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第十四章
明日できることは今日やらない
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「ええ! 結局、爺さんから話を聞かなかったの?」
ナージャが意外そうに言ったのは翌朝の事。
「ああ。つい、イラっと来て」
昨夜は、爺さんからレムの話を聞く機会だったというのに、つい頭に来て部屋から放り出してしまった。
放り出した後でその事を思い出したのだが、村の女性たちから半殺しにされた後で聞けばいいやと思っていた。
だが、夜が明けてからナージャの部屋へ行って (もちろんミールとPちゃんも同行して)聞いてみると、あの後、爺さんは包囲網を突破して逃げてしまったそうだ。
まずいな。今回の事で気を悪くしているだろうから、次は会っても話を聞かせてくれないかも……
よし!
「あんな爺さんの事は忘れよう。関わると、面倒だし」
「いいの? せっかくレムの事が分かるかもしれないのに」
「なに。どうせ、たいした事は知っていないだろう」
たいした事を知っていたとしても、話を聞くだけで高くつきそうだ。
「ミールもPちゃんも、あんな爺さんに関わりたくはないだろう?」
ミールは難しい顔をする。
「そりゃあ、あたしも関わりたくはありませんが……」
「ご主人様。あの人は変態だけど、かなり重要な情報を握っていますよ」
そうだよな……だが、ここは心に棚を作って……
「よし! 爺さんのことは、北島の偵察をして、カートリッジを奪還してから考えよう」
「ご主人様。それはただ問題を先送りにしているだけですが」
「明日できることは今日やらない。それが僕の主義だ」
うん。これでいいのだよ。
さあ、変態爺の事は忘れて、心おきなく北島偵察に取りかかろう。
僕たちは地下道から、自分たちの部屋に戻った。
戻るとすでに、アーリャさんとライサが待っている。
僕は二人に軽く挨拶をすませると、床にパソコンを置き、ベイス島の衛星写真を表示した。
村は南島の中央付近にある。ここから北島に行くには、まず徒歩で十キロ北へ移動し、そこから三キロの砂州を渡らなきゃならないのだが……
「上空のドローンから見つからないで移動するには、森の中を移動するしかないけど、森の中だけで移動はできますか?」
「それは可能だけど、砂州を渡るのは止めたほうがいい。あそこを通ると、ベイス湾に停泊している艦隊から丸見えだ」
「しかし、今まで偵察隊を送っていたのでしょ?」
「今までは、砂州の反対側を小舟で移動していたのだよ。だけど、ドローンを帝国軍が飛ばしている状況では見つからないで渡るのは難しいね」
ううん……
「それと森の中を移動するのは可能だと言ったけど、それは獣道を通れば行けるという事で、偵察隊は実際にそこを通ってはいない」
「では、どうしていたのです?」
アーリャさんは、衛星写真の一カ所を指さした。
南島の真ん中あたりだ。
「ここに湖があるだろう。ここからベイス湾に向かって大きな川が流れているね。今まではこの川から舟でベイス湾まで行って、そこから砂州の反対側に隠してあった小舟で北島に渡っていたんだ。だけど、島の上までドローンが飛んでいるのでは、水路を使うのも危険だね」
「森の中の獣道は、危険なのですか?」
「危険というより、森の中は迷路みたいになっていてね。案内人なしに通り抜けるのは無理だ」
「案内人? 誰か、森の中に詳しい人がいるのですか?」
「私の父」
「う……他には……」
「村から近いところなら私でも案内できるけど、ベイス湾まで通り抜けられる道が分かる人は他にいないね」
結局、あのスケベ爺を頼らなきゃならないのか。
「ご主人様。この際、仕方ありません」
十二体のミニPちゃんが、僕の前に勢ぞろいした。
「私たちのどれか一体を差し出して下さい。私が感情をカットすれば、何も問題ありません」
「いや、だめだ」
Pちゃんが良くても僕がイヤだ。エロ爺に、Pちゃんが悪戯されている光景なんて想像するだけでおぞましい。
「アーリャさん。お父さんには報酬として何を払えばいいのですか? 女以外で」
「女以外ね。酒かな」
酒?
僕はリュックの奥に手を突っ込んだ。
「これでどうです?」
僕が差し出したのはウイスキーの小瓶。
出発前にアーニャさんがこっそりとくれた貴重品。
馬美玲にも見つからないで隠していた一品を譲ってくれたものだ。
「ご主人様。それは……」
「Pちゃん。何も言うな。十二体の中の一体とは言え、君を爺さんに渡すぐらいなら……」
「私に隠して、そんな物を持ち込んだのですね」
今、それを言うか。
「カイトさん。Pちゃん。そんな事はしなくてもいいですよ。ここに居ながらにして、あたしの分身体を偵察に送り込めばいいじゃないですか」
「え? しかし……」
「あたしの分身体だけなら、ドローンに見つかっても怪しまれませんから、舟で行っても大丈夫です」
「しかし、ドローンのカメラに映ったら分身体だとすぐにばれるぞ。それに、ミールの顔は向こうにも知られている」
「そうでした」
やはり爺さんに頼るしかないか。しかし、上手く頼めたとしても、森の中を歩くのは辛そうだな。変な虫が出そうだし……できれば舟で……
ベイス島の衛星写真を拡大してみた。
ん? なんだ、あれは?
湖のあたりをさらに拡大してみた。
「アーリャさん。これはなに?」
「ああ。それは浮き島だよ。この湖には多いんだ」
これは使えそうだ。
ナージャが意外そうに言ったのは翌朝の事。
「ああ。つい、イラっと来て」
昨夜は、爺さんからレムの話を聞く機会だったというのに、つい頭に来て部屋から放り出してしまった。
放り出した後でその事を思い出したのだが、村の女性たちから半殺しにされた後で聞けばいいやと思っていた。
だが、夜が明けてからナージャの部屋へ行って (もちろんミールとPちゃんも同行して)聞いてみると、あの後、爺さんは包囲網を突破して逃げてしまったそうだ。
まずいな。今回の事で気を悪くしているだろうから、次は会っても話を聞かせてくれないかも……
よし!
「あんな爺さんの事は忘れよう。関わると、面倒だし」
「いいの? せっかくレムの事が分かるかもしれないのに」
「なに。どうせ、たいした事は知っていないだろう」
たいした事を知っていたとしても、話を聞くだけで高くつきそうだ。
「ミールもPちゃんも、あんな爺さんに関わりたくはないだろう?」
ミールは難しい顔をする。
「そりゃあ、あたしも関わりたくはありませんが……」
「ご主人様。あの人は変態だけど、かなり重要な情報を握っていますよ」
そうだよな……だが、ここは心に棚を作って……
「よし! 爺さんのことは、北島の偵察をして、カートリッジを奪還してから考えよう」
「ご主人様。それはただ問題を先送りにしているだけですが」
「明日できることは今日やらない。それが僕の主義だ」
うん。これでいいのだよ。
さあ、変態爺の事は忘れて、心おきなく北島偵察に取りかかろう。
僕たちは地下道から、自分たちの部屋に戻った。
戻るとすでに、アーリャさんとライサが待っている。
僕は二人に軽く挨拶をすませると、床にパソコンを置き、ベイス島の衛星写真を表示した。
村は南島の中央付近にある。ここから北島に行くには、まず徒歩で十キロ北へ移動し、そこから三キロの砂州を渡らなきゃならないのだが……
「上空のドローンから見つからないで移動するには、森の中を移動するしかないけど、森の中だけで移動はできますか?」
「それは可能だけど、砂州を渡るのは止めたほうがいい。あそこを通ると、ベイス湾に停泊している艦隊から丸見えだ」
「しかし、今まで偵察隊を送っていたのでしょ?」
「今までは、砂州の反対側を小舟で移動していたのだよ。だけど、ドローンを帝国軍が飛ばしている状況では見つからないで渡るのは難しいね」
ううん……
「それと森の中を移動するのは可能だと言ったけど、それは獣道を通れば行けるという事で、偵察隊は実際にそこを通ってはいない」
「では、どうしていたのです?」
アーリャさんは、衛星写真の一カ所を指さした。
南島の真ん中あたりだ。
「ここに湖があるだろう。ここからベイス湾に向かって大きな川が流れているね。今まではこの川から舟でベイス湾まで行って、そこから砂州の反対側に隠してあった小舟で北島に渡っていたんだ。だけど、島の上までドローンが飛んでいるのでは、水路を使うのも危険だね」
「森の中の獣道は、危険なのですか?」
「危険というより、森の中は迷路みたいになっていてね。案内人なしに通り抜けるのは無理だ」
「案内人? 誰か、森の中に詳しい人がいるのですか?」
「私の父」
「う……他には……」
「村から近いところなら私でも案内できるけど、ベイス湾まで通り抜けられる道が分かる人は他にいないね」
結局、あのスケベ爺を頼らなきゃならないのか。
「ご主人様。この際、仕方ありません」
十二体のミニPちゃんが、僕の前に勢ぞろいした。
「私たちのどれか一体を差し出して下さい。私が感情をカットすれば、何も問題ありません」
「いや、だめだ」
Pちゃんが良くても僕がイヤだ。エロ爺に、Pちゃんが悪戯されている光景なんて想像するだけでおぞましい。
「アーリャさん。お父さんには報酬として何を払えばいいのですか? 女以外で」
「女以外ね。酒かな」
酒?
僕はリュックの奥に手を突っ込んだ。
「これでどうです?」
僕が差し出したのはウイスキーの小瓶。
出発前にアーニャさんがこっそりとくれた貴重品。
馬美玲にも見つからないで隠していた一品を譲ってくれたものだ。
「ご主人様。それは……」
「Pちゃん。何も言うな。十二体の中の一体とは言え、君を爺さんに渡すぐらいなら……」
「私に隠して、そんな物を持ち込んだのですね」
今、それを言うか。
「カイトさん。Pちゃん。そんな事はしなくてもいいですよ。ここに居ながらにして、あたしの分身体を偵察に送り込めばいいじゃないですか」
「え? しかし……」
「あたしの分身体だけなら、ドローンに見つかっても怪しまれませんから、舟で行っても大丈夫です」
「しかし、ドローンのカメラに映ったら分身体だとすぐにばれるぞ。それに、ミールの顔は向こうにも知られている」
「そうでした」
やはり爺さんに頼るしかないか。しかし、上手く頼めたとしても、森の中を歩くのは辛そうだな。変な虫が出そうだし……できれば舟で……
ベイス島の衛星写真を拡大してみた。
ん? なんだ、あれは?
湖のあたりをさらに拡大してみた。
「アーリャさん。これはなに?」
「ああ。それは浮き島だよ。この湖には多いんだ」
これは使えそうだ。
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