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第三章

果てしない塩の平原

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(三人称視点)
 砂塵を巻き上げ、一台のモトクロスバイクが標高千メートルの山を駆け上がっていた。
 エンジン音は聞こえない。電動バイクのようだ。
 やがて、山の頂に停止したバイクから、ライダーが降りてヘルメットを取る。
 ヘルメットの下から現れたのは、短く刈り込まれた金髪の男。
 歳は二十代後半ぐらいの西洋人だ。
 男は双眼鏡を取り出して、下方を見下ろす。
「チッ」
 舌打ちをするとトランシーバーを取り出した。
「俺だ。不味いことになった。奴は生きているかもしれない。援軍をよこしてくれ。ああ!? 分かっているのか? 奴がリトルトウキョウに入ったら、どうなるか? ああ!! 確かに俺のミスだ。VTOL機能さえ潰せば、もうシャトルが降りられる滑走路はないという判断をしたのは俺だ。まさか……」
 男は再び双眼鏡を当てる。
 男の目に映ったのは広大な塩の平原。
「こんな、天然の滑走路があったとはな」

(海斗視点)
 塩湖は、やたらと広かった。
 マジに果てがないんじゃないの? て、思えるくらい広い。
 いくら走っても、光景がまったく変わらない。
 ひょっとして、惑星全体が塩湖に覆われてんじゃないのだろうか?
 地質学的にそんな事ありえないのだが、そんな気がしてくる。
 それとも、走っているつもりでいたら、車輪が空回りしていて、ずっと同じところにいたなんて事はないだろうか?
 バックモニターを見ると、この車が付けた轍が地平……いや、塩平線まで続いている。
 うん。ちゃんと進んでいたんだな。
 カーナビ? もちろん、装備されてるさ、
 しかし、GPS衛星のない系外惑星で、それがなんの役に立つ。
 そもそも、この車のカーナビには、この惑星の地図が入っていない。
 今、助手席に座っているPちゃんの電子頭脳には地図データがあったが、互換性がなくてナビに移せなかった。
 だから、行先はPちゃんに指示してもらうしかない。
 だったら、Pちゃんに運転してもらえばいいのだが、こいつは運転ができない。
 自動運転車が当たり前の時代に作られたアンドロイドなので、そういう技能は必要なかったのだ。

 不意にPちゃんが、懐から懐中時計を取り出した。
「ご主人様。そろそろお食事の時間です」
「そうか」
 車を停止させた。
 ん? なんで、こいつ一々懐中時計なんか出しているんだ?
「なあ、君のコンピューターには、時計機能はないのか?」
「ありますよ」
「じゃあ、なんで懐中時計なんか出すのだ?」
「懐中時計なんて飾りです。エロいご主人様には、それが分からないようですね」
「誰がエロいご主人様だ!!」
「実際、懐中時計は必要ないのです。ですが、時間を告げる時は、こういう動作をするようにプログラムされているのですよ」
 親の……いや、プログラマーの顔が見たい。
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