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第十五章

短いようで、長い付き合いだったな

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 朝食をとって二時間ほど経った頃、船の行く手に港町が見えてきた。

 ミールの話では、アーテミスという町らしい。

 この二時間の間、甲板上でふてくされているジジイをロンロンに監視させ、その間に僕はミーチャ、ミクと発令所内に入り、ポケットから出したニミPちゃんとミールの分身体を交えて昨日立てた作戦案の練り直しをしていたのだ。

 それはそうと、港町も見えて来たことだし……

「短いようで、長い付き合いだったな」

 え? それ逆じゃないかって? 

 いいんだよ。これから別れるのは、ジジイなのだから……

「ひどい奴じゃ、お前は。老い先短い年寄りを、こんな見知らぬ港町へ、放置するというのか」

 抗議するジジイに、僕は無言で皮袋を差し出した。

「なんじゃ? これは?」
「情報提供の報酬だ」

 迷惑はかけられたが、このジジイからは貴重な情報も得られた。このまま、放り出して野垂れ死でもされては目覚めが悪い。

 死にそうにないけど……

 だからせめて、僕の良心が痛まない程度の報酬は出そうと思って用意したのだ。

「この中に金貨六枚が入っている。これでしばらくは食いつなげるだろう。後は、ここで仕事を見つけるか、ベイス島へ帰るか、好きな道を選んでくれ」
「たった六枚か。安く買い叩かれたものじゃ」

 たった六枚って……この惑星の金貨は、金含有量で換算すると、僕の時代の日本で五万円分だぞ。

 六枚なら三十万……まあ、もう少しやってもいいような気はしないでもないが……

「女性クルーに悪さをしなければ、もっと出してもよかったのだがな。迷惑料を差し引いた金額がそれだ」
「ふん! ないよりマシか」

 ジジイは、皮袋をひったくるように受け取ると懐にしまった。

「じゃあミク。頼むよ」
「オッケー。いでよ! 式神」

 甲板上にミクが叩きつけた人型は、みるみるうちに竜の姿になっていく。

「さあ、おじいさん。後ろに乗ってね。言っておくけど、あたしにエッチな事したら、川に落とすからね」
「ふん! 誰が、お前さんみたいなガキに、そんな事をするか」

 ジジイは、しぶしぶミクの後に乗る。

「じゃあ、お兄ちゃん。行ってくるね」

 竜は飛び立ち、アーテミスの方へと向かって行く。

 やれやれ、やっと厄介払いできた。

 程なくして《海龍》と《水龍》は接舷する。

「やっぱり、私は《水龍》の方が落ち着くね」

 レイホーが真っ先に渡ってきた。

「私は《海龍》の方が、広くて良かったのだが」

 エラは少々不満そうだ。

「ミーチャ! お帰り! 心配したぞ」

 《海龍》に移ったミーチャを、キラが抱きしめる。

「ちょっと……キラさん」
「ミーチャ、じいさんに変な事されなかったか?」
「大丈夫ですよ。僕は男だし……」

 通信機の呼び出し音が鳴ったのはその時……

 通信相手はミク? 何かあったのか?

 周囲を見ると、みんなも心配そうな顔をしている。

 よし。みんなにミクの声が聞こえるように、スピーカーモードにして……

「ミク。どうした?」
『お兄ちゃん。お爺さん、今降ろしたよ』
「そうか。お疲れさん。じゃあ、すぐに帰っておいで」
『あのさ。ちょっと、買い物してきてもいい?』

 買い物? まあ、久々に大きな町に来たからな。

「いいけど、金はあるのか?」
『それがさ、お爺さんが駄賃だと言って、金貨を一枚くれたの』
「なに?」

 安く買い叩かれたとか文句を言っていたわりには、気前が良いな。

『それでお爺さんが言っていたのだけど、お爺さんが受け取った報酬って、女性クルーに迷惑をかけた分を差し引いてあるのだよね?』
「ああ、そうだが」
『じゃあ差し引いた分は、迷惑をかけられたあたしたちがもらえるという事だよね』

 え? しまった!

 ジジイめ! ミクに余計な事を吹き込みやがったな。

 周囲を見回すと、みんなが期待に満ちた眼差しを僕に向けていた。

 とほほ……スピーカーモードなんかに、するんじゃなかった。

 金貨に羽が生えて飛んでいく。
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