559 / 848
第十四章
考えすぎではなかった
しおりを挟む
ミールが分身体とのコンタクトを再開できたのは、それから十分ほど後の事だった。
「あたしの分身体、ドローンに縛り付けられていました」
誰がそんな事を? いや、そんな事できるのはPちゃんしかいないが、Pちゃんがなぜそんな事を?
ミールとケンカになったのだろうか?
「Pちゃんに事情を聞いたのですが、地下施設に入ってから、あたしが何も喋らなくなったそうです。Pちゃんから話かけてきてもまったく返事がなく、そのうちあたしはドローンから落ちてしまったそうです」
「落ちたって? 怪我はなかったかい?」
「分身体だから、その心配はありませんよ」
そうでした。
「ただ、あたしの分身体は落ちたまま、まったく動こうとしないので、Pちゃんはあたしをドローンに縛り付けて戻ってきたのです」
だから、縛ったのか。向こうでケンカになったわけじゃないのだな。
しかし、分身体が動かなくなったという事は……
「分身体のコントロールを遮る何かが、そこにあるという事かな?」
「あたしもそう思います」
となると、ミクが《海龍》にいながら式神を地下施設に送り込む事は不可能という事か。
「カイトさん。困った事になりましたね」
「ああ。だけど、これが分かっただけでも収穫だよ。何も知らないまま突っ込んでいたら……」
本当に、これは収穫なのだろうか?
敵の目的がミクの拉致であるとしたら、ミクが《海龍》から出てこざるを得ない状況を作る必要がある。
もし、地下施設の中にエラがいて、ミクしか対応できない事態になって、ミク本人が地下に入って式神をコントロールしなければならなくなったら、まさに敵の思うつぼ……
まさか?
「ミール。Pちゃんに伝えてくれ。ドローンを草むらに隠すようにと」
「はーい」
「ドローンを隠したら、ミールの分身体だけ降りて、帝国兵の前を見えるように横切らせてくれ」
「そんな事をしたら……」
「帝国兵が捕まえにくるか、攻撃をしてくるだろうね。その際は分身体を消してくれ。Pちゃんには分身体の消滅を確認したら、こっちへ戻ってくるように伝えてほしい」
「分かりました。でも、カイトさん。なぜ、そんな事を」
「帝国兵の反応を見てみたいのだよ」
「反応?」
「普通なら、ミールの分身体を見つけたら捕まえるか、あるいは発砲してくるだろう。だが、もしそれをしないで見て見ぬふりをしていたら……」
「見て見ぬふり? なぜ、帝国兵がそんな事を?」
「僕の考えすぎかもしれないのだけどね……」
考えすぎではなかった。
僕の予想通り、帝国兵はミールの分身体を見ていながら何もしなかったのだ。
「あたしの分身体、ドローンに縛り付けられていました」
誰がそんな事を? いや、そんな事できるのはPちゃんしかいないが、Pちゃんがなぜそんな事を?
ミールとケンカになったのだろうか?
「Pちゃんに事情を聞いたのですが、地下施設に入ってから、あたしが何も喋らなくなったそうです。Pちゃんから話かけてきてもまったく返事がなく、そのうちあたしはドローンから落ちてしまったそうです」
「落ちたって? 怪我はなかったかい?」
「分身体だから、その心配はありませんよ」
そうでした。
「ただ、あたしの分身体は落ちたまま、まったく動こうとしないので、Pちゃんはあたしをドローンに縛り付けて戻ってきたのです」
だから、縛ったのか。向こうでケンカになったわけじゃないのだな。
しかし、分身体が動かなくなったという事は……
「分身体のコントロールを遮る何かが、そこにあるという事かな?」
「あたしもそう思います」
となると、ミクが《海龍》にいながら式神を地下施設に送り込む事は不可能という事か。
「カイトさん。困った事になりましたね」
「ああ。だけど、これが分かっただけでも収穫だよ。何も知らないまま突っ込んでいたら……」
本当に、これは収穫なのだろうか?
敵の目的がミクの拉致であるとしたら、ミクが《海龍》から出てこざるを得ない状況を作る必要がある。
もし、地下施設の中にエラがいて、ミクしか対応できない事態になって、ミク本人が地下に入って式神をコントロールしなければならなくなったら、まさに敵の思うつぼ……
まさか?
「ミール。Pちゃんに伝えてくれ。ドローンを草むらに隠すようにと」
「はーい」
「ドローンを隠したら、ミールの分身体だけ降りて、帝国兵の前を見えるように横切らせてくれ」
「そんな事をしたら……」
「帝国兵が捕まえにくるか、攻撃をしてくるだろうね。その際は分身体を消してくれ。Pちゃんには分身体の消滅を確認したら、こっちへ戻ってくるように伝えてほしい」
「分かりました。でも、カイトさん。なぜ、そんな事を」
「帝国兵の反応を見てみたいのだよ」
「反応?」
「普通なら、ミールの分身体を見つけたら捕まえるか、あるいは発砲してくるだろう。だが、もしそれをしないで見て見ぬふりをしていたら……」
「見て見ぬふり? なぜ、帝国兵がそんな事を?」
「僕の考えすぎかもしれないのだけどね……」
考えすぎではなかった。
僕の予想通り、帝国兵はミールの分身体を見ていながら何もしなかったのだ。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
夜空に瞬く星に向かって
松由 実行
SF
地球人が星間航行を手に入れて数百年。地球は否も応も無く、汎銀河戦争に巻き込まれていた。しかしそれは地球政府とその軍隊の話だ。銀河を股にかけて活躍する民間の船乗り達にはそんなことは関係ない。金を払ってくれるなら、非同盟国にだって荷物を運ぶ。しかし時にはヤバイ仕事が転がり込むこともある。
船を失くした地球人パイロット、マサシに怪しげな依頼が舞い込む。「私たちの星を救って欲しい。」
従軍経験も無ければ、ウデに覚えも無い、誰かから頼られるような英雄的行動をした覚えも無い。そもそも今、自分の船さえ無い。あまりに胡散臭い話だったが、報酬額に釣られてついついその話に乗ってしまった・・・
第一章 危険に見合った報酬
第二章 インターミッション ~ Dancing with Moonlight
第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley)
第四章 ベイシティ・ブルース (Bay City Blues)
第五章 インターミッション ~ミスラのだいぼうけん
第六章 泥沼のプリンセス
※本作品は「小説家になろう」にも投稿しております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
マスターブルー~完全版~
しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。
お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。
ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、
兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ
の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、
反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と
空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる