彼女が怖がっているぞ』
「だったらどうした」
そう言ってから、カルルは女性兵士の方を向く。
「神としばらく話をするが、気にしないでくれ」
「はい」
カルルは神との会話に戻った。
「その様子では、ミクの拉致には失敗したようだな」
『いや、まったく。アーテミスの盗賊たちが、あそこまで無能だったとは……』
「潜水艦に忍び込ませたスパイにも、気付かれたのではないのか? アーテミスでミクが一人で行動している事が、なぜあんたに分かったのかを不審に思うだろうな」
『スパイについては、アーテミスに上陸する以前から怪しまれている。しかし、私のクローンは、以前に分身魔法による尋問を受けている事から容疑から外れているようだ。カイト・キタムラは一度会議で決めた作戦の変更内容を、わざわざクローンのいる前で話した。クローンは、信用されているようだ。ただ、ダニーロビッチ・ボドリャギンが、私に接続されている事は知られてしまった。余計な事を喋らないうちに始末するようにクラウジー・モロゾフに命じたが、失敗したようだ』
「だったら、もうかなりの情報が海斗に漏れただろうな」
『なに。ボドリャギンには、たいして重要な情報は持たせていない。それより、潜水艦隊が先ほど内海に入った。今は港町で食料の補給をしているが、明後日にはベイス島は戦闘行動半径に入る。準備をしておいてくれ』
「準備だと」
カルルは、格納庫の奥に視線を向けた。
視線の先では、機動兵器が鈍く光っている。
「準備などとっくに終わっている。ヒマすぎて絵を描いていたぐらいだ」
『では、期待しているぞ』
声はそのまま途切れた。
「海斗よ。おまえが来たら、俺は全力で戦うことになるだろう。俺がやりたくなくても、その時はもう一人の俺が目覚めてしまうのでどうにもならん。悪く思うなというのは、無理な話だが……」
カルルは機動兵器を一瞥する。
「おまえなら、こんなポンコツには負けないと信じている」
(第十五章終了)
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