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第十四章

待ち伏せ

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 最初に、それに気がついたのはPちゃんだった。

 前線基地を出て、舟に向かって森の中を歩いているとき、僕の胸ポケットから顔を出していたPちゃんのアンテナがピコピコっと動いたのだ。

「ご主人様。九時の方向よりマイクロ波を感知しました」
「マイクロ波? レーダーか?」
「はい。レーダーの可能性が高いです」

 それって、舟を隠してある場所では?

 とりあえず、ライサに様子を見に行ってもらった。

「いました。舟の上空十メートルに」

 戻ってきた彼女が差し出したデジカメの画面に映っているのは、浮島に偽装した舟の上に滞空する円盤型ドローンの姿。

 間違えない。フーファイターだ。

 たまたま、ここで休んでいる……というわけではないだろうな。

 浮島に偽装した舟を見つけたので、僕らが戻ってくるのを待ちかまえているのだろう。

「でも……」

 ミールが、怪訝な表情を浮かべた。

「なんで、あんなに目立つところで待ちかまえているのかしら? あたしだったら、目立たない木陰に隠れて待ち伏せするけど」

 確かにミールの言う通りだ。

 という事は、それができない事情が向こうにあるという事かな?

 もし、自分が逆の立場ならどうするか?

 やはり、ミールの言うとおりフーファイターを木陰に隠して待ちかまえるだろう。

 すると僕らが戻ってくるまで、何時間もモニター前で監視しなきゃならないわけだが、一人でそんな事をやっていたら大変だ。

 交代で見張るか、AIに見張らせるか……そうか!

「これは、単純な人手不足だな」
「どういうことですか? カイトさん」
「フーファイターは、おそらく矢納課長が操作しているのだろう。同じ仲間のように見えるけど、矢納課長とレムとでは目的が違う。レムの目的はミクの拉致。そのために僕らには、地下施設では式神が使えないという情報を持って、さっさと帰ってもらいたいはずだ。しかし、矢納課長の目的は僕への復讐。今、ここで僕を見つけた以上、すぐにでも殺したいはず」
「なるほど。では、ヤナはレムに黙ってこんな事を……」
「そう。ここで矢納課長が待ち伏せ攻撃をしようとしていることは、レムには知られていない」
「レムがこの事を知ったら、当然やめさせるでしょうね」
「だから、矢納課長は僕らの舟を発見した事は黙っていて、一人でやろうとしているのだろう。他の帝国兵に協力を求めたら、レムに報告される恐れがある。おそらく、AIも信用できないのだろう」
「ねえ、それなら」

 ナージャが、持っていたトランクを開いた。

 中にはレーザー銃が入っている。

「こいつで撃ち落としてやろうよ。あんな止まった標的一発よ」
「いや。ナージャ。たぶん、それが矢納課長の作戦だと思う」
「え? どういう事?」
「矢納課長は、見張り要員を確保できなかった。だけど、一人で見張るのは辛い。だから、こっちから見つけてもらえるようにしたのだよ」
「どういう事?」
「矢納課長はフーファイターを目立つところに置き、レーダーまで稼働させた。僕らが発見しやすいように」
「何のために?」
「これを僕らが発見したら、攻撃してくるとふんだのだろう」
「じゃあ、あのフーファイターは囮?」
「そうだ。たぶん、あれを撃ち落としたら、すぐに射点を割り出されてしまい、隠れていたもう一機のフーファイターが僕らを攻撃してくるはずだ」
「カイトさん。フーファイターがもう一機いると言うのですか?」
「盗まれた非バリオン物質の量から換算して、フーファイターはまだ二機作れるはずだ。いても不思議はない」

 しかし、フーファイターには、貴重な非バリオン物質を使っている。それを、そう簡単に囮に使うだろうか?

 まあ、矢納課長は自分の金はビタ一文出そうとしないが、会社の金は湯水のように使う人だったし、貴重な非バリオン物質もどうせ他人から奪ったものだから、あり得なくはないが……

 ん? なんだ? あれは?

 僕は双眼鏡を出してフーファイターを眺めた。

「どうしたのです? カイトさん」
「ミール。あれはフーファイターじゃない」
「え?」
「あれはフーファイターに見せかけた張りぼてに、水素かヘリウムを入れて浮かせているだけだ」
「ええ?」

 よく見ると、フーファイターの下から糸のようなものが延びているのが見えた。

 どうやら、矢納課長は本物を囮にする気はないようだ。あの張りぼてを迂闊に攻撃すると、どこかに隠れている本物が攻撃してくるという算段だろう。

 しかし、困った。

 これでは舟まで行けない。

 どうやって村に戻るか?

 僕はライサの方をふり向いた。

「他に、村へ帰る道はないのかな?」

 ライサはしばらく考え込んでから答えた。

「森の中を通るしかありませんが、それには爺さんに案内してもらう必要があります。爺さんに迎えに来てもらいましょうか?」

 できれば、その方法は避けたいが、それ以前に……

「どうやって爺さんを呼ぶの?」
「だから、電話で」
「そうか、電話が通じたのだったな……電話?」
「どうかしましたか?」

 帰る方法、思いついた。
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