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第十五章

木箱の中身は?

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 アーニャが廃屋に入って来たのはその時。

「あら? 北村君もう来ていたの。早いわね」

 アーニャは、背後を振り向いて声をかけた。

「こっちへ運んで」
「へい。お客さん」

 入ってきたのは、 蜥蜴とかげ型ヒューマノイドのプシダー族が一人。
 
 大きな木箱を乗せた台車を押してきた。

「アーニャさん。荷物というのはこれですか?」
「そうよ」
「木箱の中身は?」

 アーニャは木箱の蓋を開けた。

 中に入っていたのは樽のようだが……

「なぜ、樽をわざわざ木箱の中に?」
「Pちゃんに見つかったら 五月蠅うるさいでしょ」

 Pちゃんに見つかったら 五月蠅うるさい? という事は、この樽の中身は……

「お酒よ」

 おお! これだけあれば、カルカに戻るまでもつ。

「誰にも気付かれないようにって、こういう事でしたか?」
「そうよ」
「なんだ、スパイじゃ……」
「え?」

 おおっと! やべえ!

「いや、酸っぱい物も欲しいなあと」
「酸っぱいツマミが好みなの? 分かったわ。探しておくわね」

 なんとか、誤魔化せた。

「《海龍》についたら、Pちゃんには中身は知らないとでも言っておいて倉庫に運び込んでね。今夜はみんなが寝静まったら、甲板で酒盛りよ」

 横で馬 美玲が苦笑する。

「二人とも、ほどほどにね」
「分かっているわよ」

 僕は箱を持ち上げた。

「それじゃあ、これは倉庫に……」

 おっと、その前に言うべき事が……

「他に運ぶ物があったら、チュール広場に行って下さい。そこにミクがいるはずだから」
「え? ミクちゃんがなんで?」
「いや、だからチュール広場でミクの荷物を預かる事になっているので、ミクに荷物を預けてもらえば一緒に」
「何言っているの? そんな目立つところに降りるより、ミクちゃんもここへ呼んだ方がいいでしょ」
「そうでした」

 不自然だったけど、何とか目的達成。

 もしも、この二人が接続されているなら、今頃……

レム「小娘はチュール広場に 以下略」
部下たち「はは。レム様。以下略」

 という事になっているはず。

「そうそう北村君。荷物はこれだけじゃないわ」
「アーニャさん。まだあるのですか?」
「十分ほどしたら、もう一つ樽が届くから、それも運んでおいてね。私たちは他へ行くから」
「分かりました」

 僕は木箱を持って飛び立つ。

 十分ほどして、廃屋に戻るとすでに箱は届いていた。

 アーニャと馬美玲の姿はなかったが、プシダー族の店員が荷物の番をしてくれている。

 しかし、アーニャはもう一つと言っていたけど、箱は二つあるな。

 まあ、いいか。多い分には……

「お客さん。一人で二つも運べますか?」
「大丈夫だよ。これはチップね」

 店員に銀貨五枚を握らせた。プシダー族の反地球人感情はかなり大きいと聞いていたので、このぐらいしておいた方がいいだろう。

「毎度あり」

 プシダー族の店員を残して、僕は《海龍》へ戻っていった。
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