上 下
575 / 842
第十四章

プシトロン2

しおりを挟む
 Pちゃんの話は、さらに続いた。

「その後、博士は研究意欲を失い酒浸りの日々を送っていたのですが、レム・ベルキナと出会ってから、再び研究意欲を燃やし、ついにプシトロンの再発見に成功したのです」
「プシトロン? なにそれ?」
「ですから、脳間通信機能を媒介する素粒子ですよ。簡単に言うなら、通信機が電波で情報をやりとりするように、人の脳はプシトロンという素粒子によって情報をやりとりする事ができるのです」

 全然、簡単になっていないような気がするが……

「つまり、人の脳にはプシトロンという素粒子のパルスを送受信する機能がある。そういう事か?」
「おおむね。そんなところです」
「それと、式神との関係は?」
「式神は、本来なら通常物資との相互作用のない粒子などから構成されています。しかし、プシトロンパルスを受けると、一時的に相互作用を持つようになるのです」
「通常物資との相互作用のない粒子? 暗黒物質ダークマターか?」
「ご主人様の時代の人に、分かりやすく説明するならそんなところですね。ダークマターの中には、プシトロンパルスと反応する物質があるのです。ルスラン・クラスノフ博士は、その物質をバイオン粒子と呼んでいました」
「ちょっと待て。バイオン粒子って言ったら、オルゴンエネルギーを研究していたウィル……あれ?」
「ご主人様。ウィルヘルム・ライヒと言いたいのですか?」
「そう! そのなんたらライヒが発見したのでは?」

 ウーで読んだ知識だが……

「正確には、十九世紀おフランスの科学者H・チャールトン・バスチャンによってバイオン粒子は発見されています。ウィルヘルム・ライヒは、それを再発見したのです」

 そういえば、ウーの記事にもそう書いてあったな。読んだのは、高校生の頃だから忘れていた。

「普段、バイオン粒子は通常物質と相互作用する事なく、クラスターとなって漂っているのですが、人の脳から発せられるプシトロンパルスを受け取ると、様々な形状に変化し、通常物質と一時的に相互作用を持つようになります。ミクさんの式神も、ミールさんの分身体もそのようにして生み出されているのです」

 ううむ、そうなっていたのか。

「ただ、これは非常に危険な事です。ミールさんやミクさんのように訓練を受けている人ならともかく、なんの訓練も受けていない人が、強力なプシトロンパルスを発生させると、近くにあるバイオンクラスターが実体化して暴走することがあるのです」

 実際、キラの暴走は酷かったからな。

「とりあえず、人の脳にはプシトロンパルスを送受信する機能があり、それによって他人の脳と通信したり、式神を操ったりできる。そういう事だな?」
「そんなところです」
「では、北島の地下施設でミールの分身体が使えなくなったのは、プシトロンパルスを遮る何かがあるという事か?」
「そうです。通常のバリオン物質ではプシトロンと相互作用がありませんが、非バリオン物質の中にはプシトロンと相互作用のある物質があります。北島の地下施設は、そのような物質に覆われているのです」
「なぜ、そんな事を? あの施設を作ったのはタウリ族だったな。タウリ族がそうしたのか?」
「はい。博士がスーホさんから聞いた話です」

 タウリ族がそんな事をしたという事は、その必要があったからなのだろうな。
 
 とにかく、地下施設ではプシトロンパルスが途切れるわけだから、ミールの分身体は送り込めないわけで……ということは!

「レムは、人工的にプシトロンパルスを発生させる装置でも作っていたのか?」
「そうです。レムはその装置を使い、コンピューターの中にいながら、生きている人間と接続していたのです」
「それじゃあ、地下施設の人達の接続が切れたのは」
「外部のコンピューターから、プシトロンパルスが送り込めなくなったからです。博士によれば十時間以上プシトロンパルスが途切れたら、もう一度ブレインレターを使わないかぎり再接続はできません」

 ということは、この施設を使えば、レムに接続された人達を解放できるということじゃないか! 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。 異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。 魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。 なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...