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第十四章
ベイス島攻略会議 1
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お昼ごろに発令所に入ると、すでに《海龍》の乗組員は全員集まっていた。一応、集合時刻の十分前だけど、僕が一番遅かったようだな。
ヤバいな。重役出勤とか言われそう……あ! ここでは、僕が一番の重役だったのか。
メインモニターには《水龍》にいるレイホー、ナージャ、カミラ、エラの四人の顔が映っている。
アーニャが僕の方を振り向いた。
「司令。全員そろっています」
「ああ……どうも」
不意にアーニャが、僕の耳元に口を寄せ小声で言った。
「こういう時は『うむ。ごくろう』と、威厳をもって言うものよ」
いや、無理だって……僕に威厳なんてないし……
「アーニャさん。やっぱ、僕ってリーダーとか向いていないよ」
「大丈夫よ。私だって、二十年前のまだ十五歳の時に、朱雀隊のリーダーをいきなり任されたけど、なんとかやりこなしたわ」
「え?」
「まあ、まったく問題がなかったわけではないけど……」
いや、僕が『え?』と言ったのは問題があったかどうかではなく、三十年前ではという……いや、やめておこう。
女性の歳につっこみを入れるのは後が怖い。
僕は指令席についてみんなを眺め回した。
「では、作戦会議を始めようと思う。Pちゃん。ベイス島の衛星写真を」
「はい。ご主人様」
メインモニターに二つの島が映った。
「ベイス島は一つの島ではなく、南北二つの島からなります。北の島は直径十キロほどのほぼ円形で中心に標高千メートルの休火山がある島です。南の島は東西五キロ南北二十キロほどの細長い島で北の島と比べて平地が多いです。ただ、この二つの島は長さ三キロの砂州によって常時つながっているので、一つの島と言えないこともないです。カルカ軍の記録によると、レムの施設があったのは北の島。カルカ軍はそれを突き止めた後、電磁パルス攻撃によってレムのコンピューターを破壊しました。ただ、上陸はしていません」
僕はアーニャの方に顔を向けた。
「アーニャさんは、その作戦に参加していましたか?」
「ええ。当時私は《光龍》を指揮していたわ。章白龍は《水龍》、そしてこの《海龍》は王が指揮していた」
「王さんって、この前の戦いで指揮を取っていた……」
「そうよ」
「なぜ、その時に上陸をしなかったのですか?」
「こちらの艦隊もかなり損傷を受けていたので、上陸をする余裕がなかったのよ。戦果確認にはドローンを使ったわ」
僕はナージャの映っているモニターに目を向けた。
「ナージャさん。あなたはまだ生まれていなかったと思いますが、その時の事をレイラ・ソコロフさんからどのように聞いていますか?」
『祖母の話では、施設の中が突然真っ暗になったそうです』
その辺はこの前聞いたな。
『ただ、施設は地下七階までありまして、地下二階にあったメインコンピューターは完全に破壊されていたのですが、地下五階から下の機器類は生きていました。もちろん、そこの機器類はただの機械でレムの意志はありません』
「どんな機械がありました?」
『医療機器や土木機械、工作機械。そしてスキャナーとプリンター』
プリンター!?
『祖母達は、そこにあった医療機器とスキャナーを使って、自分たちが完全にレムから切断された事を確認したのです』
「プリンターはどこにありましたか? それとカートリッジは?」
『プリンターは地下七階です。カートリッジもそこにありました。ただ、カートリッジはほとんど残っていなかったそうですが』
そうか。盗んだカートリッジをベイス島に運び込んだのは、そこにプリンターがあったからだな。
そうなると、僕たちの目的は地下七階。
「地下施設の構造は分かりますか?」
『それに関しては、祖母からデータを預かっています。今から、そちらに送りますね』
彼女の送ってくれたデータは簡単な図面かと思っていたが、そうではない。詳細な三次元CADデータだったのだ。
「ナージャさん。データありがとうございます」
『いいえ。お役に立てて光栄です』
「それと、もう少し聞きたいのですが、ナージャさん達がベイス島を引き払ったのはいつ頃ですか?」
『私が島を離れたのは三年前ですが、島には今も家があり家族もいます。引き払ってはいません』
「え? でもベイス島には帝国軍が再上陸したのでは?」
『地下施設があるのは北島で、私たちの集落は南島にあります。お婆ちゃんたちがレムから解放された後、砂州を渡って南島に移住したのですよ。帝国軍が再上陸したのは半年前で、それも小規模な部隊です。南島には、まったくちょっかいをかけてきません。集落の存在を無視しているのか、存在にすら気がついていないものと思われます』
「なるほど。しかし、集落のそんな近くに帝国軍がいては心配ですね」
『ええ。ですから、リトル東京から武器供与を受けて防衛体制を整えています。近いうちに軍事顧問も来てくれる事になっています』
リトル東京から軍事顧問。まさか、相模原月菜も来るのかな? ミールや芽依ちゃんとケンカにならなきゃいいけど……
よし! 軍事顧問とは、なるべく接触しないように行動しよう。
ヤバいな。重役出勤とか言われそう……あ! ここでは、僕が一番の重役だったのか。
メインモニターには《水龍》にいるレイホー、ナージャ、カミラ、エラの四人の顔が映っている。
アーニャが僕の方を振り向いた。
「司令。全員そろっています」
「ああ……どうも」
不意にアーニャが、僕の耳元に口を寄せ小声で言った。
「こういう時は『うむ。ごくろう』と、威厳をもって言うものよ」
いや、無理だって……僕に威厳なんてないし……
「アーニャさん。やっぱ、僕ってリーダーとか向いていないよ」
「大丈夫よ。私だって、二十年前のまだ十五歳の時に、朱雀隊のリーダーをいきなり任されたけど、なんとかやりこなしたわ」
「え?」
「まあ、まったく問題がなかったわけではないけど……」
いや、僕が『え?』と言ったのは問題があったかどうかではなく、三十年前ではという……いや、やめておこう。
女性の歳につっこみを入れるのは後が怖い。
僕は指令席についてみんなを眺め回した。
「では、作戦会議を始めようと思う。Pちゃん。ベイス島の衛星写真を」
「はい。ご主人様」
メインモニターに二つの島が映った。
「ベイス島は一つの島ではなく、南北二つの島からなります。北の島は直径十キロほどのほぼ円形で中心に標高千メートルの休火山がある島です。南の島は東西五キロ南北二十キロほどの細長い島で北の島と比べて平地が多いです。ただ、この二つの島は長さ三キロの砂州によって常時つながっているので、一つの島と言えないこともないです。カルカ軍の記録によると、レムの施設があったのは北の島。カルカ軍はそれを突き止めた後、電磁パルス攻撃によってレムのコンピューターを破壊しました。ただ、上陸はしていません」
僕はアーニャの方に顔を向けた。
「アーニャさんは、その作戦に参加していましたか?」
「ええ。当時私は《光龍》を指揮していたわ。章白龍は《水龍》、そしてこの《海龍》は王が指揮していた」
「王さんって、この前の戦いで指揮を取っていた……」
「そうよ」
「なぜ、その時に上陸をしなかったのですか?」
「こちらの艦隊もかなり損傷を受けていたので、上陸をする余裕がなかったのよ。戦果確認にはドローンを使ったわ」
僕はナージャの映っているモニターに目を向けた。
「ナージャさん。あなたはまだ生まれていなかったと思いますが、その時の事をレイラ・ソコロフさんからどのように聞いていますか?」
『祖母の話では、施設の中が突然真っ暗になったそうです』
その辺はこの前聞いたな。
『ただ、施設は地下七階までありまして、地下二階にあったメインコンピューターは完全に破壊されていたのですが、地下五階から下の機器類は生きていました。もちろん、そこの機器類はただの機械でレムの意志はありません』
「どんな機械がありました?」
『医療機器や土木機械、工作機械。そしてスキャナーとプリンター』
プリンター!?
『祖母達は、そこにあった医療機器とスキャナーを使って、自分たちが完全にレムから切断された事を確認したのです』
「プリンターはどこにありましたか? それとカートリッジは?」
『プリンターは地下七階です。カートリッジもそこにありました。ただ、カートリッジはほとんど残っていなかったそうですが』
そうか。盗んだカートリッジをベイス島に運び込んだのは、そこにプリンターがあったからだな。
そうなると、僕たちの目的は地下七階。
「地下施設の構造は分かりますか?」
『それに関しては、祖母からデータを預かっています。今から、そちらに送りますね』
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「ナージャさん。データありがとうございます」
『いいえ。お役に立てて光栄です』
「それと、もう少し聞きたいのですが、ナージャさん達がベイス島を引き払ったのはいつ頃ですか?」
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『ええ。ですから、リトル東京から武器供与を受けて防衛体制を整えています。近いうちに軍事顧問も来てくれる事になっています』
リトル東京から軍事顧問。まさか、相模原月菜も来るのかな? ミールや芽依ちゃんとケンカにならなきゃいいけど……
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