46 / 850
番外編1
モニターに応募したら、異世界に行ってしまった。 後編
しおりを挟む
「おいおい。そろそろ、教えてやってもいいんじゃないか? ここがどこか」
そう言ったのは、さっきから黙っていた金髪の男。
染めているのではなく、地毛のようだ。
しかし、日本語には、まったく訛りがない。
「とりあえず、自己紹介するぜ。俺はカルル・エステス。見ての通り日本人じゃない。これから、長い付き合いになるから、よろしくな。北村海斗君」
「よろしく。てか、僕を知ってるのか?」
「そりゃ知ってるさ。なんせ、ここは異世界なのに、なぜかインターネットは繋がるんだよな」
カルルは、ニヤニヤしながら言った。
「つまり、会いたい奴に、ここからメールを送ることも……うぐ!」
突然、チャイナドレスがカルルの口を押えた。
どうしたんだ? ん?
少女が僕の袖を引いていた。
「どうしたの?」
「あのね、お姉ちゃんを怒らないであげてね」
怒る? なんで僕が怒らなきゃならないんだ?
あ! そういう事か……
僕が、会いたかったのは……
でも、あいつとは、ここでも会えるようだな。
僕は、カルルを押さえつけているチャイナドレスに歩みよった。
「元の世界に、会いたい人がいるんだ」
「え?」
彼女は、僕の方をふり向く。その隙にカルルは彼女の手を逃れた。
「でも、ここでも会えるみたいだね。香子」
顔をマスクとサングラスで隠していた、という事は逆に言うなら僕が顔を知っている人間という事だ。となると、考えられる人間は一人しかいない。
香子は観念して、サングラスとマスクを外した。
「分かっちゃった?」
「分からいでか。なんで、顔を隠していた?」
「海斗……怒っているかな? と思って。こんなところに、呼び出しちゃって……」
「怒ってないから、とにかく説明してくれ。ここはどこなんだ?」
* * *
いや、聞かなくても分かるだろ。もう一人の僕よ。
ヒントは、スキャナーに掛けられる前に聞いていただろ。
「まだ、分からないのかな」
「本当は、分かっているのかもしれませんよ」
そう言って白衣の女は、パソコン画面の中で香子を問いただしている僕の分身を指さした。
「分かっていても、認めたくないものなのですよ。自分がデータだけの存在だなんて」
「そう言うものなのかな?」
あそこにいる僕には、スキャナーに掛けられる寸前の記憶しかない。
つまり、あいつの認識ではスキャナーに掛けられた直後、異世界に突然行ってしまったようになっているのだ。
実際には、僕は異世界なんかには行ってなどいない。
スキャナーにデータを取られた後、僕は元の部屋に戻って無事に報酬の五十万円を受け取った。
そのまま、帰ってもよかったのだが、取られたデータがどうなるか見ていかないかと彼女に誘われたのだ。
そんな分けで、僕は今パソコン画面越しに電脳空間に出現した、僕の振る舞いを見ていたわけだ。
「私の妹も、最初は、かなり取り乱しましたからね」
妹?
「だから、せめてインターネットに繋がるようにしてあげたら、それ使って友達を呼び込んじゃったのよ」
「あんた……香子のお姉さん!」
どっかで会ったような気がしていたんだが……
「やっと思い出したのね。海斗君。ちなみに現実の香子は、君に勧誘メールを送ってなんかしてないわよ」
「それはよかった。本人に電話で確認なんかしなくて」
「あら? 電話したら喜んだかもよ」
「どうして?」
「鈍いわね。なんで、妹の分身が電脳空間から、あなたにメールを送ったと思っているの? あなたの事が好きだからよ」
「からかわないで下さいよ」
「からかってなんかいないわ。あなたはどうなの?」
「どうって?」
「好きなの? 香子のこと?」
「ええっと……」
結局、僕ははっきりとした返事を言わず、逃げるように帰って行った。
電脳空間に残して行った僕の分身がその後どうなるかも気になるが、今は他人の心配をしている余裕なんか微塵もない。
でも、これって自分の分身を奴隷商人に売ったようなものではないかな?
自分の状況を知ったらあいつは、後になって僕の後頭部をどつきたいとか考えるかもしれないな。
(番外編終了)
そう言ったのは、さっきから黙っていた金髪の男。
染めているのではなく、地毛のようだ。
しかし、日本語には、まったく訛りがない。
「とりあえず、自己紹介するぜ。俺はカルル・エステス。見ての通り日本人じゃない。これから、長い付き合いになるから、よろしくな。北村海斗君」
「よろしく。てか、僕を知ってるのか?」
「そりゃ知ってるさ。なんせ、ここは異世界なのに、なぜかインターネットは繋がるんだよな」
カルルは、ニヤニヤしながら言った。
「つまり、会いたい奴に、ここからメールを送ることも……うぐ!」
突然、チャイナドレスがカルルの口を押えた。
どうしたんだ? ん?
少女が僕の袖を引いていた。
「どうしたの?」
「あのね、お姉ちゃんを怒らないであげてね」
怒る? なんで僕が怒らなきゃならないんだ?
あ! そういう事か……
僕が、会いたかったのは……
でも、あいつとは、ここでも会えるようだな。
僕は、カルルを押さえつけているチャイナドレスに歩みよった。
「元の世界に、会いたい人がいるんだ」
「え?」
彼女は、僕の方をふり向く。その隙にカルルは彼女の手を逃れた。
「でも、ここでも会えるみたいだね。香子」
顔をマスクとサングラスで隠していた、という事は逆に言うなら僕が顔を知っている人間という事だ。となると、考えられる人間は一人しかいない。
香子は観念して、サングラスとマスクを外した。
「分かっちゃった?」
「分からいでか。なんで、顔を隠していた?」
「海斗……怒っているかな? と思って。こんなところに、呼び出しちゃって……」
「怒ってないから、とにかく説明してくれ。ここはどこなんだ?」
* * *
いや、聞かなくても分かるだろ。もう一人の僕よ。
ヒントは、スキャナーに掛けられる前に聞いていただろ。
「まだ、分からないのかな」
「本当は、分かっているのかもしれませんよ」
そう言って白衣の女は、パソコン画面の中で香子を問いただしている僕の分身を指さした。
「分かっていても、認めたくないものなのですよ。自分がデータだけの存在だなんて」
「そう言うものなのかな?」
あそこにいる僕には、スキャナーに掛けられる寸前の記憶しかない。
つまり、あいつの認識ではスキャナーに掛けられた直後、異世界に突然行ってしまったようになっているのだ。
実際には、僕は異世界なんかには行ってなどいない。
スキャナーにデータを取られた後、僕は元の部屋に戻って無事に報酬の五十万円を受け取った。
そのまま、帰ってもよかったのだが、取られたデータがどうなるか見ていかないかと彼女に誘われたのだ。
そんな分けで、僕は今パソコン画面越しに電脳空間に出現した、僕の振る舞いを見ていたわけだ。
「私の妹も、最初は、かなり取り乱しましたからね」
妹?
「だから、せめてインターネットに繋がるようにしてあげたら、それ使って友達を呼び込んじゃったのよ」
「あんた……香子のお姉さん!」
どっかで会ったような気がしていたんだが……
「やっと思い出したのね。海斗君。ちなみに現実の香子は、君に勧誘メールを送ってなんかしてないわよ」
「それはよかった。本人に電話で確認なんかしなくて」
「あら? 電話したら喜んだかもよ」
「どうして?」
「鈍いわね。なんで、妹の分身が電脳空間から、あなたにメールを送ったと思っているの? あなたの事が好きだからよ」
「からかわないで下さいよ」
「からかってなんかいないわ。あなたはどうなの?」
「どうって?」
「好きなの? 香子のこと?」
「ええっと……」
結局、僕ははっきりとした返事を言わず、逃げるように帰って行った。
電脳空間に残して行った僕の分身がその後どうなるかも気になるが、今は他人の心配をしている余裕なんか微塵もない。
でも、これって自分の分身を奴隷商人に売ったようなものではないかな?
自分の状況を知ったらあいつは、後になって僕の後頭部をどつきたいとか考えるかもしれないな。
(番外編終了)
0
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
おっさん、異世界でスローライフはじめます 〜猫耳少女とふしぎな毎日〜
桃源 華
ファンタジー
50代のサラリーマンおっさんが異世界に転生し、少年の姿で新たな人生を歩む。転生先で、猫耳の獣人・ミュリと共にスパイス商人として活躍。マーケティングスキルと過去の経験を駆使して、王宮での料理対決や街の発展に挑み、仲間たちとの絆を深めながら成長していくファンタジー冒険譚。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話
六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。
兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。
リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。
三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、
「なんだ。帰ってきたんだ」
と、嫌悪な様子で接するのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる