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第十五章

大丈夫! なんとかなるさ

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 深夜。

 月明かりに照らされる大河マオ川を、《海龍》《水龍》は自動航行で進んでいた。

 もう、アーテミスの町からは、かなり離れたことだろう。

 念のため、ミーチャが寝た事を確認してから、僕は倉庫に向かった。

 先に倉庫に入っていたアーニャが、樽の酒をビンに移し替えている。

 僕が入ってきた事に気が付いて、アーニャが振り向いた。

「北村君。先に、お酒に手をつけなかった?」
「え? いいえ」
「変ねえ。お酒が少し減っているのだけど……」
「僕じゃないですよ」
「そう。じゃあ、この倉庫には酒好きの妖精でもいるのかしら?」
「みんなにも声をかけたから、誰かが先に酒をんで行ったのではないでしょうか?」
「あまり、ケチな事は言いたくないけど、人の酒を無断でんでいくのはどうかと思うわ」
「そうですね」

 この酒樽はアーニャの私物であって、勝手に持ち出すのは良くないな。

 誰がやったのか分かったら、やんわり注意しておこう。

「ところで北村君。酒のついでに、みんなに大切な話があると言っていたけど……お酒の飲めない子たちは、参加できないけどいいの?」
「ええ。理由は、甲板で話します」

 今回の顛末てんまつをみんな話さなければならないが、それにはミーチャに席を外させる必要がある。

 ミーチャが見聞きした事は、レムにれてしまうので。

 だからと言って、今まで作戦会議に参加させていたミーチャを、なんの説明もなく外せばレムから怪しまれる。

 そこでミーチャが参加できない酒席で、みんなに話すことにしたのだ。

 もちろん酒席だと、キラとミクも参加できないが、キラは分身体で、ミクは式神でとリモート参加という事になった。

 こういうのも、リモート参加と言っていいのか疑問だが……

 司令塔から外へ出ると、《海龍》《水龍》が接舷していた。

 《水龍》の甲板で明かりが灯っている。

 その明かりの元に、テーブルが用意されていて、そのテーブルの周りをミールとPちゃん、芽依ちゃん、レイホー、馬艦長、キラ、エラ、カミラが囲んでいた。

 ん?

 デジカメをキラに向けて見た。

「キラ。分身体で、参加するはずでは無かったのか?」
「何を言っているのかな? 私は分身体で、本人はベッドで寝ているぞ」

 それを聞いたミールとPちゃんが、キラをギロっとにらむ。

 ミールは分身魔法使いだから意識を集中すれば肉眼で分身体を見破れるし、Pちゃんの目はデジカメと同じなのでそのまま見破れる。

「キラさん。さっきまでは分身体だったのに、いつの間に本物と入れ替わったのです?」
「キラ。分身体は、どこに隠しました?」

 キラはしぶしぶと答えた。

「みんながよそ見をしている隙に、テーブルの下に……」

 テーブルの下から、もう一人のキラが出てくる。

 デジカメを通して見ると、今度は出現消滅を繰り返していた。

 僕はキラの肩に手を置く。

「キラ。酒に興味を示すのはいいが、君はリトル東京に行くのだろう。ならば、そこの法律は守ろう。お酒は二十歳はたちからだ」
「カイト殿は、二十歳はたち前に、飲まなかったのか?」

 ギク!

「あ……当たり前じゃないか。飲んでなんか……いないぞ……」

 すんません。大学に入学したその日に飲みました。

 いや、あの時は十八から飲めると思い違いをしていて……

「それにお師匠だって、未成年ではないですか」
「あたしは、ナーモ族だからいいのです」
「でも、私はまだリトル東京に入っていないし……」

 僕はカミラの方を向いた。

「カミラさん。帝国では、何歳から飲酒が許されるのですか?」
「二十一歳です」

 日本より厳しい。

「キラ。良かったじゃないか。リトル東京に行けば、帝国より一年早くおおっぴらに酒が飲めるぞ」
「はあ、そうですね」

 諦めてキラの本体は、分身体を残して《海龍》に引き上げていく。

 キラと入れ替わりに、ミクの式神の赤目が《海龍》から出てきた。

 これで全員そろったな。

 僕はここにいる全員に、ミーチャがレムのクローン人間であり、今もレムとは脳間通信で常時接続されているという事実を打ち明けた。

 僕の話を聞き終わってから、しばらくみんな無言でいた。

 最初に口を開いたのはキラ。

「そんな……ミーチャが、レムと接続されていたなんて……」

 芽依ちゃんが、メガネを外して涙を拭う。

「ミーチャ君……レムシステムの一部にされるために、作られた子だったなんて……そんな……」

 しばらく無言でいたアーニャが、不意にジョッキを掴み中身を一気に飲むと、ジョッキを叩きつけるようにテーブルに戻した。

「レムとは長い間戦ってきたけど、今夜ほど奴にムカついた事はないわ。コンピューターの部品にするために、クローンを作っていただって? 人間を、何だと思っているのよ!」

 不意に赤目が僕の膝に飛び乗る。

「北村海斗様。主が一人でいるのは辛いから、そっちへ行っていいか? と、聞いておりますが」

 仕方ないな。

「いいぞ。酒は飲ませないが」
「と言うか、すでに来ております」
「え? うわ!」

 背後から、ミクが抱きついてきた。

「お兄ちゃん! お願い! ミーチャを助けてあげて。ミーチャは何も悪くない! レムに利用されていただけなんだから」
「ミク。落ち着け」
「ミーチャは可哀そうな子なの! 自分がスパイをさせられているなんて、知らなかったのよ! だから、ミーチャを罰したり追放したりなんてしないで!」
「カイト殿!」

 うわ! キラまで本人が出てきて僕にしがみ付いてきた。

 リモート参加の意味がねえ。

「私からも頼む。ミーチャを処分しないでくれ。もし、ミーチャを追放するというなら、私も一緒に追放してくれ」
「二人とも落ち着け。僕がそんな事をするわけないだろう」
「「本当に?」」
「当たり前だ。ミーチャは大事な仲間。どんな事があっても助ける」

 だいたいミクもキラも、僕をどんな目で見ていたんだ。

 僕がミーチャを犠牲にするような人でなしに見えるか?

「ありがとう! お兄ちゃん」「ありがとう! カイト殿」

 この二人、そのうちミーチャを取り合って三角関係になるんじゃないのか?

 まあ、その方が今の状況よりもいいさ。

「前にも言ったが、レムに接続された人を助ける目途は立ったんだ」
「でも」「まだ方法は分からないのでしょ?」
「大丈夫! なんとかなるさ」

 どうやって助けるかなんて、これから調べればいいだけの事。

 すべてはベイス島を落としてからだ。 
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