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第十五章

ダニーロビッチ・ボドリャギン

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 廃工場から出てきた盗賊たちの数は、百五十人を越えた。戦力を総動員してきたようだ。

 その人数を、一々数えていたわけじゃない。上空のドローンが、熱源体の数を計測したので分かったのだ。

 それにしても、これからこの人数を皆殺しにすると思うと、気が重いな。気が重いが、やらないわけにはいかない。

 蛇型ドローンが、廃工場内部から撮ってきた映像を見てしまった以上は……

 あれを見ていなければ、僕も見張り小屋の奴らに手加減をしていたかもしれない。

 だが、廃工場の中で、こいつらのやっている所行しょぎょうは、ミクの拉致を抜きにしても許せる事ではなかった。

 先ほどの熱源体観測で、廃工場内にいると分かった人数は二百五十。

 今、外へ出てきた百五十人を引くとまだ百人残っている。その三分の一は、こいつらの留守番として、残りは拉致被害者……それも子供ばかり。

 そして、その子供たちを買いに来た客とおぼしき者たちが数名……

 もちろん、買うとは養子にしようとか言う意味ではない。

 強制労働なら、まだ許せる。

 この中で奴らがやっていたのは、身の毛もよだつ性的虐待だった。

 そんな映像を見てしまった後で、こいつらを許せるほど僕は優しくはなれない。ここにいる百五十人が、全員それに関わっていたわけではないにしても、僕の中からフツフツと沸き上がってくる怒りは、こいつら全員を皆殺しにせずにはいられなかった。

 さてと、廃工場から出てくる人の流れは止まったようだ。

 盗賊たちは、僕から一定の距離を保ったまま近づこうとはしない。

 少しは学習したか。

 程なくして、リーダーらしき男が進み出る。

 四十代ぐらいの帝国人だ。

「そこの変な野郎、俺の名はダニーロビッチ・ボドリャギン」

 また、長ったらしい名前……ん? どっかで聞いたような?

「そっちの名を、聞かせてもらおう」

 名乗ったら、ミクを救出に来たことがばれるな。

 ここは……

「外道に名乗る名など無い」
「ふん! おまえの目的は、分かっているぞ」

 なに!? こっちの目的がミク救出だと分かっているのか?

 いや、その前にこのダニなんたらとかいう男……

 僕は横にいるキラの方を振り向いた。

「こいつって、ミーチャを誘拐しようとした奴らの親玉か?」
「そうだが……知らなかったのか?」

 なんだ、盗賊団っていくつもあるのかと思っていたが、同じ盗賊団だったのか。

「キラ。さっき『来る途中』とか言っていたけど、一人でこいつらを成敗しようとして来たのか?」
「え? いや……まあ、そんなところだな」

 まあ、気持ちは分かる。こいつらのやっている事を知ったら、殴り込みの一つや二つやりたくはなるだろう。

 しかし……

「キラ一人でこの人数を相手にするのは……」
「いや、私は隙を見て、ダニーロビッチ・ボドリャギンの首だけを持ち帰ろうと……あ! いやなんでもない」
 
 なんでもないはずないだろう。キラは何を隠しているのだ?

 首だけ持ち帰って、どうするつもりだ?

「そこの変な奴。一つだけ聞こう」

 ダニなんたらの奴、何を聞きたいのだ?

「アーテミスの奴らは、俺の首にいくらの賞金をかけた?」

 え? 賞金?

 僕はキラの方を向いた。

「キラ。あいつ、賞金かかっているの?」
「そ……そうだ」
「いくら?」

 キラは少し躊躇ちゅうちょしてから答えた。

「金貨百五十枚」

 そいつはでかいな。そうか、キラ。賞金を独り占めしたくて黙っていたのだな。

「カイト殿。ここは山分けにしよう」
「別にかまわんが……」

 キラの奴、いつからこんなに強欲になったんだ?

「なんで、そんなに金が欲しい?」
「もっと、ミーチャにいろんな服を買ってやりたいんだ」

 ああ、そういうことか。しかし、相手はミーチャだからまだいいが、キラって下手すると、ホストにみつがされるタイプだな。

「おい! いつまで黙っている。俺の賞金はいくらだ?」

 おっと! ダニなんたらのことを忘れていた。

「おまえの賞金額は、金貨百五十枚だ」
「ふん。やはりおまえの目当ては賞金か」

 まあ、そう思わせておいた方がいいか。下手に理由を教えて、ミクや子供たちを人質に取られてはかなわん。

「いかにも僕は賞金稼ぎ。だが、そんな事を聞いてどうする? 金貨二百枚出すから、見逃してくれとでも言いたいのか? それなら考えてやらなくもないが」
「誰がそんな事言うか! 金貨はおろか、ビタ一文出さん。てめえにくれてやるのは鉛玉だ!」

 その直後、盗賊たちは一斉射撃を開始。

 しかし、何発撃ってきても九九式の装甲は貫けないし、キラの分身体も憑代に当たらない限りダメージはない。

 ただ、トレンチコートが次第にボロ布になっていく。

 いや、コートなんて別にしくはないのだけど、これが無くなったら正体がばれる。

 その前に……

「キラ。ここは僕が引き受けるから、今のうちに回り込んでミクのところへ行ってくれ」
「分かった」

 キラの分身体は姿を消した。

 ただし、空中には憑代の短剣が浮いている。

 短剣はそのまま猛スピードで敵陣に向かっていき、廃工場内へと入っていった。

 よし! 救出はキラに任せて、僕は奴らに悪事のツケを払わせてやる。
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