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第十三章

酒は心の痛み止め 1

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 幽霊? いや、そんな非科学的な……でも、魔法使いとか陰陽師とかいるのだから、幽霊がいてもおかしくないか。

 とにかく……

「Pちゃん! あかりを!」
「はい。目からビーム!」

 いや、普通に部屋の灯りを点けてくれれば……

 てか、目のサーチライト使う度に、いちいちそれを言うな。著作権法違反になるぞ! 

「芽依様。こんなところで、どうなされたのです?」

 ん? Pちゃんの目からビー……サーチライトに照らし出されたのは、着脱装置の前でうずくまっている芽依ちゃん。

 目に涙を浮かべてどうしたのだ?

「芽依ちゃん。どっか痛むのかい?」
「北村さん!」

 わ! 突然、芽依ちゃんが抱きついてきた。

「メイさん! カイトさんに抱きつかないで下さい。カイトさんはあたしのです」

 そう言いながら、僕と芽依ちゃんを引き離そうとしたミールをPちゃんが羽交い締めにする。

「ご主人様は、ミールさんのものではありません」
「Pちゃん離して! ていうか、なんであたしの邪魔はして、メイさんの邪魔はしないのですか!?」

 やばい! 頭がパニックに……

「芽依ちゃん。落ち着いて! 落ち着いて!」

 ようやく、落ち着いたのか芽依ちゃんは僕から離れた。

「すみません。北村さん。取り乱してしまって」
「いったい、どうしたの?」
「私……《海龍》に戻ってから……自分のやった事が恐ろしくなって……」
「恐ろしくなった? なにが?」
「私……リトル東京にいたときは、矢部さんの事、本当に嫌いでした。殺意を覚えたことだって何度も……」 

 まあ、当然だな。

「でも、今になって、何も殺さなくても良かったのではないかと……昔は一緒に戦った仲間だったし……戦闘中に助けられた事だって……それなのに私……怒りに我を忘れて……気が付いたら、矢部さんを……」

 これは……僕の失敗ミスだ。

 芽依ちゃんが、こうなる事ぐらい予想できたはず……

 本来の芽依ちゃんは優しい女の子。人を殺して平気でいられるはずがない。

 それでも、見ず知らずの帝国兵ならなんとかなっていたが、以前は仲間だったはずの男を殺したりしたら……

 それなのに僕は……芽依ちゃんは矢部を憎んでいるから、平気で殺せるなどと錯覚していた。

 そんなはずがない。僕だって《マカロフ》で矢納課長をすぐに殺さなくて、結局、僕がぐずぐずしている間に成瀬真須美の手で殺させる事になってしまったが、あの時、僕は殺すことを躊躇ためらっていた。

 見ず知らずの人間を殺すのと、自分に深く関わった事のある人間を殺すのとでは重みが違う。

 そいつが、どんなに嫌な奴だったとしても……

「メイさん」

 ミールが芽依ちゃんの肩をポンと叩いた。

「ミールさん……」

 ミールは芽依ちゃんにニッコリ微笑んだ。

「こういう時は、飲みましょう」
「え? なにを?」
「もちろん、お酒」
「え? なんでお酒が?」
「頭が痛い時は、痛み止めのお薬を飲むでしょ。お酒は心の痛み止めです」
「でも、お酒は身体に良くないのでは……」
「少しぐらいなら大丈夫ですよ。カイトさんは、ちょっと飲み過ぎですけど……」

 飲み過ぎ!? そんな事はないぞ!

「それとも、メイさんは飲めないのですか?」
「いえ……何度か飲んだことありますが、私は飲むと記憶が飛んでしまって……」
「ちょうどいいじゃないですか。お酒を飲んで嫌な記憶は飛ばしちゃいましょう」

 いや待て! 酒で記憶が飛ぶというのは、そういう意味じゃなくて……
 
「で……でも、確か戦闘でお酒の瓶が割れて……」
「そうでしたね。Pちゃん。お酒はもう残ってないのですか?」
「残っていますよ。ご主人様が、隠し持っているお酒が……」
「Pちゃん。なぜ知っている!? は!」
「ご主人様。やはり隠し持っていましたね」

 はめられた。
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