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第十四章
飲み比べ対決1
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ジジイは、銀製のダンブラーを二つ取り出した。
「勝負は、このダンブラーで行う。一杯ずつ飲んで、先に酔いつぶれた方の負けだ」
「いいけど、それ変な仕掛けとか、ないだろうな?」
「わしが、そんな事をするような男に見えるか?」
「見える」
「なら、仕掛けがないか確認してみろ」
ジジイから渡されたダンブラーは、鋲のような飾りがある以外、特に変わったところはなかった。
容積はどちらも変わらない。
「問題はなさそうだな。では、勝負を始めよう」
アーリャさんが樽の蓋を開くと、芳醇な香りが漂ってきた。
この香りは、ワインだな。
アーリャさんは樽から赤い液体を柄杓で酌み出すと、二つのガラス製ピッチャーに注いだ。
二つのピッチャーが赤ワインで満たされると、アーリャさんはそれぞれをミールとライサに渡す。
「アーリャさん。地球から持ち込んだブドウを栽培したのかい?」
「ああ。ベイス島は地中海と気候が似ていてね、ブドウ栽培に最適なのさ。もっとも……」
アーリャさんはジジイを睨んだ。
「最初の頃は、ワインを作る傍から父さんが飲んでしまっていたので、最近は隠れたところに醸造所を移していたんだ」
「おのれ我が娘よ。わしに飲ませたくないから、隠していたのか」
「当たり前じゃないか。父さんが村で起こした揉め事の四割は女絡みだが、六割は酒絡みだろ」
女よりも、酒で揉め事起こしていたのか。
「今回だって、本当は勝負なんかどうでもよくて、酒が飲みたいだけだろ」
「なんの事かな」
ジジイは、明後日の方を向いた。
「この爺さん、とんでもない飲んべえだな」
「ご主人様も同類です」
ヒドいなPちゃん。あんなのと同類だなんて……
僕のダンブラーにはミールが、ジジイのダンブラーにはライサが、それぞれピッチャーから赤ワインを注ぐ。
ダンブラーの容量は一合ぐらいだな。
「じいさん。先にウイスキーを飲んでいたけど、大丈夫かい?」
「カカカ! そんなもん、ハンディとしてくれてやるわい」
「その言葉に、二言はないな?」
「おうよ!」
開始の合図と同時に、僕とジジイは同時に飲み始めた。
前を見ると、ホワイトボードにアーリャさんが僕とジジイの名前を書いている。
名前の下に飲んだダンブラーの数をカウントしていくのだろう。
「カー! 美味いワインじゃ。こんな美味いものを隠しおって。この親不孝者め!」
ジジイは、アーリャさんを睨みつけた。
「何が親不孝者だ! ろくに父親らしい事なんて、しなかったくせに! この子不幸者!」
アーリャさんも負けじと言い返す。
「ふん!」
ジジイはダンブラーを半分ほど空けたところで、僕の方を見た。
「なんじゃ若者よ。まだ、一口しか飲んでないのか。情けないのう。ハンディが足りんかったかの」
「え? これ二杯目だけど」
「なに!?」
ジジイがホワイトボードに目を向けると、僕の名前の下に一杯がカウントされていた。
「嘘を付くな。お主、全然顔が赤くなっておらんではないか」
「ああ。僕は飲んでも赤くならないんだ」
「なんじゃと! 嘘を付くな」
「本当だって」
僕は、そのまま一気にダンブラーを空にした。
「ほら。赤くならないだろ」
ミールが僕のダンブラーに三杯目の赤ワインを注ぐ。
「ところで、爺さんがさっき飲んだウイスキーのアルコール量は、このダンブラーでワイン二杯分と同じ量になる。このダンブラーを僕の一杯目としてカウントしても良いけど、どうする?」
「いらんわい! 男が一度くれてやったハンディじゃ!」
「本当にいいのかい?」
「ぐどい! 男に二言はない!」
いいのかなあ? まあ、むこうが良いと言っているのだから……
「ご主人様。ペースが早すぎます」
「今日ぐらいいいだろう。勝負なのだから」
「こんなしょうもない勝負で、身体を悪くしたらどうするのです」
「大丈夫だって」
まったく、Pちゃんは心配症だな。
そうしている間に、ジジイは二杯目を飲み干した。
僕も三杯目を飲み干してミールにダンブラーを差し出した。
しかし、ミールはワインピッチャーを抱えたまま首を横にふる。
どうして?
「カイトさん。お爺さんが、三杯目を飲むまで待って下さい」
「そうだね。勝負は公平にやらないと」
「いえ、あまりペース早いと潰れますよ」
「大丈夫。ワインぐらいで潰れないって」
その時になって、ジジイは三杯目を飲み終わった。
ミールはそれを見てから、ワインピッチャーを僕のダンブラーに傾ける。
注ぎ終わってから、ミールはアーリャさんの方を向いた。
「アーリャさん。いいのですか? このお酒、貴重な物では?」
「いいんだよ。もともと、村人が飲むために作っていたワインだけど、男たちが戦場に行っていて余っていたんだ。とは言え、せっかく作ったワインを父さんに飲まれるのはイヤだから隠していたのさ。ワインもヨボヨボの爺さんなんかより、ハンサムに飲まれた方が嬉しいだろう」
「でも、カイトさんって童顔ですけど、お酒飲みだしたら底なしですよ。いいのですか?」
ヒドいな、ミール。僕だって底はあるぞ。たぶん……
そうこうしているうちに、樽の半分ぐらいはなくなってきた。
さすがに回ってきたかな。しかし、ジジイだって……あれ?
「カカカ! どうした若者よ。もう、限界か」
平気みたいだ。
ヤバイ! そろそろ僕も限界だぞ。
「勝負は、このダンブラーで行う。一杯ずつ飲んで、先に酔いつぶれた方の負けだ」
「いいけど、それ変な仕掛けとか、ないだろうな?」
「わしが、そんな事をするような男に見えるか?」
「見える」
「なら、仕掛けがないか確認してみろ」
ジジイから渡されたダンブラーは、鋲のような飾りがある以外、特に変わったところはなかった。
容積はどちらも変わらない。
「問題はなさそうだな。では、勝負を始めよう」
アーリャさんが樽の蓋を開くと、芳醇な香りが漂ってきた。
この香りは、ワインだな。
アーリャさんは樽から赤い液体を柄杓で酌み出すと、二つのガラス製ピッチャーに注いだ。
二つのピッチャーが赤ワインで満たされると、アーリャさんはそれぞれをミールとライサに渡す。
「アーリャさん。地球から持ち込んだブドウを栽培したのかい?」
「ああ。ベイス島は地中海と気候が似ていてね、ブドウ栽培に最適なのさ。もっとも……」
アーリャさんはジジイを睨んだ。
「最初の頃は、ワインを作る傍から父さんが飲んでしまっていたので、最近は隠れたところに醸造所を移していたんだ」
「おのれ我が娘よ。わしに飲ませたくないから、隠していたのか」
「当たり前じゃないか。父さんが村で起こした揉め事の四割は女絡みだが、六割は酒絡みだろ」
女よりも、酒で揉め事起こしていたのか。
「今回だって、本当は勝負なんかどうでもよくて、酒が飲みたいだけだろ」
「なんの事かな」
ジジイは、明後日の方を向いた。
「この爺さん、とんでもない飲んべえだな」
「ご主人様も同類です」
ヒドいなPちゃん。あんなのと同類だなんて……
僕のダンブラーにはミールが、ジジイのダンブラーにはライサが、それぞれピッチャーから赤ワインを注ぐ。
ダンブラーの容量は一合ぐらいだな。
「じいさん。先にウイスキーを飲んでいたけど、大丈夫かい?」
「カカカ! そんなもん、ハンディとしてくれてやるわい」
「その言葉に、二言はないな?」
「おうよ!」
開始の合図と同時に、僕とジジイは同時に飲み始めた。
前を見ると、ホワイトボードにアーリャさんが僕とジジイの名前を書いている。
名前の下に飲んだダンブラーの数をカウントしていくのだろう。
「カー! 美味いワインじゃ。こんな美味いものを隠しおって。この親不孝者め!」
ジジイは、アーリャさんを睨みつけた。
「何が親不孝者だ! ろくに父親らしい事なんて、しなかったくせに! この子不幸者!」
アーリャさんも負けじと言い返す。
「ふん!」
ジジイはダンブラーを半分ほど空けたところで、僕の方を見た。
「なんじゃ若者よ。まだ、一口しか飲んでないのか。情けないのう。ハンディが足りんかったかの」
「え? これ二杯目だけど」
「なに!?」
ジジイがホワイトボードに目を向けると、僕の名前の下に一杯がカウントされていた。
「嘘を付くな。お主、全然顔が赤くなっておらんではないか」
「ああ。僕は飲んでも赤くならないんだ」
「なんじゃと! 嘘を付くな」
「本当だって」
僕は、そのまま一気にダンブラーを空にした。
「ほら。赤くならないだろ」
ミールが僕のダンブラーに三杯目の赤ワインを注ぐ。
「ところで、爺さんがさっき飲んだウイスキーのアルコール量は、このダンブラーでワイン二杯分と同じ量になる。このダンブラーを僕の一杯目としてカウントしても良いけど、どうする?」
「いらんわい! 男が一度くれてやったハンディじゃ!」
「本当にいいのかい?」
「ぐどい! 男に二言はない!」
いいのかなあ? まあ、むこうが良いと言っているのだから……
「ご主人様。ペースが早すぎます」
「今日ぐらいいいだろう。勝負なのだから」
「こんなしょうもない勝負で、身体を悪くしたらどうするのです」
「大丈夫だって」
まったく、Pちゃんは心配症だな。
そうしている間に、ジジイは二杯目を飲み干した。
僕も三杯目を飲み干してミールにダンブラーを差し出した。
しかし、ミールはワインピッチャーを抱えたまま首を横にふる。
どうして?
「カイトさん。お爺さんが、三杯目を飲むまで待って下さい」
「そうだね。勝負は公平にやらないと」
「いえ、あまりペース早いと潰れますよ」
「大丈夫。ワインぐらいで潰れないって」
その時になって、ジジイは三杯目を飲み終わった。
ミールはそれを見てから、ワインピッチャーを僕のダンブラーに傾ける。
注ぎ終わってから、ミールはアーリャさんの方を向いた。
「アーリャさん。いいのですか? このお酒、貴重な物では?」
「いいんだよ。もともと、村人が飲むために作っていたワインだけど、男たちが戦場に行っていて余っていたんだ。とは言え、せっかく作ったワインを父さんに飲まれるのはイヤだから隠していたのさ。ワインもヨボヨボの爺さんなんかより、ハンサムに飲まれた方が嬉しいだろう」
「でも、カイトさんって童顔ですけど、お酒飲みだしたら底なしですよ。いいのですか?」
ヒドいな、ミール。僕だって底はあるぞ。たぶん……
そうこうしているうちに、樽の半分ぐらいはなくなってきた。
さすがに回ってきたかな。しかし、ジジイだって……あれ?
「カカカ! どうした若者よ。もう、限界か」
平気みたいだ。
ヤバイ! そろそろ僕も限界だぞ。
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