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第十三章

ハイド島2

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 マオ川の川面を小舟が漂っていた。《海龍》の救命艇だ。
 
 乗っているのは二人。二人とも潜水服を着ている。顔はヘルメットに隠されて見えないが、ミールとキラの分身体だ。

 分身体はカメラに映ると、正体がばれてしまうので、このように全身を隠せる潜水服をまとったわけだ。

 潜水服を着せた理由はそれだけではない。《水龍》と《海龍》はやはり沈んでいて、この二人は潜水服を着て命からがら逃げ出したという状況を装うためでもあった。

 程なくして、救命艇はハイド島に到着。二人は上陸した。

 残念だが、二人から電波が出ているとフーファイターに探知されてしまうため、今回はカメラを持たせる事はできなかった。

 なので、報告は二人の口から聞くしかない。

「カイトさん。フーファイターを見つけました」

 ミールがそう言ったのは、上陸して十分ほど経ってからのことだった。

「最初は木々の向こうにいるのをチラっと見ただけでしたが、その後は直接見ないで、鏡に写して確認しました。間違えありません」

 ミールは地図の一カ所にレーザーポインターを当てる。

「この辺りです。今ところ、あたしもキラも気が付いてないフリをしています」
「よし。打ち合わせ通りに演技を」
「はい」

 ミールとキラは書類を広げて見つめた。

 これは先ほど、Pちゃんが書いた脚本。

 今、ハイド島に送り込んだ二人の分身体が、この脚本を読み上げているはずだ。

 しかし、何を読み上げているのだろう?

 作戦テーブルの上に置いてあった予備の脚本を手に取る。

 どれどれ……帝国文字で書かれているな。

 翻訳ディバイスをかざした。

○ ハイド島の森・昼

 ミールとキラ、森の中を並んで歩いている。

 木々の隙間から、フーファイターの姿が見える。

 二人はそれに気が付いていないかのように会話をする。

キラ「師匠。どうやらここは、無人島のようです」
ミール「そのようね。助けを呼べないかしら? 通信機は持ってこられなかったの?」

 キラはここで首を横にふる

キラ「潜水服で脱出するのがやっとでしたからね」
ミール「そうね」
キラ「わたし達、もう終わりでしょうか?」
ミール「気をしっかり持って。キラ」
キラ「でも《水龍》も《海龍》も沈められ、カルカとも連絡がとれない。仲間はみんな死んでしまった」
ミール「やめなさい! あたし達だけになっても、強く生き延びるのよ」
キラ「しかし……この先どうやって……」
ミール「この服って、水に潜れるのよね?」

 キラ、無言で頷く。

ミール「もう一度潜って、潜水艦に残してきた金貨を回収するのは無理かしら?」
キラ「もう諦めるしかないでしょう。潜るには深すぎます」

 
 おいおい……僕の事は心配しないのか?

 いやいや、これはミールが書いたんじゃなくて、Pちゃんが書いたのだったな。

 だとすると、ミールはこの脚本通りに演技するだろうか?

 ミールの持っている脚本を後ろから覗くと『金貨を回収するのは』が赤線で消され、ミールの手書きで『カイトさんを助けるのは』に修正されている。

 不意にミールが僕の方を振り向いた。

「カイトさん。芝居は終わりました」
「お疲れさん」

 さて、二人の会話を聞いて矢納課長はどう思うか?

 まんまと騙されるか?

 演技だと気づくか?

 とにかく今は……

「二人とも、さり気なくフーファイターから離れてくれ」
「はーい」「了解」

 それからしばらくして、キラが僕の方を向いて言った。

「フーファイターが我々の後をつけている」
「なに?」
「私の分身体の左腕には、腕時計に偽装した鏡をつけている。時間を見るふりをして後ろの様子を見ていたのだが、フーファイターは地面から一メートルほどの高さに浮いて音もなく我々の後ろをつけている」

 やっかいな……いやこれはチャンスかも……

 僕は地図の一カ所にレーザーポインターを当てた。

「二人とも、この場所に向かってくれ」
「はーい」「了解」

 僕はPちゃんの方を振り向いた。

「Pちゃん。この辺りにいるドローンを向かわせてくれ」
「はい。ご主人様。三号機と七号機を向かわせます」

 
 
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