547 / 848
第十四章
簡易シェルター
しおりを挟む
あのスケベ爺さんが、レム・ベルキナを直接知っている人間だというのか?
それは、ぜひとも話を聞いてみたいところだが……
「このエロジジイ!」
「今日こそ、引導渡してやる!」
「ほーれ! 捕まえてみろ!」
「きゃあ! 触ったわね!」
爺さんと女性たちの声は、どんどん遠ざかって行く。
「いつ頃になったら、帰って来るかな?」
僕の質問にナージャは肩をすくめた。
「今日は無理だね。森の奥へ逃げ込んでしまうだろうし」
「そうか。しかし、ナージャ。なぜ今までその事を黙っていた?」
「だからさ、私もうろ覚えな記憶なので、もしガセネタだったら申し訳ないと思ったのよ。だから、爺さんに会うのは時間があったら、ついでにという事でどうかな?」
「そうか。では、そうする事にして、今は最初の予定通り、北島に偵察に行く計画を立てよう」
僕はおばさんの方をふり向いた。
「北島に上陸した帝国軍について、何か知っている事はありませんか?」
「ああ、その事ね。じゃあ、家の中で話そうか」
僕たちはおばさんに招かれて、一軒の家に向かっていった。
やはり、コンクリート造りの建物だが、近づくと壁のあちこちでコンクリートが剥がれているのが分かる。
補修もろくにやっていないようだ。
中に入ってみると、コンクリートの壁に木の板が貼り付けられていた。はげ落ちた壁の代用に木板を貼っているのだろうか?
不意におばさんが振り返る。
「オンボロなので驚いただろ」
「え? いえ……」
「なにせ、ここの建物は、ほとんど北島から連れてきたロボットが建てた物でね。私が子供の頃は、まだロボットが何台も動いていて建物の補修をやっていたけど、そのうちロボットはどんどん故障して動かなくなっていった。それから建物はどんどんボロくなっていったのさ」
「自分たちで、補修しないのですか?」
ミールが不思議そうに言う。
「木の家だったら、なんとかできたのだけどね。コンクリートの家だと、材料の調達が大変でね」
入り口から薄暗い廊下が続いていた。
おばさんが壁のスイッチを入れると廊下の明かりが灯る。
天井を見上げると、そこで光を発していたのは白熱電球。
視線を下に戻すとおばさんが僕を見ていた。
「電灯が珍しいのかい?」
「え? いや、そうではなくて……」
電気の明かりが珍しいのではなくて、LED照明を使っている僕には白熱電球なんてあるのが珍しいと……なんて言っては失礼かな。
しかし、白熱電球を作るなんて結構な技術が必要だし、マトリョーシカ号のコピー人間たちに作れるのか?
その事を聞いてみると……
「ああ、なるほど。確かに私たちの親世代は二十二世紀人のコピー人間だからね。ほとんどは物作りを忘れた人たちさ。だけど、二十二世紀にも物作りの技術を継承しようとしている人たちがいたのだよ。確か、職人会とか言ったね。北島の研究所に送り込まれた人たちの中には、職人会のメンバーが何人かいたんだ。私の父も含めてね」
廊下を進みながら、おばさんは説明してくれた。
「父はガラス工芸を得意としていたからね。薬品合成に必要な器具とか作っていた。それと電球もね」
廊下の角を曲がると、その奥に扉があった。
「なるほど。しかし、電球は分かりましたがフィラメントとかはどうしたのです? タングステンとかこの島で手に入るのですか?」
「タングステン? そんな上等な物は使っていないよ。これは……」
ドアまでもう少しというところまで着たとき、不意に辺りが闇に包まれた。電球が切れたようだな。
振り返ると廊下の角までは外の明かりが届いているようだが、ここまでは光が届かないようだ。
「あらら! また切れちゃったか」
闇の中から聞こえたのは、おばさんの声。
続いてシュッ! という音が聞こえ、仄かな明かりが灯った。
明かりはおばさんの持っているマッチの火から発している。
おばさんは慣れた手つきで、ロウソクにマッチの火を移した。
「電球のフィラメントにはね、竹を使っているのよ」
「竹?」
「地球から持ち込んだ竹を栽培して、その繊維を使っているんだ」
エジソンが初期に作っていた電球と同じか。
「電球は、あの爺さんしか作れないのですか?」
「いいや。以前はそうだったけど、今は三人の弟子がガラス工芸を覚えたから、父はもう用済みさ」
用済みって……実の父をそこまでヒドく言わなくても……
「それにもうすぐ、リトル東京から大量にLEDが届くことになっている。そしたら、すぐ切れる白熱電球なんていらなくなるね」
そう言いながら、おばさんは扉を開いた。
八畳ほどの広さの部屋を照らしている明かりはLEDによるもの。
「この部屋のLEDは、リトル東京の人たちが持ってきてくれたのさ」
「なるほど。しかし、なぜこの部屋は窓がないのです?」
「死の灰を警戒して、こんな建物を建てたのさ」
死の灰!? なぜそんな物が……そうか! カルカ軍が電子パルス攻撃に使用した原爆だな。
ということは、この集落の建物は簡易シェルターの様なものという事か。
「地下施設を出たとき、北島は放射性物質に汚染されていたのよ。だから、みんな南島に移住する事になったの。南島は汚染されていなかったけど、その時は放射性物質の発生原因が分かっていなかった。南島にもいつ死の灰が降ってくるか分からないので、念のため窓のないコンクリートの家を作ったのよね」
死の灰がいつ降ってくるか分からない不安から、ずっとこの家に住み続けていたのだな。
それは、ぜひとも話を聞いてみたいところだが……
「このエロジジイ!」
「今日こそ、引導渡してやる!」
「ほーれ! 捕まえてみろ!」
「きゃあ! 触ったわね!」
爺さんと女性たちの声は、どんどん遠ざかって行く。
「いつ頃になったら、帰って来るかな?」
僕の質問にナージャは肩をすくめた。
「今日は無理だね。森の奥へ逃げ込んでしまうだろうし」
「そうか。しかし、ナージャ。なぜ今までその事を黙っていた?」
「だからさ、私もうろ覚えな記憶なので、もしガセネタだったら申し訳ないと思ったのよ。だから、爺さんに会うのは時間があったら、ついでにという事でどうかな?」
「そうか。では、そうする事にして、今は最初の予定通り、北島に偵察に行く計画を立てよう」
僕はおばさんの方をふり向いた。
「北島に上陸した帝国軍について、何か知っている事はありませんか?」
「ああ、その事ね。じゃあ、家の中で話そうか」
僕たちはおばさんに招かれて、一軒の家に向かっていった。
やはり、コンクリート造りの建物だが、近づくと壁のあちこちでコンクリートが剥がれているのが分かる。
補修もろくにやっていないようだ。
中に入ってみると、コンクリートの壁に木の板が貼り付けられていた。はげ落ちた壁の代用に木板を貼っているのだろうか?
不意におばさんが振り返る。
「オンボロなので驚いただろ」
「え? いえ……」
「なにせ、ここの建物は、ほとんど北島から連れてきたロボットが建てた物でね。私が子供の頃は、まだロボットが何台も動いていて建物の補修をやっていたけど、そのうちロボットはどんどん故障して動かなくなっていった。それから建物はどんどんボロくなっていったのさ」
「自分たちで、補修しないのですか?」
ミールが不思議そうに言う。
「木の家だったら、なんとかできたのだけどね。コンクリートの家だと、材料の調達が大変でね」
入り口から薄暗い廊下が続いていた。
おばさんが壁のスイッチを入れると廊下の明かりが灯る。
天井を見上げると、そこで光を発していたのは白熱電球。
視線を下に戻すとおばさんが僕を見ていた。
「電灯が珍しいのかい?」
「え? いや、そうではなくて……」
電気の明かりが珍しいのではなくて、LED照明を使っている僕には白熱電球なんてあるのが珍しいと……なんて言っては失礼かな。
しかし、白熱電球を作るなんて結構な技術が必要だし、マトリョーシカ号のコピー人間たちに作れるのか?
その事を聞いてみると……
「ああ、なるほど。確かに私たちの親世代は二十二世紀人のコピー人間だからね。ほとんどは物作りを忘れた人たちさ。だけど、二十二世紀にも物作りの技術を継承しようとしている人たちがいたのだよ。確か、職人会とか言ったね。北島の研究所に送り込まれた人たちの中には、職人会のメンバーが何人かいたんだ。私の父も含めてね」
廊下を進みながら、おばさんは説明してくれた。
「父はガラス工芸を得意としていたからね。薬品合成に必要な器具とか作っていた。それと電球もね」
廊下の角を曲がると、その奥に扉があった。
「なるほど。しかし、電球は分かりましたがフィラメントとかはどうしたのです? タングステンとかこの島で手に入るのですか?」
「タングステン? そんな上等な物は使っていないよ。これは……」
ドアまでもう少しというところまで着たとき、不意に辺りが闇に包まれた。電球が切れたようだな。
振り返ると廊下の角までは外の明かりが届いているようだが、ここまでは光が届かないようだ。
「あらら! また切れちゃったか」
闇の中から聞こえたのは、おばさんの声。
続いてシュッ! という音が聞こえ、仄かな明かりが灯った。
明かりはおばさんの持っているマッチの火から発している。
おばさんは慣れた手つきで、ロウソクにマッチの火を移した。
「電球のフィラメントにはね、竹を使っているのよ」
「竹?」
「地球から持ち込んだ竹を栽培して、その繊維を使っているんだ」
エジソンが初期に作っていた電球と同じか。
「電球は、あの爺さんしか作れないのですか?」
「いいや。以前はそうだったけど、今は三人の弟子がガラス工芸を覚えたから、父はもう用済みさ」
用済みって……実の父をそこまでヒドく言わなくても……
「それにもうすぐ、リトル東京から大量にLEDが届くことになっている。そしたら、すぐ切れる白熱電球なんていらなくなるね」
そう言いながら、おばさんは扉を開いた。
八畳ほどの広さの部屋を照らしている明かりはLEDによるもの。
「この部屋のLEDは、リトル東京の人たちが持ってきてくれたのさ」
「なるほど。しかし、なぜこの部屋は窓がないのです?」
「死の灰を警戒して、こんな建物を建てたのさ」
死の灰!? なぜそんな物が……そうか! カルカ軍が電子パルス攻撃に使用した原爆だな。
ということは、この集落の建物は簡易シェルターの様なものという事か。
「地下施設を出たとき、北島は放射性物質に汚染されていたのよ。だから、みんな南島に移住する事になったの。南島は汚染されていなかったけど、その時は放射性物質の発生原因が分かっていなかった。南島にもいつ死の灰が降ってくるか分からないので、念のため窓のないコンクリートの家を作ったのよね」
死の灰がいつ降ってくるか分からない不安から、ずっとこの家に住み続けていたのだな。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
マスターブルー~完全版~
しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。
お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。
ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、
兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ
の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、
反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と
空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる