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第十四章

さらばベイス島

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「いろいろと、お世話になりました」

 飲み勝負の翌朝、僕たちは村を後にした。

 連絡役として、ナージャとミニPちゃん六体を残して……

 広場へ向かう森の中を歩きながら、僕は胸ポケットにいるPちゃんに声をかけた。

「それにしても、恐ろしいジジイだったな」

 すっかり酔いつぶれていたと思っていたジジイも、翌朝にはいつの間にか姿を消していたのだ。

「ご主人様といい勝負ですね」
「そんな事はないぞ」
「カイトさん。いくら薬を飲んでいたとは言え、あれだけ飲んで、なぜケロっとしていられるのですか? あたしなら、三日は寝込みます。ていうか、死にますよ」
「そりゃあミール。男より女の方が、アルコールに弱いからだろ」
「ご主人様のチート肝臓は、男女差では説明できません」

 そうこうしているうちに、僕たちはベジドラゴンたちと待ち合わせている広場に出た。

 ミールが竜笛を吹くと、ほどなくしてエシャー、ロッド、ルッコラ、レタスの四頭が舞い降りてくる。

 帰りはナージャを置いていくので、ナージャの乗ってきたレタスにはジジイの分身体を乗せた。

 飛び立つ前に、ふと気になった事があるのでルッコラにまたがっているミールのそばに行く。

「ミール。つかぬ事を聞くが、分身体を自立モードにしても大丈夫かい?」
「と、言われますと?」
「つまり、ジジイみたいな悪さをするような事は」
「それは大丈夫です。分身体に、欲望や感情はありませんから」
「そうなのか?」
「あたしが命令すればやりますが、あくまでも機械的にやるだけです」
「それなら、連れ帰っても問題ないか」

 納得して僕はエシャーに飛び乗った。

「じゃあ、エシャー。頼んだよ」
「マカセテ。カイト」

 エシャーは力強く羽ばたき、大空に舞い上がっていく。

 ロッド、ルッコラ、レタスが続いて飛び立った。

 北島のレーダーを警戒して、最初のうちは高度五十メートル以下の低空を飛び続ける。

 電波地平線を越えてから高度を上げて跳び続けること数時間、Pちゃんが《海龍》の誘導ビーコンをキャッチした。

 程なくして、大河を航行する二隻の潜水艦が見えてくる。

 僕たちの接近に気が付いたのか、《海龍》も《水龍》もエンジンを止めて互いに接舷した。

 甲板の上で、みんなが手を振っているのが見える。

「お帰りなさい。お兄ちゃん」「北村さん。ミールさん。お帰りなさい」

 甲板に降りると、芽依ちゃんとミクが真っ先に駆け寄ってきた。

 二人の背後では、Pちゃんの本体とミーチャが、ベジトラゴンへの報酬に用意した焼き菓子を入れた駕籠かごを運んでいる。

「北村君もミールさんも疲れたでしょう。会議の前に一休みしてきてね。ところで、あのお爺さんは誰? ナージャはどうしたの?」

 アーニャが、レタスに乗っているジジイの分身体を指さした。

「あの人が、ルスラ……ええっと……」
「ルスラン・クラスノフ博士ですよ。ご主人様」
「そう。そのなんたらノフ博士」
「ええ!?」
「……の分身体」
「分身体? 本人は来てくれないの?」
「来てくれないのではなくて、来てほしくないのだよ」
「どうして?」
「とんでもないセクハラジジイなんだ。島に着く早々、ミールのお尻を触るは、Pちゃんのスカートをまくるはと」
「まあ! それは、来てほしくないわね……あら?」

 どうしたのだろう?

 ジジイの方に視線を向けた。

 ジジイはトコトコとレイホーの方に歩み寄る。

「きゃあ!」

 え? レイホーの尻を撫でた。

「何するね! このエロジジイ!」
「きょほほ! 若い娘の尻は、良い感触じゃ」

 ジジイはレイホーの後ろ回し蹴りをかわして、馬美鈴の方へ行くと、背後から抱きついて胸を揉んだ?

「きゃあ! なにするんですか!」
「きょほほ! 熟女の胸もええのう」

 どうなっているんだ?

「ミール。これはいったい?」
「変ですね。分身体が、こんな事をするはずが……」
「ご主人様。ベイス島のナージャさんから通信です」

 こんな時に、いったいなんだ?
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