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第十三章

シンクロイジメ

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「北村海斗様。ドローン五号機がレーダー波をとらえました」

 僕にそう報告したのはPちゃんではない。《水龍》の人工知能ロンロンだ。

 なぜなら、僕と芽衣ちゃんは作戦の都合上 《水龍》に移ったら……

 ミールとPちゃんには《海龍》に残ってもらっている。それだけでなく、元々 《水龍》に乗っていたナージャにも 《海龍》に移ってもらった。

 ただでさえ狭い《水龍》に、ロボットスーツをまとった僕と芽衣ちゃんが乗り込んでしまったので仕方ない。

「なんなら、私が向こうへ行ってもよかったのだぞ」

 そう言ったエラを、芽衣ちゃんがギロりとにらみつける。

「あなたはダメです」
「なぜだ?」
「あなたは《海龍》へは行かない事を条件に、同行を認めたのですよ」
「それは、分かっているが……」
「なにか《海龍》に行きたい事情でもあるのですか?」
「いや……今朝、甲板で朝食を取っている時に、ふと《海龍》の方を見たら、可愛い男の子がいたので、会ってみたいなと……」

 やはり、ミーチャに目を付けていたのか。

「ダメです。あなた自身は何もしていないかもしれませんが、あなたのコピーがあの子に非道ひどい事をしたのですよ」
「私のコピーが……なるほど、何をやったのか、だいたい想像がついた。それでは仕方ないな」

 物分かりが良すぎる?

「エラ。僕からも聞きたい」
「何かな? 司令官殿」

 司令官殿? まあ、間違ってはいないが……

「君が見たというのは、ミーチャ・アリエフという元少年兵だ。今は帝国軍を脱走して僕の庇護ひご下にあるのだが、帝国軍にいる間に面識は無かったのか?」
「面識はない。面識があったのなら、あんな可愛い子を忘れるはずがない」
「なるほど。ミーチャは君のコピーから非道い事をされていたと、芽衣ちゃんが言ったが、それだけで何があったのか分かるのか?」
「だいたい想像がつく。電撃で痛ぶって楽しんでいたのだろう」
「君は、それと同じ事をしたいとは思っていないのか?」 

 一瞬、エラは答えに詰まった。内心はそういう事をやりたいという願望があるのだろう。

「確かに、そういう事をしたいという衝動はある。だが、本当にそんな事を実行したりはしない」

 本当かな? 内心はやりたくて仕方ないのだと思うが……

「とにかく、そういう願望があるのは認めるが、決して実行したりはしない。少なくとも、今の私は」

 私は?

「プリンターから出力されたばかりの私は、分別のないガキだった。だから、自分の衝動を押さえられなかったが、大人になって私も分別を身につけてそういう事はしなくなった」

 分別があったんだ。

「分別のある大人なら、カップルがいちゃついているだけで暴行したりはしないぞ」

 エラは一瞬言葉が詰まった。

「まあ……たまに、衝動的に人に電撃をやってしまうが……ホテルでの一件は悪いと思っているぞ。司令官殿」

 悪いとは思っていたんだ……

「だが、私以外のコピー達は大人になってもまったく分別を身につけない。ガキのままだ。それどころか、同じコピーである私をいつも見下している。後で分かったが、奴らは互いの精神をシンクロできるらしい。一人だけそれのできない私を見下していたのだ」

 一人だけLINEのできない子を仲間外れにするようなものだな。

 テレパシーいじめ……あるいはシンクロいじめというべきか。

「レーダー波の発生源、特定できました。《アクラ》に間違えありません」

 ロンロンの声に、僕はハッと我に返った。

 いけない、今はそれどころじゃないな。
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