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番外編1

モニターに応募したら、異世界に行ってしまった。 後編

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「おいおい。そろそろ、教えてやってもいいんじゃないか? ここがどこか」
 そう言ったのは、さっきから黙っていた金髪の男。
 染めているのではなく、地毛のようだ。
 しかし、日本語には、まったく訛りがない。
「とりあえず、自己紹介するぜ。俺はカルル・エステス。見ての通り日本人じゃない。これから、長い付き合いになるから、よろしくな。北村海斗君」
「よろしく。てか、僕を知ってるのか?」
「そりゃ知ってるさ。なんせ、ここは異世界なのに、なぜかインターネットは繋がるんだよな」
 カルルは、ニヤニヤしながら言った。
「つまり、会いたい奴に、ここからメールを送ることも……うぐ!」
 突然、チャイナドレスがカルルの口を押えた。
 どうしたんだ? ん?
 少女が僕の袖を引いていた。
「どうしたの?」
「あのね、お姉ちゃんを怒らないであげてね」
 怒る? なんで僕が怒らなきゃならないんだ?
 あ! そういう事か……
 僕が、会いたかったのは……
 でも、あいつとは、ここでも会えるようだな。
 僕は、カルルを押さえつけているチャイナドレスに歩みよった。
「元の世界に、会いたい人がいるんだ」
「え?」
 彼女は、僕の方をふり向く。その隙にカルルは彼女の手を逃れた。
「でも、ここでも会えるみたいだね。香子」
 顔をマスクとサングラスで隠していた、という事は逆に言うなら僕が顔を知っている人間という事だ。となると、考えられる人間は一人しかいない。
 香子は観念して、サングラスとマスクを外した。
「分かっちゃった?」
「分からいでか。なんで、顔を隠していた?」
「海斗……怒っているかな? と思って。こんなところに、呼び出しちゃって……」
「怒ってないから、とにかく説明してくれ。ここはどこなんだ?」


     *    *    * 
 
 いや、聞かなくても分かるだろ。もう一人の僕よ。
 ヒントは、スキャナーに掛けられる前に聞いていただろ。
「まだ、分からないのかな」
「本当は、分かっているのかもしれませんよ」
 そう言って白衣の女は、パソコン画面の中で香子を問いただしている僕の分身を指さした。
「分かっていても、認めたくないものなのですよ。自分がデータだけの存在だなんて」
「そう言うものなのかな?」
 あそこにいる僕には、スキャナーに掛けられる寸前の記憶しかない。
 つまり、あいつの認識ではスキャナーに掛けられた直後、異世界に突然行ってしまったようになっているのだ。
 実際には、僕は異世界なんかには行ってなどいない。
 スキャナーにデータを取られた後、僕は元の部屋に戻って無事に報酬の五十万円を受け取った。
 そのまま、帰ってもよかったのだが、取られたデータがどうなるか見ていかないかと彼女に誘われたのだ。
 そんな分けで、僕は今パソコン画面越しに電脳空間サイバースペースに出現した、僕の振る舞いを見ていたわけだ。
「私の妹も、最初は、かなり取り乱しましたからね」
 妹?
「だから、せめてインターネットに繋がるようにしてあげたら、それ使って友達を呼び込んじゃったのよ」
「あんた……香子のお姉さん!」
 どっかで会ったような気がしていたんだが……
「やっと思い出したのね。海斗君。ちなみに現実の香子は、君に勧誘メールを送ってなんかしてないわよ」
「それはよかった。本人に電話で確認なんかしなくて」
「あら? 電話したら喜んだかもよ」
「どうして?」
「鈍いわね。なんで、妹の分身が電脳空間サイバースペースから、あなたにメールを送ったと思っているの? あなたの事が好きだからよ」
「からかわないで下さいよ」
「からかってなんかいないわ。あなたはどうなの?」
「どうって?」
「好きなの? 香子のこと?」
「ええっと……」
 結局、僕ははっきりとした返事を言わず、逃げるように帰って行った。
 電脳空間サイバースペースに残して行った僕の分身がその後どうなるかも気になるが、今はの心配をしている余裕なんか微塵もない。
 でも、これって自分の分身を奴隷商人に売ったようなものではないかな?
 自分の状況を知ったらあいつは、後になって僕の後頭部をどつきたいとか考えるかもしれないな。

(番外編終了)
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