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第十四章
レムの過去
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「なぜ?」
まだ十歳になったばかりの少年、レム・ベルキナは、眼前に広がる凄惨な光景を呆然として見つめていた。
生まれてから育ってきた家は瓦礫と化し、その瓦礫の中にわずかにできた隙間の中にレムはいたのだ。
優しかった母は、瓦礫に半身を押しつぶされ息絶えていた。息絶える前に母は『ここから逃げろ』と言い残した。
だが、瓦礫の中にできた隙間から脱出できるところはない。あったとしても、この時のレムには逃げる気力もなかった。
ただ、なぜ自分の幸せな暮らしが崩れ去ったのか、考え続けていた。
理由は分かっている。
隣国との戦争が始まったのだ。そのぐらいの事は子供でも理解できた。
しかし、隣国の人達は優しいから、民間人を殺したりはしないと母は言っていた。
その母は、すでに殺されていた。
隣国の奴らは腰抜けばかりだ。戦争などできるものか。と、いつも隣国をバカにしていた父も、一瞬にして瓦礫の下敷きとなった。
「なぜ?」
優しいはずの隣国の人達が、なぜこんなヒドい事をするのだ?
母の言っていた事は、嘘だったのか?
父の言っていた事は、間違っていたのか?
瓦礫の中からレムを救出したのは、隣国の兵士だった。
その兵士にレムは質問をぶつけた。
兵士は答えた。
「君の住んでいた町は、元々私たちの国の領土だったのだよ。それを君たちの国が、武力で奪った。だから、私たちは取り返しにきたのだ」
うそだ!
「嘘ではない。ここは元々、私たちの国だったのだよ」
だからと言って、こんなヒドいことしなくても……
「私たちとしても、民間人に犠牲を出したくなかったのだが、我々の戦闘機が撃墜されて君のアパートに落ちてしまったので、こんな事になってしまった。申し訳ないと思っている」
うそだ!
「嘘ではない。周りを見てごらん」
少年のアパート以外に、壊れている建物はほとんどなかった。隣国の兵士たちも、町の人達に乱暴な事はしていない。
「言っておくが、君の国が攻めてきたときはこんなに優しくはなかったぞ」
レムは収容所に連れて行かれて、映像資料を見せられた。
それは過去に、レムの国が隣国に攻め込んだ時の映像だった。
レムの国の兵士は、隣国の家を焼き、民間人を虐殺し、生き残った者の中から女性を捕まえて陵辱していった。
地獄のような光景を見せられて、レムは絶叫した。
うそだあああああぁぁぁぁぁ!
「嘘ではない。被害を受けていたのは私の国だけではない。周辺の国々は、君の国からヒドい事をされていた。君の国では、一年前に内戦が始まったのは知っているね?」
知っている。でも、すぐに悪い反政府軍が負けて終わると思っていた。
「終わりはしないよ。君の国を恨んでいた周辺諸国の人達が、反政府軍を支援していたからね」
なぜ、周辺諸国の人達はそんな事をするの?
すると、レムは別の資料映像を見せられた。
レムの国の兵士が周辺諸国に攻め込み、民間人に残虐な行為を行っている様子がそこに映っていた。
僕の国の兵士が、こんな酷い事をしたの?
「そうだ」
でも、こんな話聞いたことない。
「そうだろう。誰だって自分の悪事は隠すものさ。君の国の政府は、国民に嘘の歴史を教えていたのだよ」
おじさんたちも、僕たちの町でこれと同じ事をするの?
兵士は首を横にふった。
「そんな事はしない。我々は土地さえ取り返せば、民間人に乱暴はしないよ。本国に帰りたいという人がいれば帰してあげる。ここに住み続けたいという人には、我が国の国籍を与える。ただ、君のように身よりのない子はどうすべきかだが……」
レムはその後、三年間隣国で暮らした後、本国の親戚に引き取られていった。
その三年間の間に、彼は正しい歴史を教え込まれていた。
自分の国が、周辺の国々にいかにヒドいことをしていたかを……
どれだけ、周辺諸国の恨みを買っていたかを……
そして、レムは疑問に思った。
政府の人達は、なぜそんな事をしたのだろう?
周辺諸国の人達の気持ちが、なぜ分からなかったのだろう?
そうか。分かるはずがない。
人の気持ちは、言葉にしなければ他人に伝わらない。
でも、言葉は不完全だ。
言葉では限界がある。
人がもっと他人の気持ちを理解できるようになれば、戦争はなくせる。
それには……
まだ十歳になったばかりの少年、レム・ベルキナは、眼前に広がる凄惨な光景を呆然として見つめていた。
生まれてから育ってきた家は瓦礫と化し、その瓦礫の中にわずかにできた隙間の中にレムはいたのだ。
優しかった母は、瓦礫に半身を押しつぶされ息絶えていた。息絶える前に母は『ここから逃げろ』と言い残した。
だが、瓦礫の中にできた隙間から脱出できるところはない。あったとしても、この時のレムには逃げる気力もなかった。
ただ、なぜ自分の幸せな暮らしが崩れ去ったのか、考え続けていた。
理由は分かっている。
隣国との戦争が始まったのだ。そのぐらいの事は子供でも理解できた。
しかし、隣国の人達は優しいから、民間人を殺したりはしないと母は言っていた。
その母は、すでに殺されていた。
隣国の奴らは腰抜けばかりだ。戦争などできるものか。と、いつも隣国をバカにしていた父も、一瞬にして瓦礫の下敷きとなった。
「なぜ?」
優しいはずの隣国の人達が、なぜこんなヒドい事をするのだ?
母の言っていた事は、嘘だったのか?
父の言っていた事は、間違っていたのか?
瓦礫の中からレムを救出したのは、隣国の兵士だった。
その兵士にレムは質問をぶつけた。
兵士は答えた。
「君の住んでいた町は、元々私たちの国の領土だったのだよ。それを君たちの国が、武力で奪った。だから、私たちは取り返しにきたのだ」
うそだ!
「嘘ではない。ここは元々、私たちの国だったのだよ」
だからと言って、こんなヒドいことしなくても……
「私たちとしても、民間人に犠牲を出したくなかったのだが、我々の戦闘機が撃墜されて君のアパートに落ちてしまったので、こんな事になってしまった。申し訳ないと思っている」
うそだ!
「嘘ではない。周りを見てごらん」
少年のアパート以外に、壊れている建物はほとんどなかった。隣国の兵士たちも、町の人達に乱暴な事はしていない。
「言っておくが、君の国が攻めてきたときはこんなに優しくはなかったぞ」
レムは収容所に連れて行かれて、映像資料を見せられた。
それは過去に、レムの国が隣国に攻め込んだ時の映像だった。
レムの国の兵士は、隣国の家を焼き、民間人を虐殺し、生き残った者の中から女性を捕まえて陵辱していった。
地獄のような光景を見せられて、レムは絶叫した。
うそだあああああぁぁぁぁぁ!
「嘘ではない。被害を受けていたのは私の国だけではない。周辺の国々は、君の国からヒドい事をされていた。君の国では、一年前に内戦が始まったのは知っているね?」
知っている。でも、すぐに悪い反政府軍が負けて終わると思っていた。
「終わりはしないよ。君の国を恨んでいた周辺諸国の人達が、反政府軍を支援していたからね」
なぜ、周辺諸国の人達はそんな事をするの?
すると、レムは別の資料映像を見せられた。
レムの国の兵士が周辺諸国に攻め込み、民間人に残虐な行為を行っている様子がそこに映っていた。
僕の国の兵士が、こんな酷い事をしたの?
「そうだ」
でも、こんな話聞いたことない。
「そうだろう。誰だって自分の悪事は隠すものさ。君の国の政府は、国民に嘘の歴史を教えていたのだよ」
おじさんたちも、僕たちの町でこれと同じ事をするの?
兵士は首を横にふった。
「そんな事はしない。我々は土地さえ取り返せば、民間人に乱暴はしないよ。本国に帰りたいという人がいれば帰してあげる。ここに住み続けたいという人には、我が国の国籍を与える。ただ、君のように身よりのない子はどうすべきかだが……」
レムはその後、三年間隣国で暮らした後、本国の親戚に引き取られていった。
その三年間の間に、彼は正しい歴史を教え込まれていた。
自分の国が、周辺の国々にいかにヒドいことをしていたかを……
どれだけ、周辺諸国の恨みを買っていたかを……
そして、レムは疑問に思った。
政府の人達は、なぜそんな事をしたのだろう?
周辺諸国の人達の気持ちが、なぜ分からなかったのだろう?
そうか。分かるはずがない。
人の気持ちは、言葉にしなければ他人に伝わらない。
でも、言葉は不完全だ。
言葉では限界がある。
人がもっと他人の気持ちを理解できるようになれば、戦争はなくせる。
それには……
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