上 下
523 / 848
第十三章

隊員宿舎2(回想)

しおりを挟む
「すみませんね。急に呼び出したりして。実は隊長から緊急に頼まれた事がありましてね」

 何があったのか? と二人が尋ねると、小淵はタブレットを差し出した。

 タブレットの画面には一人の中年男性の顔が映っている。

「小淵君。この人はカルル・エステスの家を訪問した人物の一人だったね」
「そうです、矢部さん。名前が分からなかったので、リストには名称不明と記しておいたのですが……」

 リトル東京の人口はかなり増えてきたが、そのほとんどがナーモ族や亡命帝国人などの現地人。

 母船から降りてきたコピー人間はそれほど多くない。

 しかし、全員の顔と名前を覚えられるほど少なくはなかった。

 なので、このように顔を見ただけでは名前の分からない人物がいてもおかしくはないのだが……

「隊長がこの男の顔を見たとたんに、ひどく狼狽ろうばいしまして……」
「狼狽? あの隊長が……」
「この人物が何者か、調べてほしいと言ってきたのです。なんでも隊長の古い知り合いに顔がよく似ているというのだけど……」
「隊長も人使い荒いな。俺達は探偵じゃないのだよ。ねえ、晶ちゃん」
「私、隊長のためなら、探偵でも隠密でもやります」
「おいおい……晶ちゃん」
「矢部さんが協力したくないのなら、協力しなくて結構です。私と小淵さんだけでやりますから」
「いや、別に協力しないとは言っていないけどさ……なんで君はそんなやる気満々なのかな? ひょっとして、隊長に惚れたの? ダメだよ。隊長は婚約しているのだから」
「別に恋愛感情があるわけじゃありません。私、隊長の役に立ちたいのです」
「はい、そうですか。なんで、隊長ばかりモテるんだろうね。ずるいよ。そのくせ、俺がちょっと女の子にちょっかいかけると、すぐに怒るんだから……」

 それを聞いて小淵はあきれ顔に……

「矢部さん。あなたのやる事はちょっとどころの騒ぎじゃないでしょ。この前だって『マッサージして上げる』とか言って森田さんの背後から胸を揉んだりして、隊長に射殺されそうになったのを忘れたのですか?」
「胸を揉んだぐらいでそんな怒らなくても……ねえ、晶ちゃん……ひい!」

 一瞬の早業で橋本晶の抜いた日本刀が、矢部の首筋にピタっと張り付いていた。

「私に同じ事をしたら、隊長の手をわずらわせるまでもなく、私の手で矢部さんを三途の川の向こうに送って差し上げますのでお気をつけ下さい」
「気……気をつけます」

 刀を鞘に納めた橋本晶に、小淵は困惑気味に言う。

「橋本さん。お気持ちは分かりますが、できれば護身用具はテザー銃か何かにしてもらえませんか。日本刀を使われては、後で掃除が大変なので……」
「ああ! 申し訳ありません。小淵さんのお部屋を血で汚してはいけませんね。次からは気をつけます」
「俺の命より、掃除の方が大事なのか!?」
「はい」「そうですけど、何か問題でも?」

 二人にあっさりとうなずかれて、矢部のリアクションは硬直してしまった。

「さて。どうでもいい話は、このくらいにして本題に入りましょう」
「どうでもいいのかよ」

 矢部のどうでもいいつぶやきを無視して、小淵は話を続けた。

「隊長からやっとの事で聞き出したのですが、この人物と似ているという隊長の古い知り合いの名前は矢納やなというそうです。それ以外の情報はもらえませんでした。今は話したくないと言って……」
「それっぽっちの情報でどうやって探せと……小淵君。隊長には無理だと伝え……」

 矢部のセリフをさえぎって橋本晶が意外な事を言う。

「私、この人知っています」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

処理中です...