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第十五章
廃工場2
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「さてと」
中州とこちらの岸の間には、石橋が一本かかっている。中州へ渡る唯一の手段のようだ。
橋の入り口に小屋がある。見張りがいるのだろうな。
ドローンからの観測では、小屋の中に熱源体は二つ。
「オレーク。どうすれば、金をもらえると聞いている?」
僕の質問に、オレーク本人ではなく、分身体の方が口を開く。
「女の子から盗った紙束を、見張りに差し出して『これを届けにきた』と言えば、金がもらえると聞いていた」
よし。奴らが本当に約束を守るか見てみるか。
憑代の束から、数枚の憑代を引き抜いて分身体に持たせ、橋まで行かせた。
もちろん、分身体にはカメラとマイクを仕掛けてある。
程なくして、分身体のオレークは橋の見張り小屋の前に立った。
『これを届けに来た』
スピーカーからオレークの声。
映像には、三十代半ばぐらいの帝国人の男の姿が映った。男はニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべている。
ああ! こりゃあ約束破る気マンマンだな。
『おお! 話は聞いているぞ』
『約束の金貨をおくれよ』
『すまんが金貨は切らしているのでな、代わりに鉛玉をくれてやるよ』
ほら、やっぱり。
ズドン!
『おいおい。殺してしまったのかい?』
もう一人、別の男が出てきた。
『殺しておかないと、俺たちが報酬を着服した事がばれるだろ』
なるほど。オレークと実際に会っていた奴は、騙す気はなかったのか。
ただ、見張り番の奴らが横領していたという事だな。
横を見ると、本物のオレークがガタガタと震えていた。
「オレーク。こうなることは予想していたのだろう?」
「分かっていたけど……でも……もしかすると……」
「もしかすると、なんだ?」
「金貨が……もらえると……」
「そんなに、金がほしいか?」
「そんなの欲しいに決まっているだろう!」
「まあ、普通はそうだな。だが、命の危険を犯してまで欲しいと思うのか?」
「それは……」
「あそこに行っても、おまえが金貨をもらえる可能性など最初からなかった。あるのは確実な死だ」
「ちくしょう! みんなして、俺をバカにしやがって」
「ほれ」
僕は、オレークに銀貨を五枚差し出した。
「なんだよ?」
「少ないがとっとけ。これで母さんに、美味い物でも食わせてやれ」
「なめんなよ! 誰が施しなんか……」
「そうか。いらないのか……」
手を引っ込めた。
「ああ! 待ってくれ!」
「施しは、いらないのだろ?」
「そうだけど……」
オレークは、しばらく考え込んだ。
「返す」
「何?」
「後で必ず返すから、今はその金を貸してくれ」
「いいだろう。ただし、盗んだ金は受け取らん。まじめに働いて稼いだ金で返せ」
「分かったよ」
僕はオレークの胸ポケットに銀貨を入れた。
Pちゃんから連絡が来たのはその時……
『ご主人様。蛇型ドローン七号が、ミクさんを発見しました』
ドローンから送られてきた映像では、ミクはベッドに寝かされていた。
意識はないようだ。
見張りなのか世話係なのか、ベッドの傍に若い女が一人いる。
風体からして、この女も盗賊の一味のようだ。
な……!?
この女! ミクの顔に落書きをしているぞ!
ニヤニヤと笑いながら、抵抗できないミクの顔に墨のような物を塗りたくっている。
僕は女には暴力をふるわない主義だが、こいつに関しては主義を変えよう。
「よし。行ってくる」
「ちょっと待って下さい。みんなが来るのを待たないのですか?」
「これ以上待っていたら、ミクの顔に入れ墨でも入れられかねない」
「それでは、あたしも……」
懐から木札を取り出したミールを、僕は制止した。
「どうしてですか?」
「ミール。今、君の分身体を戦闘モードにしたら、《海龍》に残してきたジジイの分身体も消えてしまうのだろう」
「そうですけど……」
「あいつからは、まだ聞き出したい事がある」
「でも、オレークの分身体を作ったので、お爺さんの分身体の持続時間はかなり短くなりましたよ」
ううむ……
「とにかく、分身体を出すのは、ギリギリまで待ってほしい」
「分かりましたけど、カイトさん一人で突入するのは……」
「大丈夫だよ」
「でも……」
「ああ、勘違いしないでくれ。僕は別に怒りに我を忘れて突入するわけじゃない」
僕はミールの手に、ミクの憑代の残りを手渡した。
「これは?」
ミールの耳元に口を寄せて、憑代をどうするか伝える。
「分かりました。お待ちしています」
僕はミールたちを残して、廃工場へと向かった。
中州とこちらの岸の間には、石橋が一本かかっている。中州へ渡る唯一の手段のようだ。
橋の入り口に小屋がある。見張りがいるのだろうな。
ドローンからの観測では、小屋の中に熱源体は二つ。
「オレーク。どうすれば、金をもらえると聞いている?」
僕の質問に、オレーク本人ではなく、分身体の方が口を開く。
「女の子から盗った紙束を、見張りに差し出して『これを届けにきた』と言えば、金がもらえると聞いていた」
よし。奴らが本当に約束を守るか見てみるか。
憑代の束から、数枚の憑代を引き抜いて分身体に持たせ、橋まで行かせた。
もちろん、分身体にはカメラとマイクを仕掛けてある。
程なくして、分身体のオレークは橋の見張り小屋の前に立った。
『これを届けに来た』
スピーカーからオレークの声。
映像には、三十代半ばぐらいの帝国人の男の姿が映った。男はニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべている。
ああ! こりゃあ約束破る気マンマンだな。
『おお! 話は聞いているぞ』
『約束の金貨をおくれよ』
『すまんが金貨は切らしているのでな、代わりに鉛玉をくれてやるよ』
ほら、やっぱり。
ズドン!
『おいおい。殺してしまったのかい?』
もう一人、別の男が出てきた。
『殺しておかないと、俺たちが報酬を着服した事がばれるだろ』
なるほど。オレークと実際に会っていた奴は、騙す気はなかったのか。
ただ、見張り番の奴らが横領していたという事だな。
横を見ると、本物のオレークがガタガタと震えていた。
「オレーク。こうなることは予想していたのだろう?」
「分かっていたけど……でも……もしかすると……」
「もしかすると、なんだ?」
「金貨が……もらえると……」
「そんなに、金がほしいか?」
「そんなの欲しいに決まっているだろう!」
「まあ、普通はそうだな。だが、命の危険を犯してまで欲しいと思うのか?」
「それは……」
「あそこに行っても、おまえが金貨をもらえる可能性など最初からなかった。あるのは確実な死だ」
「ちくしょう! みんなして、俺をバカにしやがって」
「ほれ」
僕は、オレークに銀貨を五枚差し出した。
「なんだよ?」
「少ないがとっとけ。これで母さんに、美味い物でも食わせてやれ」
「なめんなよ! 誰が施しなんか……」
「そうか。いらないのか……」
手を引っ込めた。
「ああ! 待ってくれ!」
「施しは、いらないのだろ?」
「そうだけど……」
オレークは、しばらく考え込んだ。
「返す」
「何?」
「後で必ず返すから、今はその金を貸してくれ」
「いいだろう。ただし、盗んだ金は受け取らん。まじめに働いて稼いだ金で返せ」
「分かったよ」
僕はオレークの胸ポケットに銀貨を入れた。
Pちゃんから連絡が来たのはその時……
『ご主人様。蛇型ドローン七号が、ミクさんを発見しました』
ドローンから送られてきた映像では、ミクはベッドに寝かされていた。
意識はないようだ。
見張りなのか世話係なのか、ベッドの傍に若い女が一人いる。
風体からして、この女も盗賊の一味のようだ。
な……!?
この女! ミクの顔に落書きをしているぞ!
ニヤニヤと笑いながら、抵抗できないミクの顔に墨のような物を塗りたくっている。
僕は女には暴力をふるわない主義だが、こいつに関しては主義を変えよう。
「よし。行ってくる」
「ちょっと待って下さい。みんなが来るのを待たないのですか?」
「これ以上待っていたら、ミクの顔に入れ墨でも入れられかねない」
「それでは、あたしも……」
懐から木札を取り出したミールを、僕は制止した。
「どうしてですか?」
「ミール。今、君の分身体を戦闘モードにしたら、《海龍》に残してきたジジイの分身体も消えてしまうのだろう」
「そうですけど……」
「あいつからは、まだ聞き出したい事がある」
「でも、オレークの分身体を作ったので、お爺さんの分身体の持続時間はかなり短くなりましたよ」
ううむ……
「とにかく、分身体を出すのは、ギリギリまで待ってほしい」
「分かりましたけど、カイトさん一人で突入するのは……」
「大丈夫だよ」
「でも……」
「ああ、勘違いしないでくれ。僕は別に怒りに我を忘れて突入するわけじゃない」
僕はミールの手に、ミクの憑代の残りを手渡した。
「これは?」
ミールの耳元に口を寄せて、憑代をどうするか伝える。
「分かりました。お待ちしています」
僕はミールたちを残して、廃工場へと向かった。
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